本屋の仕事は、
たくさんの本の中から、お客様にぴったりの本をおすすめすることです。
そのために日頃から、新刊を読んで読んで読みまくります。
(ほかの仕事を後に回しても、ね。)
でも、そうして読む新刊作品の中に、
ああ、この本を読むことができて幸せだった!と
仕事を忘れて感動するような、
印象深い作品に巡り合うことがあります。
これ、本屋で頑張る ←わたしへの、
本の神様のプレゼントかも、と、思ったりしています。
そんな訳で1月には、
昨年1年に読んだ中で1番良かったと思う読み物を、
全く個人的な好みでご紹介しています。
2015年はこちら ・・・→
さて、2016年。
大豊作だったような気がします。(これまた、個人的に!)
✔ ぼくたちに翼があったころ
ー コルチャック先生と107人の子どもたち ー
タミ・シェム・トヴ作 樋口範子訳 福音館 本体¥1,700.
※ 2015秋の出版ですが、わたしは2016に読んだのでした。
アウシュビッツに送られる前の(そのことには触れてありませんが。)
コルチャック先生と孤児の家の子どもたちの自立を目指す物語。
✔ ジョ-ジと秘密のメリッサ
アレックス・ジ-ノ作 島村浩子訳 偕成社 本体¥1,400.
性同一障害の少年(少女)の葛藤の物語。
このテーマをこんなに柔らかく暖かに書けるなんてすごい。
✔ ぼくのなかのほんとう
パトリシア・マクラクラン作 若林千鶴訳 リーブル 本体¥1300
おばあちゃんの家の森での不思議な体験を通して、
しっくり行っていなかった母との関係に、向かい合えるようになる少年の物語。
などなど。
良い作品の多い年だったのか、
わたしのセンサーがよく働いたのか、
とにかく、これという1冊を選ぶのに候補が多くて嬉しい悲鳴でした。
個人的には、動物が存在感を示す物語に特別に惹かれます。
・・・ ほか、何でも。
なので、今回も、ぼくのなかのほんとう との間で迷いましたが、
結局、今回のわたしが選ぶ自分用の1冊は、こちらに。
レイン
アン・M.マ-ティン作 西本かおる訳 小峰書店 本体¥1,500.
主人公のローズは発達障害の女の子。
数や言葉、そしてルールに対する強いこだわりや、
パニックの発作といった生きにくさを抱えながら、
変わり者のパパとの暮らしを健気に生きています。
ローズにはママがいないのです。
ローズの楽しいとは言い難い学校生活を支えてくれるのは、
支援員のミセス・ライブラー。
そして、彼女の生活を近くで見守り、寄り添い、
困難を乗り越えられるよう手を貸してくれるのが、
パパの弟であるウェルドンおじさんでした。
そんな暮らしの中、ある雨の夜にパパが迷い犬を連れて帰ります。
レインと名付けた犬は、ローズの大切な家族になりました。
大きくて、黄色い毛で足の指7本が白くて、賢いレイン。
ところが嵐の夜にレインはいなくなり、
ローズは初めて寂しいという感情を体験します。
そして、ウィルドンおじさんに励まされ、
ローズは自分の力で動物シェルターに収容されていたレインを見つけます。
けれどもそのシェルターで、ローズは、
元の飼い主がレインを探しているいる事を知るのです。
このように粗筋を思い返してみると、
お話は、結末に向かって真っ直ぐに進んでいるのがわかります。
でも、実際にはさらにいくつかのストーリが同時進行していて、
読んでいる間、いくつものお話の筋がよじれ、絡まるのを感じながら、
ローズ(である わたし)には、まるで暗闇にいるように手探りで、
その物語を一歩一歩進むような息苦しさがありました。
児童文学ですから、この作品も結末はハッピーエンドです。
ハッピーエンドですが、
この作品のハッピーエンドにはいくつかの苦さが含まれています。
まだ幼いローズですが、ただ甘いのみではない、
ビターチョコレートのようなハッピーエンドを受け取ったように感じます。
今回、迷った末にこの本を選んだのは、
そのほろ苦さゆえだったかもしれません。
大好きだけど、でも、
もう一度読み返すなら、ずっと先にしよう・・・という気持ちにもさせる、
その意味でも印象深い一冊です。