「おっまえ・・よくカツカレーなんか食えるなあ。」
志藤は目の前で大盛りカツカレーをかきこむ樺沢を見ているだけでこみ上げてくるものがあった。
「は? まだ二日酔い引きずってんの? おまえ弱くなったなァ、」
樺沢はそれはうまそうにカレーをばくばく食べた。
志藤は白湯をちびちび飲みながら
「あれからすぐ帰ったん? 結局、姐さんしか残らなかったんやろ?」
「え? あー。 最後にお前をタクシーに乗せた後、・・帰った。 彼女もおんなじ方向だったし。 家、稲荷町のマンションだってゆーから、」
「あの人、ほんまに強いやろ? おれも・・・今まで出会った中で一番酒強いかもしれへん。」
「ほんと。 おれのペースについてこれるなんて男でもいねえもん、」
樺沢は笑った。
「なんや縁あって。 近所になったんやから、今度ウチ遊びに来いや。 ウチのヨメも社長の秘書が正式に決まって喜んでる。 めっちゃ気にしてたから・・・・」
気分が悪いのに
クセで煙草に火をつけた。
「ああ。 ぜひぜひ。 もうおれも東京に知り合いがいないから、おまえがいてくれて心強い。 よろしくな、」
人懐っこい笑顔で笑った。
そうして
樺沢が社長秘書になって1カ月。
「ただいま戻りました~~!!」
とにかく声が大きくて、彼が秘書課に戻ってくると隣の社長室までよく聞こえる。
「・・・・樺沢に午後の会議の資料、そろえておくように言っておいて。」
そこにいた真太郎に北都はボソっと言った。
「ハイ。 ほんと樺沢さんて元気で、秘書課の雰囲気すっごく変わりましたよね。 スポーツマンで明るいし。」
真太郎はファイルを戻しながら笑った。
「こっちにまだ慣れないこともあるけどよくやっている。 あの大男が気がつくと後ろに控えていてたまに驚く、」
北都は思い出してクスっと笑った。
真太郎はまたその姿を想像して、この二人のアンバランスさに笑ってしまった。
「社長。 明日の望月プロとの打ち合わせですが、映画製作の件は先方からまだ外部にくれぐれも漏れることがないようにと会長から言われていて・・・」
樺沢は北都の前に来てメモを見ながら言ったが
資料に目を通していた北都はクスクスと静かに笑っていた。
「は…? なにか・・・ありましたか、」
「・・・おまえの声が大きくて、その気がなくても外部に漏れそうだ。」
本当におかしそうに笑って煙草を灰皿に押しつけた。
「えっ!!! あっ! す、すみません!!」
その声もまた大きくて、さらに北都は堪えるように笑った。
たまたま資料を返しに来た志藤はそんな光景を見て少しだけ驚いた。
樺沢は社長の秘書として仕事を始めましたが、やや天然気味の彼に大社長もツボってますけど…
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