「・・・し、白川拓馬。 ・・36歳です。 職業は・・大工・・」
拓馬は何を言っていいのかわからず、いきなり自己紹介を始めた。
「・・工業高校を出て、オヤジ・・父の知り合いの棟梁の所に3年ほど修行に出て。 そのあとは父と一緒に現場に出ています・・・。 家族は父と母と兄と妹で。 父もご存知のように大工をしています。 兄は・・・建築会社に勤めていて設計なんかをしてます。 いちおう一級建築士の資格も持ってます。 妹は・・・結婚してウチの近所に住んでいて・・・・」
本当に何を話していいのかわからなくなり
自分でも何を言っているのかがわからなくなってきていた。
家族を紹介してどーする!!
「・・・とにかく。 ウチは普通すぎる家庭です・・いや、どっちかっていうと・・・貧乏寄りかもしれないです。 オヤジがあんなですから、とにかく頑固で施主さんと大喧嘩していくつも仕事なくしたって・・オフクロが言ってましたから。 ほんと・・どーしようもなくて・・」
父の話をし始めたら
なんだか切なくなって。
黙って訊いていた喜和子はフッと笑って
「・・本当の職人さんは。 自分の意思を曲げられないものです。 私だって依頼主さんから注文がついたりすると、やっぱり納得できないこともありますし。 じゃあ他の方にお願いしてくださいって私も何度ケンカになったことか、」
優しく拓馬を見つめた。
「え・・・」
とても穏やかな人だと思っていたので少し意外だった。
「・・・お父さまは。 あなたのことが大事だからこそ・・・心配をするんでしょう。 今日、あなたが詩織のことでウチに来てくださるって聞いてから・・・どうしてもひとつだけ訊きたいことがありました。」
心臓が大きな音を立て始めた。
「詩織とどういうつきあいをしたいと思っているか、ということです。」
いきなり本題に入り、拓馬も詩織もハッとした。
「まだ・・・出会ってからもほんの数ヶ月でしょう。 そんなこと考えていない、というのが普通なんでしょうが。 正直申しあげて、この子が男性とお付き合いする時は・・・将来に繋がる人と、と思っていましたから。 それをきちんと考えておかないと・・・娘も相手の方も不幸にすることになります。 あなたも承知して下さっていると思いますが、詩織は将来私の跡を継いで『千睦流』の家元になる人間です。 この世界・・・まあ特殊なことも多いですから、将来この子と結婚する方にもできるだけご苦労をかけないように、と思っていました。」
喜和子の口調は穏やかだった。
本当に娘のことを案じていることが伝わる。
「人を好きになることは。 理屈じゃないです。 どんなに心にブレーキをかけても止まるものではないです。 娘には小さいころからそのことは言い続けてきました。 詩織もそのつもりで男性とのおつきあいを考えていた、と思っています。 そんな詩織が・・・拓馬さんとお付き合いをしたいと言うのは・・・よっぽどの『覚悟』だとも思いました、」
拓馬は膝の上に置いた拳にぎゅっと力を入れた。
『その』気持ちを確かめ合ったわけでもなんでもない。
しかし不思議に彼女の心のメーターがどこまで触れているかは
感じ取っていた。
「こんなことを言われて・・・重い、と思われるのなら。 仕方ありません。 私は詩織の相手に何も望んでいませんでした。 娘のことを愛してくれて、一生大事にして下さる方なら・・・・。 家柄がどうとかそんなことはどうでもいいんです。 ただ。 しなくていい苦労をさせてしまう、とそれだけが気がかりです。」
だんだんと
体の中が熱くなる。
そして拓馬はガバっと顔を上げた。
「おれが・・これからどれだけの人と出会って、恋をするかなんてわかりません。 だけど、その全ての出会いがこの世から消えてもいい。 ・・詩織さんと出会えたことで・・・もうおれの人生は百点満点です、」
何の無理もない笑顔で詩織の母と祖母を見た。
「・・拓馬さん・・・」
詩織は思わず涙ぐんでしまった。
「おれの気持ちは。 もう決まっています。 詩織さんとつきあいたいと思ったときから、この人と一生を共にしたいと思いました。 ・・ですから・・・どうか、詩織さんとの交際を許してください!」
テーブルに額がつくほど拓馬は頭を下げた。
拓馬は詩織が将来を共にする女性にしたいという気持ちをはっきりと口にしました・・
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