『チャイルド44 下巻』 トム・ロブ・スミス 著/田口俊樹 訳 | 今日もこむらがえり - 本と映画とお楽しみの記録 -

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備忘録としての読書日記。主に小説がメインです。その他、見た映画や美術展に関するメモなど。

 

 

 

上巻ですっかり引き込まれたので、その勢いで
下巻も一気に読了したかったのですが、珍しく
用事がたて込んでいて通勤時間と昼休み以外に
なかなか読書に時間を裂けず、じりじりしながら
ようやくミッションコンプリート。

近年読んだ海外もののミステリーは、上巻で
グイグイ引っぱられるものの、下巻で急に迷走したり
ファンタジーに逃げたり、要するに上巻で風呂敷広げ
すぎて収拾つかず力技で丸め込む感が強い傾向にあったのですが、こちらはそんな心配無用、
むしろ更にスピード感あがり、全ての点が見事に
結末へと収束して寸法ミスなくぴったり蓋が閉まる
感じがお見事で、そういう意味でも読後感気持ちよかったです。

上巻の冒頭で書かれた30年前の大飢饉に見舞われた
貧しい村での残酷だけれどその当時にはありふれて
いた事件が、重要な意味を持たないわけがない
ので、最初から犯人の目星はつけていましたが、
その推測が正解だとして、なぜ猟奇殺人犯となるに
至ったのかと、主人公レオがどうやってそこに
辿り着くんだろう、と興味深く読んでいましたが
思いがけないトリックが隠されていて、思わず唸りました。

下巻では、追っ手を際どいところでなんとか交わし
ながら、どんどん真犯人に接近していくのかと
思いきや、逆境に次ぐ逆境で、また捕らえられて
しまうし、このままでは志半ばで死んでしまうんじゃ、、、
とつい本気で心配になってしまいました。
実際はレオが主人公の続編もあって三部作と
なっているのを知っているので、まぁどうにかなる
んだろうな、とは思うもののいかにもどうにもなら
なさそうな状況にどんどん追い込まれるのでハラハラ。
そんな苦境を、ご都合主義のウルトラ技を使わず
乗り切る著者の技量に感服です。

それにしても何処までもレオとライーサを
追い詰める
元部下のワシーリーの執拗さと、捻れまくった
レオへの羨望と偏愛がキモくてしかたなかったです。
全編通して、どうにかこいつ死んでくれないだろうか
とばかり思ってました^_^;。

事件が収束し、レオとライーサは再びモスクワへ
連行されます。処刑を覚悟していましたが、
彼を陥れたかつての上官は逮捕されて失墜しており、
想定外の昇進を断ったレオはスターリンに代わった
フルシチョフ政権の元、新しい部署の設立を希望
し引き続き、モスクワで自分の信じる方法で
祖国へ尽くすことを選びます。

外野としては、いつまた味方が敵と、正義が悪と
一瞬で転覆しかねない国に留まるよりも西側諸国
に亡命して、ライーサと平和で幸せな生活を、、、と
願ってしまいますが、亡命したからといって心から
安楽できるわけもなく、あくまでも祖国と
国民を愛するのが、レオらしさなのだろうなぁと。

最後に夫婦で孤児院を訪れるシーンがあり、
レオにとっても、子供を産めないライーサにとっても、
姉妹にとっても救いとなり得る、希望をたたえた
素晴らしいエピソードではありますが、個人的には
アンドレイの小さな娘の今後がどうしても
気になりました。