・・・にしても。
あんのヤロ。
どんだけ図々しいねん!
あんな人畜無害みたいなカオして。
卑怯にもほどがある!!!
志藤は自宅に戻ってからも、もうそればっかり考えていた。
「・・・・幸太郎さん!!」
ゆうこがさっきから呼んでいたようだったが、全く聞こえておらず
「・・あ?」
気もそぞろに返事をした。
するとゆうこは怖い顔で彼ににじり寄り
「・・・コレ。 なんなんですかあ?」
彼が脱いだワイシャツの赤紫色のシミを指して言った。
「・・は???」
すっかりそのシミのことは忘れていた。
「それに! この女物のハンカチ!!!」
と、さっき香織から借りたハンカチをテーブルに叩きつけられた。
彼女が何やら怪しんでいることをようやく察した志藤は
「なっ・・・・、ち、ちがうって! さっき佐屋さんが仕事で頑張ってくれたから・・・メシ奢って! んで、おれがワインをこぼしてしまってな、彼女がハンカチを貸してくれて!」
もうしどろもどろだった。
ゆうこはもう全くそんな言い訳を信じられずに
「・・・どうだかあ??? そんな今考えついたような言い訳! 誰が信じると思ってるんですか!??」
掴みかかられんばかりの勢いで言われた。
「あ~~~! もう!! その辺はとりあえず処理してくれ! おれ、いま頭パンパンやねん!!」
志藤は逆ギレしてテーブルをバンっと叩いた。
「え~~~? 佐屋さんが?」
ゆうこはさっきまで怒り狂っていたことを忘れたかのように、びっくりして目を丸くした。
「も、ぜんっぜん信じられへん。 南はアヤシイって言うてたけど。 ぜんぜんそんな素振りなかったし。 ていうか・・・あの姐さんがな。 あの男に易々とひっかかるなんて・・もー、絶対に信じられへん!」
「・・・ほんと、佐屋さんて。 人生がぜーんぶわかっちゃってる、みたいな感じで。 仕事も男の人に負けないくらいデキるし、頼りがいもあって・・・男の人に寄りかかって生きたりなんか絶対しなさそうで。 憧れる存在ですよ・・」
「そやろ? そんな初対面でイキナリ部屋に上がりこむような男、絶対に受け入れそうにないやろ??? もー、女ってわからへん・・・いや! わからへんのはカバの図々しさや!」
なんだかわけのわからない怒りがこみ上げる。
「あたしもこの前初めて樺沢さんにお会いしましたけど。 ほんと明るくて人当たりが良くて、裏表のなさそうな人だって思ったんですけど・・・・。 でもまあ。 男と女はどこでどうなるかわかりませんから。 お互い独身なんだから・・・まあ、それは自由なんじゃ・・・」
ゆうこはやんわりと二人を庇った。
「ま。 自由ですけど? でも、なんっか腑に落ちないというか・・・」
志藤は過去の自分のことも全て棚に挙げて
樺沢のこの『速攻』が非常に腹立たしかった。
「いきなり呼び出して・・・。 おれ、このあと社長と外出なんだけど、」
樺沢は時計を気にした。
志藤はどうしても彼の『思惑』が知りたくて、翌日の昼休み休憩室に呼び出してしまった。
迷惑そうな彼に
「おまえ。 佐屋さんと、どうなってるの?」
単刀直入に聞いた。
「えっ・・・・・」
いきなり香織の名前を出されて、気持ち半歩下がった。
「つきあってんの? 本気で?」
返事を聞く前にどんどん質問をした。
「・・・つきあってるって・・・・。 まあ・・・そう言われちゃうと、そうなのかもしんないけど・・・・」
大きな体に似つかわしくない、ものすごい小声で答えた。
「そうなのかもって。 ・・なんっかおれ意味わかんないんですけど??」
気持ち半歩前に出た志藤は樺沢ににじり寄った。
天然のクセにやることだけは早かった樺沢に志藤は意味もなく腹立たしく…
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