父は母と一緒になる前
ピアニストの仕事をしていた時に日本を訪れて
ものすごくものすごく
気に入って。
しばらくの間日本に住んでいた。
そこで母と知り合って結婚をした。
だから日本語はペラペラだ。
「そーゆー関係って・・なに?」
父が彼に首をかしげながら言うと
「だからあ・・・・『パパ』なんて! 日本ではね、愛人の女性が相手のことをそう呼ぶんだって!」
大きな声でそんなことを言い出して
「はあ????」
もうびっくりしてこっちも大きな声になってしまった。
人にこんなこと訊かれたら、と思いドアを閉めたが
よく考えたら日本語がわかる人なんかいない。
呆れて言葉が出ないでいると、父はしばらくして意味がわかって大きな声で笑い出した。
「そうなのかあ・・・・。 いやいや、日本語は難しいね。 彼女はぼくの本当の娘だよ、」
「え~~~? 娘なの??」
彼はまた私と父を見比べた。
「娘といっても・・・9年前に日本人の妻とは離婚してね。 ずっと別々に暮らしていたけど。」
「へー・・・そうなんだあ。 エリサっていうの?」
「・・・・・」
黙って頷いた。
「・・・フェルナンド先生の娘だから・・・エリサ・フェルナンド?」
「・・・私は母親の姓を名乗ってるんです! 『沢藤絵梨沙』ですっ!!!」
バカバカしくてついムキになって自己紹介をしてしまった。
「サワフジエリサかあ・・・。 かわいい名前だね! 顔とぴったり!」
ほんっと声が大きい・・・・。
はあっとため息をついた。
「あのね! この前話したおれを推してくれた先生が・・フェルナンド先生だったんだって! 先生のおかげでおれ、ここに入れたんだよ。」
続いて彼から出た言葉にまた驚いた。
「え・・・・・。」
父を見ると、そのとおりと言わんばかりに頷いている。
「彼の実技の試験を見てね。 ・・・これは何としてでも自分が手ほどきをしたいと思って。 他の先生もびっくりしていたけど・・・他の試験がヒドかったからどうかってなかなかOKが貰えなかったんだよ。 でも。 何とかそこを押し切って。」
ドイツ語もまともにしゃべれないこの人を
実技以外の試験なんか
ひとつもできるわけがないのに
私は小さな驚きの中にいた。
父はピアニストであったが
その指導力も有名で
ウイーンの他パリやNYの音楽学校で講師の仕事は引っ張りだこだった。
そんな父が
『ひとめぼれ』した彼のピアノって・・・・
なんと真尋を音楽院に入れたのは父でした・・・
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