曽根賢(Pissken)のBurst&Ballsコラム

元『BURST』、『BURST HIGH』編集長の曽根賢(Pissken)のコラム


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(Aよりのつづき)

 

●12月24日のパンタのクリスマス・ライブにて。左から主催者の編集者田原、PANTA、おれ、ギターのたくみさん、やはり主催者であるカメラマンのシギー(Tシャツはイベント限定)田原シギーおれは同い年の52歳

 

 

本年も読んでくれてありがとう。

あなたに、せめて私の詩を贈りたかったが、年末のからだが、どうにも「まあいいや」と。

で、まただが、ここはやはり田村隆一の詩を贈りたい。

(たしか去年の今のブログにも、田村の別の詩を贈ったような)

 

 

 

「きみと話がしたいのだ」

 

 

木について

きみと話がしたい

それも大きな木について

話がしてみたい

どんな木だっていい 北米中西部の田舎町の

食卓やドアになるカシの木

群馬の山のなかのニレの木

武蔵野のケヤキの木

鎌倉のモチの木

どんなに生きる場所が変ってもぼくの世界には

大きな木がある

 

不定型の野原がひろがっていて

たった一本だけ大きな木が立っている

そんな木のことをきみと話したい

孤立してはいるが孤独ではない木

ぼくらの目には見えない深いところに

生の源泉があって

根は無数にわかれ原色にきらめく暗黒の世界から

乳白色の地下水をたえまなく吸いあげ

その大きな手で透明な樹液を養い

空と地を二等分に分割し

太陽と星と鳥と風を支配する大きな木

その木のことで

ぼくはきみと話がしたいのだ

 

どんなに孤独に見える孤独な木だって

人間の孤独とはまったく異質のものなのさ

たとえきみの目から水のようなものが流れたとしても

一本の木のように空と地を分割するわけにはいかないのだ

 

それで

ぼくは

きみと話がしたいのだ

 

 

 

田村隆一詩集『誤解』より

 

 

 

午後9時25分。

「火の用心」の14人の声。

(夕方にスーパーへの道で数えた。小学生の少女5人、少年3人、あとはおばさんおじさん6人)

私は待っている。

兵庫くんを。

 

なぜなら1時間前、写真家・神蔵美子氏より、この「七曲荘」の6畳間で、映画を撮りたいと、電話があったのだ。

「よしこちゃん」よりの電話は7年ぶり。

〈お姫様〉のいうことだもの、下僕の私に是非はない。

が、お姫様のいう日程に、私はいない。

お姫様は「兵庫くんと、しゃべりたい」と言う。

そりゃそうだ。

で、呑み屋から走って帰ってきた兵庫くんは、きちきちお姫様の話をメモし、電話を切ったあと、こう言った。

「今日、給料日なんですよ。これからいっしょに『きみのなは』を観に行きましょう。池袋のあそこへ」

 

時計を見ると夜の11時。兵庫くんは明日も7時からバイトだろ。

「おれさ、あす、おふくろに帰るっていったし、帰る金しかないんだよ」

「だから、おれが給料日ですよ」

「じゃ、呑もうぜ」

「だめですよ曽根さん、『きみのなは』を観に行くんだったら払いますけど、酒ははらいません!」

かなり酔っている。

 

断り、これを書いている。

兵庫くんは隣室で寝ている。

朝8時から「100円ローソン」で働くのだもの。

 

●パンタが持ってくれているのが、セカンド7インチ小説。右端の兵庫くんより(目がひゅーとなっちゃった)のこころいき。

「兵庫尊(ひょうごたかし)はワールドに羽ばたきます! 曽根賢もそうです!

皆さまも一緒です!飛びます!HAPPY NEW YEAR!!」

 

 

おやすみ。

読んでくれてありがとう。

いい年を。

よい夢を。

 

 

[セカンド7インチ小説発売]

●前回を見てください。

 

 

 

 

 

 

 

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[鬼子母神日記]

 

 

巻頭連載
「我らの時代の墓碑銘を描く画家――その淫蕩する光線」
[第17回]

Kundalini
佐藤ブライアン勝彦作品&文

2016/collge on board

 

 

 

 

次の日の朝、ロイさんにお願いをして編集部へ電話をしてもらった。

「日本から絵を見て欲しいという友達が来ているんだが、見てもらえないだろうか?」

話を終え受話器を置いたロイさんが言うには、時間がないのでファイルを送って欲しいとの事だった。

 

「ここからは、ブライアン一人でやれ」

 

これはもう直接行くしかない! と、すぐに地図を広げ編集部の場所を確認し地下鉄と電車で行く事にした。

 地下鉄に乗ったのはいいのだが、いつもの癖で爆睡してしまった。

 しかも、どうやら僕は急行に乗ってしまったらしい。

 

ふと目を覚ましどこにいるのか確認するため、通り過ぎる駅の名前を確認すると、どうやらワールドトレード・センターへ向かうつもりがブロンクス方向へ向かっていた。

 

これはまずい! と次に止まった駅で降りた。

そこからワールドトレード・センターまで戻り、乗り換えをし、目的地のホーボーケンへ向かった。

車内の乗客から、この電車は⚪へ行くか? など質問されたが、旅行者の俺にわかるはずもない。滞在中コートのボタンなどが取れたままで、まぁ、ちょっとみすぼらしい格好だったから現地の人に間違われたのかもしれない。

なんとか駅に着いたが、道がわからないため通行人に聞くと意外と駅から近かった。ここから2ブロック先だと教えてもらった。

 

無事に編集部の入っているビルも見つかり、ドアをノックし、扉を開けると、白人の若い女の子がやってきた。

片言の英語で日本から絵を見せに来たと言うと、責任者らしき体格の良い女性、ジャン・クリス ミラーを連れて来てくれた。

日本から絵を見てもらいに来た事を話すと、ロイさんの電話を覚えてくれていて、

「さっきの電話のコ?」

「そうです。はじめましてブライアンです」と言うと、ニコニコしながら、

「こちらへどうぞ」と小さな部屋へ通された。

ドキドキしながらファイルを見せると、「OH!GREAT!」なんて言いながら、1枚1枚じっくりと見てくれた。

見終えると、彼女が、

「次の号にあなたの絵を載せるわ」

と言ってくれたのだ。

 

日本から来た甲斐があった。

そして「明日、人体改造やSMの面白いショーがあるから一緒に行かない?」と誘われたが、明日帰るんだよ。と言うと凄く残念がっていた。

 

これからお互いに連絡を取り合いましょう。

と握手をして、僕は事務所を出た。

歩道へ出た瞬間、今までの緊張が取れ、飛び跳ねて喜んだ。

「きっとあの青年は、ラッキーな事があったんだな!?」

と、誰が見ても分かる位に。

(続く)

 

 

神田、手と花にて2016122日(金)から2017115日(日)まで、伊藤桂司氏と私による初の二人展「Alligatoo Boogaloo アリガトーブーガルー」を開催しています。

http://tetoka.jp

 

 

 

 

 

1230日(金)鬼子母神は曇り。

 

私は運転免許証をもっていない。

20歳に取り、41歳で失効した。

失効する日も相変わらず二日酔いで、「まあいいや」と書きかえに行かなかったのだ。

その「まあいいや」には、「これで、人を車で撥(は)ねることはない」という、気持ちが大きかった。

 

それまでの21年間で、運転したのは30回ほどだろう。

事故こそ起こさなかったが、私は運転がヘタだった。

毎度、女たちに「ヘタだねえ」と呆(あき)れられた。

黄信号で交差点を突っ切れないのだ。

車間距離を取りすぎる。

ましてや路地はのろのろ、おそるおそる。

臆病なのだ。

なにしろ私はアクセルを強く踏めない。

つまり車を運転できない。

(死んだ親父はバス運転手、二男は戦車乗り、三男もまたバス運転手なのに)

 

いきなりなにを? と、あなたは首をかしげただろうが、いや、年末年始の運転には、十分気をつけてもらいたいな、と。

それだけ。

せめて「事故」を起こすなら、あなただけが、怪我をしたり死んでほしい。

 

(Bへつづく)

 

 

 

 

 

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[ザ・シェルビス――曽根 賢より]

 

我らThe SHELVISのセカンド7インチ小説「Shigella」を、1225日に発売(通販&店頭販売)し、その前に先行予約すると、このブログにて発表しましたが、年内にそれは無理となりましたことを、いまさらながらここにお詫びします。

 

理由はまず、我らのレーベル「BUDROLL(バドロール)」の口座をつくるのに手間取ったこと。

年末であること。

なによりわたくし曽根が、飲酒体調不良のため、いっさいの作業を放棄していたことです。

それは海より深く反省します。

 

が、しかし、そこは鷹揚にお許し願いたい。そして発送は来年1月になりますが、ぜひ予約してもらいたいものです。

以下のアドレスに必要事項を書いてメールし、口座へ1,600円を振り込んでもらえれば、1月中に発送します。

通販商品には全て署名しますが、年明け7日までに予約してくださった方には、一筆詩のフレーズを書きます。

くどいですが、なにとぞ鷹揚に、よろしくお願いします。

 

[セカンド7インチ・シングル小説]

 

●ザ・シェルビスのセカンド7インチ・シングル小説『Shigella』ジャケット写真

 

被写体:細菌学者(赤痢菌発見者)志賀潔

写真:土門拳

 

A面「親不知のしゃれこうべ」

B面「ものもらいの数珠」

限定500部/定価1,600

 

●アドレス:budroll.shelvis.sy3@gmail.com

 

――ここへ以下のことをメールしてください。

 

◎郵便番号と住所

◎名前(口座のカタカナ読み振りも)

◎電話番号

 

1,600円(発送代込み)振込先

 

◎ゆうちょ銀行

◎振込先:BUDROLL

◎記号:19020

◎番号:51338171

◎店番:908

◎普通口座:5133817

 

 

以上、よろしくお願いします。

(販売店については、年明けに告知します)

年内に予約してほしい。

景気がいいからね。

 

 

 

 

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(Aよりの続き)

 

 

それから2人で、過去の女たちの話になり、

「別れた女には幸せになってほしいなあ」と、2人で呑気に結論づけた。

Oも若いころに結婚し、子どもはできなかったが、私と違って今も仲良く暮らしている。

東大家族の御嬢様に生まれ、自身も早稲田の建築科を卒業し、一級建築士であるOの妻は、結婚後ずっと専業主婦をしており、ここ10年は「嵐」のおっかけをしているそうだ。

「ホストや、他の男に走ってくれなくてよかったよ」

子どもを作ってやれなかった負い目のあるOは、妻にやさしい。

また、昔ヤクザだったことを、未だに内緒にしている負い目もあるので。

 

「けんちゃんがさあ、かみさんには、タクワンだろうが昆布の佃煮だろうが、最低7品は食卓にあげさせろってアドバイスくれたじゃん。あれ、ありがたかったなあ。今も品数多く、いいもの食べさせてもらってるよ」

立体アートをつくり、年に2度ほどグループ展を開いているOは、こんどは料理を始めたそうで、こないだ作ったという「蕎麦粉のガレット」とやらの写真を見せてくれた。

蕎麦粉でつくったクレープみたいなもんで、温野菜と半熟卵を包んだものだった。

 

「蕎麦粉は、いい蕎麦屋からわけてもらうんだよ。あとは塩と水をてきとうに入れて、オリーブオイルで両面焼くだけ。つつむ中身はなんでもいいんだ。ソースなんていらないよ。この蕎麦粉のガレットがうまいだから」

「ふ~ん、ガレットねえ。縁日でタコヤキ焼いていたおまえが? それもタコの代わりに白菜の芯をタコと偽装してさ」

「ホンモノのタコを使うなんて、テキヤとしての矜持(きょうじ)がないんだよ」

と、Oはいつものキメ台詞を吐き捨てた。

 

ボトルを1本半呑んだところで9時となった。残っていた客は私たちだけだった。

1万数千円の勘定はむろんOが払い、そのあいだ私は手つかずの天麩羅と、牡蠣フライ2つ、煮あなごをパック詰めし、半分残ったボトルを手にして立ちあがった。

忘れず「シュウマイ弁当」の袋も。

 

外へ出る前に、Oが今夜も煙草代といって1万円をくれた。

Oはこのブログを読んだことがない(身内はたいがいそうだが)。

しかし、書かれていることは私から知っているので、毎度呑むと言う。今夜も言った。

「ヤクザはいいけど、建築士って書かないでえ」

186センチ体重100キロのOは、そのときだけ〈オネエ〉になる。

 

「洋酒を2杯くらい呑んでおひらきにしようか」とOが言う。

が、あたりにその手の店はない。

池袋まで歩こうかと、人通りのない静かな鬼子母神参道商店街を歩くと、それらしきネオン看板が眼についた。地下の店だ。

こんな場所にバーがあったんだ、と看板をよく見ずに地下へ下りた。

扉を開くと、客のいないガランとした店内には、ビリヤード台が2つあるばかり。

80年代に流行った、むかしなつかしの「プール・バー」かなと思ったが、テーブルどころかバー・カウンターさえない。

 

30代らしき店長に訊くと、酒はビールだけだという。

「それじゃあ、洋酒を買ってくるから、3人でビールをチェイサ―にしてさ、ショットで呑みながらゲームしない?」と訊くと、店長は気安く「いいですよ」と言う。

そこで私は外へ飛び出し、すぐ近くのコンビニで、なけなしの千円ちょっとを出して、漢字2文字の国産高級ウィスキー(知らない銘柄だった)を買って戻った。

 

それから3人でビールを賭けてゲームを開始した。

私もOも球突きなど20年ぶりだ。

9ボールをすることになったが、ルールなど遠に忘れている。

店長のケンさん(偶然3人ともケンだった)に教えられながら、楽しく2ゲーム遊んだ。

(もちろん2度とも店長ケンさんが勝った)

酔いすぎて、ゲーム代がいくらだったのかさえ憶えていない。

が、また遊びたい。

 

店の前で、タクシーに乗ったOと別れ、私は部屋に帰った。

無性に蕎麦が食べたかった。

私は30代から、たらふく呑むと〆に蕎麦が食べたくなる。

口の中が熱いので(特に日本酒を呑んだあとは)冷たい蕎麦をすすりたくなるのだ。

(私は猫舌なので熱い汁蕎麦やラーメンをうまくすすれず、酔っているときはイライラしてしまう)

 

近くに深夜営業の蕎麦屋はない。

が、買い置きの乾麺がある。蕎麦つゆも(酔った勢いで買っておいた)けっこう値の張る缶詰があった。

乾麺でも、うまく茹でて、しっかり冷水でしめれば、なかなかのもんだ。

シュウマイ弁当は明日までもつだろう。

 

2束を茹でているあいだに、ネギをきざみ、おみやの天麩羅の半分を皿に盛り、粉ワサビをねる。

茹であがったら手早く水にさらす。今時分の水道水は氷水なみに冷たいので嬉しい。

蕎麦はなによりも、その冷たさが命だと思う。

そう云えば、以前なにかで読んだ、古老の蕎麦打ちのインタビューで、見事な表現だなと思って記憶している言葉がある。

 

「蕎麦の魅力とは、口中を洗うような清潔感だと思います。御酒(ごしゅ)や肴で火照った粘膜と舌と喉を、冷たく、表面のかすかにざらついた蕎麦が、その熱やぬめりを『こそげとる』ことこそ、第一の魅力ではないでしょうか」

 

「こそげとる」とは、なんとも言いえて妙である。さすが蕎麦打ち名人。

確かに酒の〆で蕎麦をすすると、深酒によごれた舌がさっぱりするように感じる。

〆の豚骨ラーメンではそうはいかない。

まあ、〆に豚骨ラーメンが喰えなくなった、年寄りのたわごとだが。

20代のエロ本編集者時代は、焼酎を7合呑んでから〈ピンサロ〉で延長し、そのあとタクシーで環七「土佐っ子ラーメン」背油ちゃっちゃっ系を、汁まで呑み干していたのだし)

 

蕎麦を塗りの鉢に盛ると、まず、蕎麦湯で割った焼酎をごくり。

あとは蕎麦猪口を手にしたまま、一気呵成に蕎麦をすする。

息継ぎをするように天麩羅(ピーマン、春菊、牛蒡、椎茸)をつまむ。

うん、うまいというより気持ちがいい。

年越し蕎麦を食べるのは「長命」を願うからであるが、からだの空洞、道の汚れをこそげとる意味もあるんじゃなかろうか、とすすりながら思う。

 

今年はあと、22日の「鬼子母神みちくさ市」(古書バザー)の忘年会、24日のパンタのクリスマス・ライブ(兵庫くんと一緒に手伝う)、26日の「鬼門会」(絵描きの西巻さんとライターの小峰くんとの3人会)の部屋呑みが控えている。

その3会とも、みんなの好意により私は金を出さない(文無しだもの)。

なのに、たっぷりと呑むだろう。

〆はやはり蕎麦かな。

案外、チャーハンだったりするのだが。

 

 

おやすみなさい。

読んでくれてありがとう。

おそらく年内、もう1度、あなたにあいさつできるはず。

(来週半ばには宮城の実家へ帰る。母から金をぶんどって大家さんに溜った家賃を払わなきゃならないため)

けど、ひとまず「よい年を」。

そして、今夜はよい夢を。

 

 

 

 

 

 

 

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「鬼子母神日記」

 

※今回も佐藤ブライアン勝彦の巻頭連載は休載です。

また、私(曽根)の原稿発注が遅れたため(と云うかしてない)。

次回、乞う御期待!

 

 

1220日(火)鬼子母神は晴れ。やけに暖かい。

 

夕の5時。銭湯へいく用意をしていたところ、元ヤクザ・現建築士のOより電話。

近くまで来ているから、呑もうとのこと。

「七曲りの路地」の入口で落ち合い、先々週に続き(6日は昼食)割烹店「I」へ向かう。

その途中、Oより埼陽軒の「シュウマイ弁当」をもらう。横浜帰りらしい。

 

信号を待ちながら、「I」の少し先にある、こじんまりとした蕎麦屋(ボスYの馴染み)の蕎麦を、蕎麦好きのOがほめた。

私もそこの蕎麦が好きなので、自分の舌がほめられたような気がした。

そのとき私たちの前を、小柄で勝気らしい女子高生が、おおきく両手を振って横切った。

俊敏で愛くるしい生きもの。呆然と言葉がもれた。

「結局、ああいう娘とは、縁のない一生だったなあ」

スーツ姿のOが「ああ、そうだねえ」と苦笑する。

 

2階の「I」へ上る石の階段には、いつものように打水がされており、すべらないよう恐るおそる上る(店内にも打水がされている)。

無人のカウンター奥の座敷には、宴会客10数人がいたが、私たちの座敷(テーブル4卓)と襖を隔てた座敷に客はおらず、帰るまで私たちだけだった。

すいているのは常のことである。

リーズナブルで、いいものを出すが、場所が女子大生通り(学習院、音大、日本女子)なので、酔客が少ないのだ。

(ましてや一応割烹店だし、敷居が高そうに見えるのだろう)

 

しかし持ちビルだからか、異様に商売っ気がない。昼は12時~1時半。夜は5時~8時までしか営業をしないのだ。

(常連客は9時まで居残りさせてくれる)

割烹料理屋なのに店内にはAMラジオが流れ(春夏秋は野球中継)、畳の色は私の部屋とそう変わりはないし、壁にはシャガールやビュッフェやダリのリトグラフ(むろんナンバリング付き)が飾ってあるという、摩訶不思議な、しかし、私のとっては心地良い座敷だ。

 

働いているのが、いつもお婆さんが3人というのも、おっとりしていてよろしい。

(気短なボスYやOは、ときたまいらだつが――なにせ、みんな耳が遠く、動きがスローモーだから――そのたび私は珍しく彼らをおさえ、決まってお婆さんたちの髪型をほめる)

なにより、ここは若い男客がいないので、気がせいせいとする。

 

最初に生ビールを呑んだあと、さっそく焼酎のお湯割りにした(梅干入り)。

Oは腹がいっぱいだというので、肴を迷った。が、それでもけっこう頼んだ。

(ちなみに通しは「大根と人参のなます」だった)

 

●いかの塩から(自家製だが味はいまいち)

●〆サバ(そこらの店とは違って身をケチっておらず、ぶ厚く量も多い)

●牡蠣フライ(生牡蠣が切れていたため――お婆さんに押し切られた)

●旬の野菜の炊き合わせ(「旨いよ」と言って半分齧った栗をOが寄こした。旨かった)

●キンキの煮魚(大きくて、脂がのって「うまいにゃー!」。そして1,500円とはなんと安い! どころかキチガイ沙汰の値段だ)

●煮あなご(これは冷凍物で失敗)

●野菜の天麩羅盛り合わせ(途中でOが頼むが、結局ひと箸もつけなかった。私も)

 

落語好きでもあるOは、ここへ来る途中、神保町の馴染みの古書店で買ってきたという、そうとう古い『落語界』のバック・ナンバーを、ドサドサとテーブルの端に積み上げた。

まだ圓生が生きていたころのものだ(1冊100円)。

友人には落語好きが多い。中でもOと、エロ漫画雑誌『ホット・ミルク』編集長の高柳は子どものころからの病膏肓(やまいこうこう)だ。

(高柳は来正月も、私の部屋で私ひとりに2、3席ぶってくれるという)

しばらく落語の話をする。

と云っても、いつもの通り私ばかりがしゃべっていたのだが――。

 

「モダン・フリークス」の福田くんが主催する「笑芸人寄席」で、死体カメラマン釣崎清隆が「らくだ」をやった話。

(「らくだ」は死体噺なので、釣さんは死体カメラマンらしい〈くすぐり〉を入れていた。死斑の状態から死因はこうだとか)

こないだの同寄席で、ケロッピー前田プロフェッサーが、自分は一切しゃべらずにコンピュータ(?)にしゃべらせるという、新型落語をした話。

私が文楽の「酢豆腐」が好きだというと、故・新ん朝好きのOは、「ふ~ん、めずらしいねえ」と言った。

お互い談志は嫌い(高柳は談志狂)。

 

話をしながら、私は部屋から持ってきたセカンド7インチ小説2枚に、筆ペンで署名し、スリーブに入れ、ジャケットでくるみ、ビニールに入れた。

その2枚とファーストの3枚を手渡す。

(Oはイベントでファーストをいっぺんに10枚買ってくれたが、荷物になると私が預かっていたのだ。どうせまた10枚持ってきても要らないというに決まっているので、1枚だけ渡すことにした)

 

Oは「かっこいいジャケットだなあ」と、めずらしく素直に褒めながら、スリーブから冊子を抜きとり、その場でいきなり読もうとするので、慌てて「家で読んでくれ」と取り返し、またスリーブに入れ直した。

そこでようやく思い出した。

「そういや、このA面の最後の章で、主人公が50歳の誕生日を迎えた朝のことを書いてるんだけど、前日に前祝いしてくれて、煙草代に1万円くれたのOだわ」

「ん? あっ、そう」

 

そこで不意にOが、

「ところでこないだ、Kの店で、K(別の)とAちゃんと呑んだよ」

と口にしたのでびっくりした。

Aちゃんとは、別れた私の妻である。

2人のKは「神風コンビ」と称されていた私の元・弟分――Kの店はここずっとミシュラン2つ星をとっており、もうひとりのKは電子書籍会社の社長だ。

 

「うん、Aちゃん変わらず元気だったよ。いまの男のことは訊かなかったな」

私は20年暮らした妻と、もう12年以上会ったことがない。

しかし別れた後も、3カ月に1ぺんくらい泥酔して電話をかけてきては、「あなたを一生許さない!」と呪うのが毎度だった。が、私が携帯を失った1年半の内に男が出来たようで、新しい携帯からメールを送ったが返信はなかった。

 

私は先日、前の女であるXからメールがあり、5年ぶりに電話でしゃべったことを伝えた。

「もうXちゃん43歳になるんだあ。いい女だったのに、けんちゃんヒドイことしたねえ。でも、その件は、うまくいくんじゃないかな」

「おまえさあ、いざとなったら、でっぱってくれる?」

「いいよ」

ゼネコンと真っ向からヤクザ仕事をしているOが肯いてくれ安心した。

 

(Bへつづく)

 

 

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