「パパ・・・ごめんね、」
起きられるようになった絵梨沙は母の付き添いのもとウイーンへと発つことになった。
真尋は大事な時期なので、詳しい話はせずにとりあえず二人を会わせたいと真理子は思うばかりだった。
「絵梨沙・・・。」
フェルナンドは娘を抱きしめた。
「だいじょうぶよ。 きっと・・・・またピアノが弾きたくなるときがくる。 今は慌てることはないのよ。 世間の評判も何もかも忘れて。 ゆっくり休みましょう、」
真理子は絵梨沙の肩を叩いた。
「あ~~~、なんっかもう・・久しぶりに緊張したっつーか・・・・」
何も知らない真尋は予選の1次を突破した。
「こんなんで緊張してたら先が思いやられるな、」
シェーンベルグはいつものようにブスっとした顔で言った。
「でも! なんっかさあ、今までと違う感覚ってゆーか。 おれって『感覚』でピアノ弾いてたんだなあってわかる。」
真尋はいたずらっ子のように笑った。
「場当たり的なピアノだな。 そういうのはきっといつかボロが出る。」
「最初はさあ、何言ってんだこのジジイとか思ったけど。 ようやくおれも大人になったっていうかさあ、」
調子に乗って言うと、シェーンベルグは杖で真尋の脛とビシっと叩いた。
「いってえなあ!! おれ、ここに金具入ってんだぞ!! ズレたらどーすんだ!」
すると今度は杖で頭を小突いて
「こっちにも金属を入れてもらったらどうだ?」
ふっと馬鹿にしたように笑われた。
「口の減らないジジイだぜ・・・」
また日本語で文句を言うと、今度は杖でお尻を叩かれた。
「日本語わかんのかよ!!」
二人でやりあいながら歩いていたら、いきなり後頭部をひっぱたかれた。
「いっ・・・・・」
振り返ると志藤が怖い顔で立っていた。
「へ??? 志藤さん??」
「さっきっから声かけてんのに! シカトしやがって!」
「聞こえねーよ! って、なんなんだよいきなり!!」
突然現れた志藤に驚き、
「久しぶり!!」
その陰からぴょこんと現れた南にも驚いた。
「はあ? 南ちゃんも? え? なんかあんの??」
「なにって。 あんたのコンクール。 見に来たんやんか、」
南は大きな目をいっそう大きくしてそう言った。
そして。 真尋のコンクールを見に志藤と南もウイーンにやってきます・・・・
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