夏休みに食べたモノ 3「ピザ」 | 曽根賢(Pissken)のBurst&Ballsコラム

曽根賢(Pissken)のBurst&Ballsコラム

元『BURST』、『BURST HIGH』編集長の曽根賢(Pissken)のコラム

[鬼子母神日記]

●巻頭いつのまにやら連載
「我らの時代の墓碑銘を描く画家――その淫蕩する光線」
[第10回]

佐藤ブライアン勝彦●作品




――光が見えだしてから、のめり込みすぎて精神と体に弊害が出て来てしまった。
絵を1枚完成させ、絵のネタでも探しにと青山の「ワタリウム」でポストカードを見ていた時、空間がねじれ目眩(めまい)がおきた。
まずい! と思いなんとか外へ出たが、入り口を出た瞬間に倒れてしまった。
壁にもたれながらじっとしていると、左腕に痙攣までおきはじめ体に力が入らない。
たまらず、近くを歩いていた人に救急車を呼んでくださいとお願いをした。
その人は救急車が到着するまで大丈夫ですか? と声をかけてくれていた。

その後、救急車に乗ったまでは記憶にあるが、気付いた時は病室だった。
目にライトをあてられ「瞳孔が開いています」と聞いた時は終わったなと思った。
その後、点滴をし、医師に話を聞くと「筋緊張性目眩」という診断だった。
長時間同じ姿勢でパレットを持っていたのが原因らしい。
それからは机をパレット代わりにしている。
(今の机で5代目くらいだろうか)

また、強迫神経症も患った。これが1番辛かった。
当時アパートの2階に住んでいたのだが1階まで階段を降りると「鍵は閉めたのか?」と何度も戻ってしまい、さらにひどい時は駅からでも戻ってしまう。

「自分では最高の絵が描けたと思っても、誰も俺の絵を知る人はいないのか、もし火災にでもなったら人目にふれず絵が燃えかすに・・・・・・」
などとネガティブな考えが頭をもたげ、部屋の鍵のみならず、仕事へ行く際にはコンセントも外しだした。
これは以前コンセントにほこりが溜まり、そこから火がでる映像を見てしまった為だ。

そんなある日、ついに俺にとっての「Xデー」が来た!
なんと椅子に上り、電球を外そうとクルクルと回しはじめだしたのだ。
その瞬間、一体俺は何をやってるんだろう? と怖ろしくなり、すぐに近所にあった総合病院の精神科に電話をした。
診断の結果、強迫神経症との事だった。しばらく絵を描くのを控えて下さいと――続く。
(勝彦●文)




9月10日(土)鬼子母神は晴れ。今日明日と、裏の「大鳥神社」のお祭り。

夕方、『ザ・ネッシー タイラー・ロックの冒険4』ボイド・モリソン(竹書房文庫)を読了。

滅多に〈エンタメ小説〉を読まない私が、なぜ図書館の新刊コーナーで同書上下巻を手にしたかと云えば、それは小学生時代「ネッシー博士」を自称し(2年半かけて写真&イラスト入りの『我がネッシーに関する覚書』と題した張り混ぜノートを3冊編纂)、将来はむろんスコットランドのネス湖に移住して「この手でネッシーを釣上げる」ことを夢見ていた男なのだから、なんであれ「ネッシー」の文字を見過ごすわけにはいかなかったのだ。

話はダーウィンとネッシーの遭遇から始まり、ナチスの過去の遺産である生物兵器を巡って、主人公と敵が世界中を追っかけっこし(この部分が全編の50分の49を占める)、最後にネス湖で両陣営が、ネッシーをいたぶりまくるという内容。

作者はハリウッドでの映画化しか求めておらず、全編が徹頭徹尾「シナリオ原稿」である。
「ネッシー」と題しながら、ネッシーが出るのは序章と最後だけ、それもネッシーを船の甲板にまで上げておきながら、そのルックス描写はおそるおそるで曖昧。
落ちはまさに子どもだまし。
なによりネッシーの体長が、たった10メートルほどとは何事だ。

いやはや、この『ネッシー』同様、映画『シン・ゴジラ』はひどかった。
ただしゴジラの造形は「シン・ゴジラ」にとどめを刺す。
それを『キネマ旬報』の表紙と、見開き1枚のスチールで確信したからこそ、苦手な映画館へ入ったのだ。
(映画を観たのは8月9日。帰省直前に池袋で)

ほぼ15年ぶりに自分でチケットを買って映画館で観た「怪獣映画」は、途中何度も睡魔に襲われるほどかったるく、恐くも笑えもしなかった。
これは前代未聞の、大作「ト書映画」だ、と嘆息したのみ。

いったいぜんたい、作り手が「主役」とその魅力をないがしろにしている。
そしてドラマのト書(設定・説明)部分ばかりを描いている。
つまり、履き違えたリアルを標榜するあまり、怪獣映画の「荒唐無稽のダイナミズム」を真っ先に扼殺している。
(ただし、ゴジラを成長(?)させるアイデアは秀逸だった)

とにかくゴジラを出ずっぱりにしろよ。
なぜ、途中でゴジラを1週間(?)も立ち往生させるんだ(ラストも同様)。
それと俯瞰描写が長すぎる。シリーズ1巨きなはずのゴジラが、コケシに見えるじゃないか。
また、役者は「群衆」以外、せいぜい10人で十分だろう。

なにより、いきなりのゴジラ首都上陸は、ドラマツルギーの初手として言語道断である。

まずゴジラは長崎に上陸せねばならない。そして、そのまま山陽道を縦断蹂躙して(むろん広島の原爆ドームを踏みつぶして)、やがて京都御所を焼きつくし、大阪城、名古屋城を破壊してから、ようやく首都進出、皇居を目指さねばならない。
そもそもゴジラは、田んぼを歩き、山河湖を越え、茶畑やキャベツ畑を踏みにじって「上京」しなければならないのだ。

そして皇居寸前で、米軍の「新兵器」によって東京湾へ追い立てられ、入水するように海へ沈む。
「これまでの死者並びに行方不明者の数100万人超」のテロップ。
東京の焼け野原に昇る朝日に向かって、国土復興を誓う男女。

で、ラストは満を持して、三陸海岸から再度ゴジラ上陸。
ゴジラ見得を切り、咆哮――。
海女の手からアワビが落ちる。
その美しい少女の顔のアップ。
間髪入れず「終」の文字。
なお咆哮は続く――エンド・ロール。

これが正解だ。

ちなみに丸谷才一は「ラの研究」と題するエッセイにて、本邦の怪獣の名前にラがつくことの多いことを上げ(ゴジラ、モスラ、ガメラ、ミニラ、ガバラ、キングギドラ、ジグラ、ゴモラ、ゲスラ、ベムラー、アントラー、ガボラ、ヒドラ、ガゼラ、エトセトラ)、まず、米文芸評論家のレスリー・フィードラーの説を引く。

フィードラーは著『フリークス』にて、怪獣神話はどんなふうに生まれるかを論じ、フロイトの説を引いて、こう言う。
「フロイトは、怪物的なものに関する我々の基本的な感覚は、生まれて初めて女性器を見たときに生ずる、と述べたが、むしろ、大人の男性器を見た子どもは、それを怪物として、フリークとして意識するのではないか」と。

そして丸谷はエッセイを、こう〆る。
「怪獣作者たちの心の底には、あの梵語『魔羅(マラ)』のラが、暗くそして巨大に位置をしめてゐるのではないでせうか」と。

『シン・ゴジラ』の作り手たちの心の底の魔羅は、あんな程度の手慰みで済むほど小さいのだろう。
その男根まで小さいとは言っていないので、念の為。
それはお互い様だ。


断酒6日目。
祭を覗くこともせず(呑みたくなるので)、夕食後、8時に早々と就寝。



――8月10日(水)宮城県大崎市古川は晴れ。

夜、実家近くのチェーン・パスタ屋で1時間ほど、親父が死んだとき以来24年ぶりの「兄弟会議」を開く。
(マサキの家族も実家に来てくれたので、いっとき中抜けするだけにし、町の呑み屋に行くことを止したのだ)
議題は「母と家」について。
最初からシビアな話となり、私とジュンは意気消沈し、マサキの明るさに救われる。

が、写真のピザが、なんとも淋しい。
(他に頼まなかった。モノ頼めば唇寒しといった雰囲気が場にあった)
これが初の「兄弟酒」の肴か。
冷凍食品をチンしたようにも見えるな。

長男は手をつけなかった。
がしかし、母の耄碌と死後を憂い、また互いの暮らしを憂う「兄弟酒」には、ふさわしいと思えた「モノの味」が、今も舌に残っている。

結局、ピザは丸いまま〈オミヤ〉となり、実家で待っていた甥っ子たちが食べた。



●右がジュン(二男/49歳/自衛官)、真ん中がマサキ(末っ子/45歳/バス会社勤務)。左の私(長男/52歳/無職)は当然昼間から呑んでおり、ここでもほぼ1人でワインを2本空ける。写真は担当のウエイトレス。私がいつものように「お姉さん、お綺麗だねえ」と呆けた口をきいた直後。勘定はおそらくジュンが払った。


[9月19日雑司が谷鬼子母神「みちくさ市」に出店]

「みちくさ市」とは鬼子母神参道で行われる「古本」バザー。
(午前11時より午後4時まで)
『ブルーズ・マガジン』の石丸元章さんと共に、曽根がシングル小説を物販します。

尚、ブースの場所は、今週末に改めてアップします。



9月11日(日)鬼子母神は朝方雨、のちずっと曇天。

起床6時。
今朝も7時前から(おそらく練習なのだろう)お囃子が聞こえる。
バナナと冷奴に、牛乳割のヨーグルトという、我ながら妙な――と云うか老人の病人食のような――朝食をすまし、煎茶を淹れ、板チョコを齧りながら読書。

本は図書館から借りてきた、分厚い2段組の『インタヴューズ Ⅱ――スターリンからジョン・レノンまで』(クリストファー・シルヴェスター編/文藝春秋)。
作家のインタヴューでは、フィッツジェラルド、ベケット、ヘミングウェイ、ノーマン・メイラー、ナブコフ、バロウズなどがある。

昼食は、納豆に白瓜の糠漬け、ネギ入り煎り卵、玉ねぎと揚げの味噌汁で炊きたてのご飯を。

午後2時、子ども神輿の声が七曲がりの路地に入ってきた。
廊下へ出て、1年中開けっぱなしの小窓から見下ろす。
そろいのハッピを着た子どもたちの数を数えると、ちょうど10人。
(男子4人女子6人。大人は7人)
子どもたちは皆小学1、2年生ほどで、「わっしょい」と声こそ上げているが、自分のしていることを理解できないのだろう、視線も足取りもあやふやである。
しかし懸命に子ども神輿は、七曲がり荘前の角を曲がって行く。

部屋に戻り、熟考すること1分。
岩手の醤油屋の若旦那・城戸さんから米醤油味噌と一緒に頂いた「ビール券」が残っている。
私は決然と立上ると、酒を買いに出た。
そして目白通りにある酒屋へ向かった。
そこならビール券のおつりをきちんと払ってくれる――。

目白通りに出た途端、ふと思いつく。
「そうだ酒を買う前に、散歩がてら、久しぶりに御神木へ挨拶してこようか」 
そこで目白へ向かって、ぶらぶらと歩きだした。
学習院の脇を通り、目白駅を越し、しばらくして左に折れる。
150メートルほど歩くと、高級住宅街を通る路の真ん中に、「私の御神木」である樹齢100年を超す欅(けやき)が、〆縄をされて立っている。
近衛邸の敷地にあったとされる欅だ。

その木を、今より20年前、32歳のころより、勝手に「私の御神木」とさせてもらっている。
当時、南長崎に住んでいた私は、会社へスクーターで通勤していたのだが、この路が近道となっていた。
通ううちに自然と、木の好きな私は、その欅に願うようになっていた。
「どうか、あと1号、バーストをつくらせてくれ」と。
編み始めた『BURST』が、10号続くのさえ、夢のまた夢に思えていたころだ。
嵐の晩、泥酔して木に抱きつき願ったことさえあった。

『BURST』はその後、姉妹誌や増刊号を含め、ざっと150号近く続くこととなった。
最初その御神木を、私は「男神」と思っていたが、初めて恋人を連れていったとき、木を抱いた恋人から「わたしはこの木、女だと思うな」と言われ、その瞬間から「女神」となった。
確かに、そのほうが抱くのに都合がよい。

御神木を見るのは、今年の2月2日の深夜に、酔っぱらってガール・フレンドと来たとき以来だった。
(2月の『ガール・フレンド』と題したブログでは、御神木を見にいったことは省略してある)
あの夜の御神木に葉はなかったが、今日の御神木はこんもりと葉におおわれている。
しかし夏が終わり、その葉はうっすら黄みがかっている。

私は立止まり、御神木を見上げながら「どうにかやってます」とつぶやくと、すぐに引き返した。
願い事は多すぎて、口にするのが恥ずかしかった。
雑司が谷へ戻ると、ビール券で安焼酎を買い、部屋へ帰った。


夜の8時に、酒と肴を手に、七曲がり荘裏の「大鳥神社」の祭りへ顔を出した。
銀杏の大木が数本ある小じんまりとした境内に、10ほどの夜店が立ち、若い父母と、小学生がたむろしていた。
お神楽の舞台前にしつらえた長椅子の端に座り、私は紙袋に包んだ酒瓶をラッパ呑みする。
中身は焼酎の麦茶割だ。瓶半分の焼酎は、すでに部屋で呑んでいた。

胸ポケットに入れたミックス・ナッツを齧り、麦茶割をすすり、お神楽の舞台をぼんやりと眺める。
笛と太鼓に合わせ、長い白髪をふり乱した天狗が、なにやら憤ったように足音を鳴らし踊る。
話どころか、その所作に、どんな意味があるのかさえ解らないが、不思議と退屈は感じない。
見渡すと、お神楽を観ているのは、私ひとりだけだ。
それも、なんとなく裕福な気分にさせる。

私は膝の上で、薄い箱を開けた。
さっきピザ屋で買ってきたマルゲリータ(380円)だ。
長方形が斜めに切られてある。
そのまだ温かいピザを口にしながら、またじっとお神楽を観る。


舞台が終わったのが8時45分。
祭は9時で終わりだが、小学生たちはまだ帰らず、夜店の片付けも始まらない。
が、確実に雑司が谷鬼子母神の夏は終わった。
私は立上ると、ゴミを棄て、神社を後にする。
まだビール券が1枚残っていたので。


おやすみなさい。
読んでくれてありがとう。
よい夢を。


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●詳細は8月1日のブログ「緊急『The SHELVIS』制作メンバー募集」にて。
「あなたよ、手を上げてくれ!」



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