「もうおれ。 アタマおかしくなりそうなんですけど、」
斯波は志藤のところに行って今朝のいきさつを話した。
「ん・・・。 実は夕べ遅くジュニアがウチに来て。 南から離婚届をつきつけられたって・・言いに来て。」
志藤も重々しい口調で言った。
「え・・」
「南は。 たぶん本気やろな。 こんな駆け引きしてジュニアを試すとかそんな気持ちやないと思う。」
「どういう・・ことですか?」
斯波は何だか聞いていいのか悪いのか。
迷ったけれどもそう言ってしまった。
「は・・・・専務が???」
斯波は思わず耳を疑ってしまった。
「ん・・・。 でもな。 なんもなかったって・・・ことらしいねんけど。 ジュニア的にはもう『浮気』と一緒やって思い込んでる。 も~~~、おれなんかそんなんぜんっぜんセーフやんって思うねんけど、」
志藤は大きくため息をついた。
「や・・それは・・どーかとも思うんですが・・・」
やはり真面目な斯波は志藤の感覚には賛成できなかった。
「でも。 南がそこまでの決心をしている、というのは。 他にも理由があると思う。 長い付き合いのおれでもわからへんような。」
斯波も
確かにそう思った。
仕事に対しての南はふざけてばかりの日常と違って、本当に厳しくて真面目だった。
彼女は次期社長夫人とは別の顔で、優秀な社員としての顔もあった。
それを辞めようという気持ちも。
斯波には全く理解できなかった。
「あいつも混乱してるのかもしれへん。 ・・その『退職願』は、受理しないように。」
志藤は斯波に釘を刺した。
「は、はい・・」
もちろん言われなくても受理する気持ちはなかったが。
彼女の性格は
イヤというほどわかっている。
だけど。
今何も言わずに見過ごすわけには行かない。
南は外出から直帰した。
真太郎が戻ってきてからずっとホテル住まいであった。
荷物を整理していると、ノックの音がした。
「はい?」
ドアの中から返事をする。
「おれ、」
声を聞いただけで、誰だかわかってしまった。
「・・志藤ちゃん? どーぞ、」
南は施錠を解いた。
志藤にとって南は別の意味で大切な存在の女性です。 何でもわかっていると思っていた彼女の気持ちが今だけはわからず・・・
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