「あのとき・・・南さんと真太郎さんが別れていて。 ひょっとして・・あたしと真太郎さんが結ばれていたら、なんておこがましくて思いたくもないんですが。 あたしは色んな運命に流されて・・幸太郎さんと結婚したと思います。 あの人の死んだ婚約者が生きていたら、間違いなくあたしたちは出会えなかったし。 」
ゆうこは真っ赤にした目で真太郎を見つめた。
「だから。 真太郎さんは・・・やっぱり南さんでないとダメなんです。 この運命じゃなくちゃ・・ダメなんです、」
彼女の悲痛な声が
胸に突き刺さる。
真太郎は目を閉じてジッと考えた後、
「・・・ぼくは。 何もわかっていなかった、」
ポツリと語りだした。
「え・・」
ゆうこは彼を見た。
「南のことを・・何もわかっていなかった。 彼女が考えていたことも、表面だけ・・わかったふりをして、」
彼女の本当の気持ちを
自分はどこまでわかってやれていたというのだろうか。
真太郎はそのことで頭がいっぱいだった。
「・・南さんはいつだって真太郎さんのことを考えてます。 結婚したあとも常にあなたが社長の跡を継いで立派にやっていけるようにと。」
真太郎は結婚してからの彼女との生活のひとつひとつを思い出すように
「・・ええ、」
深く頷いた。
ゆうこは涙をぬぐって鼻をすすった。
真太郎はそんな彼女を見てふっと微笑んだ。
「ぼくも『あのころ』は言えなかったことがあります、」
「え・・」
「自分には南しかいないって思っていた反面。 白川さんのことも側においておきたいと思っていた気持ちです、」
ゆうこは目を見張るように彼を見た。
「自分はどうすることもできないくせに。 あなたを誰にも渡したくなかった、」
胸の鼓動が一気に速くなる。
「・・・志藤さんにさえも。 何となく白川さんと志藤さんがすごい勢いで近づいているのではないか、と気がつきながらも、どこかでそうあって欲しくない気持ちもありました。 ぼくにとって白川さんは大切な、大切な人でしたから、」
ようやく涙が止まったのに
ゆうこは自分の涙腺を調節できなくなってしまった。
「・・・真太郎さん、」
「でも。 やっぱりこの運命だった。 もし南よりあなたに先に出会っていたら、とか考えなくもありませんでしたが、あなたにとってもぼくではなかった。 志藤さんと出会って惹かれ合っていったことも、全て運命だったと思いますから。 」
諦めだとか
そんなことではなく。
「ぼくらの選択は間違っていなかったんです。 ぼくたちが別れてしまったら、志藤さんと白川さんの運命さえも否定してしまうようだし、」
最後は少し冗談ぽく言って真太郎は笑った。
「・・あたしは今とても幸せです・・・。 いろいろありましたけど、子供たちにも恵まれてとても穏やかに過ごせています。 同じ時間を真太郎さんと南さんも過ごしてきたはずです。 もう一度・・・新しい気持ちで二人で歩いていって欲しいんです、」
今日、こうして真太郎と向き合ったのは
このひとことが言いたかったからだった。
長い間ずっと秘めていた気持ちを打ち明けあう二人。 そして『運命』に導かれ、幸せな時間を過ごしてきたことも思い知ります。
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