「もう仕事も終わりなら。 少し食事でもしていくか、」
北都はパソコンを閉じた。
「え、」
南は少し驚いたように彼を見た。
「たまには、」
仕事をしている時は怖い顔ばかりなので、
こうして微笑んでくれたりすると、なんだかホッとする。
「ていうか。」
南は北都とやってきたお座敷で向かい合って、その部屋を見回しながら口を開いた。
「え?」
「たまには・・・じゃなくて、社長とこうして二人で食事も初めてやないですか?」
そう言っていたずらっぽく笑う。
「そうだったか?」
北都も笑った。
「もう。 きみと出会ってからも。 何年だろうか。」
北都が自分のグラスにビールを注ごうとしたので手で制したが、それに構わず彼はその行為を続ける。
「あたし。 まだ21でしたから。 ・・・えっと16年も経っちゃったんですねえ、」
南が素早くそのビール瓶を受け取り、今度は北都のグラスにそれを注いだ。
北都と南が出会ったのは、六本木のキャバクラだった。
真面目な彼は普段はもちろんそういうところには行かないが、古くからの友人に誘われて仕方なく出向いた。
「あ、いらっしゃーい! あれ? 初めてのお客さんやね、」
小柄だけれどとにかく大きな目と関西弁が印象的な子だった。
体中から『陽気』を発して、彼女の側にいるだけでエネルギーが感じられた。
彼女が普通のキャバ嬢と違っていることが、出会ってすぐに肌で感じられた。
彼女ともっともっと話がしたくて、翌日は一人でその店に行った。
とにかく頭の回転が速くて、お客を飽きさせないように色んな話題を口にして。
サービス精神が旺盛で、それでいて空気もきちんと読んでいた。
彼女をスカウトしてホクトの子会社に就職させたけれど。
その会社でバイトをしていた高校生の真太郎と出会い、こんな南に惹かれていったことも
ものすごく当然のことのように受け止めることができた。
「うわ~~、このお刺身サイコーに美味しいです! こんなん食べたの久しぶりやな、」
南は料理を口にして幸せそうにそう言った。
「きみは変わらないねえ、」
北都は微笑ましい笑顔で南を見た。
「は? って! けっこう年くっちゃいましたよ? なんっかこの頃腰とか痛いなあ、とかあるし、」
と、元気に言う南がまたおかしくて笑ってしまう。
「きみが年のことを気にしているとは思わなかったけどな、」
そのとき、南は何かを思ったようで小さなため息をついた。
「どうした?」
「・・・あたし。 もう38になりました。」
彼女が何を言いたいのか。
少しだけ気づいてしまった。
会社では社長と社員の間柄の二人ですが、こうして義理の父親と嫁になって向き合うのもいいもんです。(^∇^)
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