「・・・樺沢のことですが・・・」
彼が今そばにいないことを確認して志藤はおそるおそる北都に口を開いた。
「樺沢が? どうかしたのか?」
北都はもう次の仕事の書類に目を通している。
「・・・別れた奥さんの子供をひきとることになったことは・・・聞いていますか。」
「ああ。 本人から聞いた。」
「昨日も子供が熱を出して休ませてもらったって・・・」
「有給もあるし。 こっちの仕事が大丈夫ならいい、と言っておいたが。」
「実家がすぐそばにあって・・・彼の家族の協力もあるんですが、やっぱりなかなか小さい子供を育てるのは大変なようで・・・」
ひょっとして北都が子供のことで樺沢が仕事を休んだりすることをよく思っていないんじゃないか、
と思い、何とか彼を庇いたかった。
「・・実際。 他の取締役からは。 シングルファーザーの男に社長秘書が務まるのかって・・・いう意見もある。」
北都の言葉に志藤はハッとした。
「昨日のようなこともあるだろう。 子供は二人で育てるのも大変なのにひとりで育てるのは本当に生半可なことじゃないからな。 おれについての出張も多いし、帰宅時間も読めない。 仕事うんぬんよりも子供のためにそれでいいのかと思う、」
北都がそんなことを考えていたことが少し驚きで。
「でも。 樺沢は迷惑を掛けないように頑張る、と言っている。 まあ、おっちょこちょいでミスもあるけど、元気もいいし体力もある。 明るくて人当たりもいいし。 あいつがやる、と言うのなら。 おれはこのまま秘書でいてもらおうと思っている、」
その言葉にホッとした。
「秘書は出すぎる人間では務まらない。 いつでも手の届くところにいてくれて、すぐに動いてくれるのが理想だ。 あいつはそれができる。」
「社長・・・」
志藤は北都の懐の大きさにホロっときた。
しかし。
「ま。 大事な秘書を無理やり辞めさせちゃうヤツもいるからな。 油断はできないが。」
相変わらず
グサっとくる嫌味は忘れなかった。
「・・・・・・いるんですか。 そんなけしからんヤツが、」
腹の底から絞り出すような声で言うと
書類を見ながらクックッと笑っている。
「わー、熱下がったね! ご飯も食べれるようになったし。 よかった~~~。」
昼には暖人の熱も下がっていた。
「もうちょっと、バナナたべたい・・・」
「え~。 食べ過ぎじゃない? 今度おなかこわすよ、」
「あとちょっとだけ!」
「しょうがないな~~~~。 おサルさんになっちゃうぞ!」
香織はふざけて暖人の後ろから抱きしめた。
「サルはやだ~~~、」
明るい笑顔が戻って来た。
社長は樺沢の今の状況をきちんと理解してくれていました…
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