翌日。
「ごめん。 遅れて。 これから会議やろ? なんとか間に合った、」
南は時計を見て志藤に言った。
「ああ、うん・・・」
彼女から少し遅れて行く、と電話を貰ったのは今朝早くだった。
特に理由は言わなかった。
なんだか聞いてはいけない気がして、聞けなかった。
少しだけ
社内は落ち着きを取り戻したように見えた。
「以上。 昨日までの打ち合わせの内容です。 先方もすべて納得してくださいましたので、あとは専務に押していただくように。」
南は報告書を読みながら取締役の会議ですらすらと話を進めた。
「常務もお忙しいでしょうが、想宝とのことはよろしくお願いします、」
常務にもテキパキと指示をした。
南は北都に入社当時は企画部に勤務していた、そのウデを買われてその後NY支社に2年間配属され、病気もあり帰国した。
少しのブランクを置いて、できたばかりのクラシック事業本部の企画&営業担当として志藤とともに中心となって頑張ってきた。
その仕事ぶりに内部からも取締役に入ってもらうことを熱望されたが、彼女は現場にこだわりそれを固辞してきた。
真太郎が大学を出てすぐにこの南と結婚をしたことを
上層部の中には彼女の過去の遍歴から、よく思わない者もいた。
それでも
南は明るくその才能を発揮し、今ではホクトにはなくてはならない人材であることも、周囲はわかっている。
「おまえがこっちの仕事するようになってから、めっちゃポンポン進むようになったなあ。」
志藤は会議の後、煙草を一服して笑いながら南に言った。
「そんなことないって。 みんなほんまに頑張ってるもん。 こんなに何人も集まって決めることを・・社長はひとりでしてたんやなって。 そっちのが驚きや、」
南は笑う。
「・・そやな、」
それは志藤も思うことだった。
「真太郎も・・・落ち着きを取り戻したみたいやし。 うん・・・前より堂々と仕事してるしな。 ほんまはちゃんとできるのに。 まだ自信持てへんから・・・。 そやな、真太郎に足りないところは『自信』かな、」
南は冷静に真太郎のことを分析した。
「ん・・・」
「ま。 もう大丈夫やって。 志藤ちゃんも・・・いるしね。」
と、にっこり笑った。
「・・おまえがいるやろ、」
志藤が真面目な顔になり、ポツリと言った。
少しだけ落ち着いた上層部でしたが、志藤には南がこれからしようとしていることに嫌な予感がしています。
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