「ゆうこ、」
何も言えなくなってしまったゆうこに志藤は声をかけた。
ガラスの・・・うさぎが・・。
ゆうこは色んな思い出が一気に噴き出してしまった。
志藤の死んだ婚約者のことやその彼女を思い続ける彼と一緒になろうと決心した日のことを。
「ママ、」
ひなたはゆうこが涙しているのを見てしまった。
「ご・・ごめんなさいっ! ほんと! ひ、ひなた、今はべんしょうとかできないけど! 大人になったらきっと・・・」
動揺してゆうこに駆け寄った。
「・・・い、いいのよ・・・。 ほんと、」
ゆうこは涙を拭った。
「でも!」
「ごめんね。 なんだか・・・胸がいっぱいになっちゃって、」
母がなぜいきなり涙をしはじめたのか。
ひなたは全く理解ができない。
「ほんまに。 大丈夫やから。 もう寝なさい。」
志藤はひなたに優しく言った。
「何だか・・・ほんと胸がいっぱいになってしまって、」
ひなたが自室に戻った後、ゆうこは涙を拭きながら言った。
「・・形あるものはね。 いつかはなくなるし。 あの時・・・こなごなになってしまったウサギをこうしてゆうこはずっと大事にしてくれた。 もうそれだけでじゅうぶんやん、」
志藤は彼女の背中に手をやった。
「あたしたちの今までの幸せは・・もうあの中につまっていたって思ってますから。 全ての思いが・・」
やっぱり涙が止まらなかった。
翌朝。
「おはよう。 早く顔を洗ってきなさい。」
ゆうこはいつもどおりひなたに言った。
「・・うん・・」
母の涙のわけが気になり、夕べはあまり眠れなかった。
この日は短縮授業で早めに帰宅できた。
よし・・!
ひなたは何かを決心して帰宅した。
家に帰ると、みんな出かけているようで誰もいなかった。
ひなたはジーンズに着替えて、家から懐中電灯と軍手とゴミをひろうトングを持ち出した。
昨日、グラスを落とした窓が見えるところにやって来た。
塀と家の壁の間はほんの15cmほどしかない。 1階には窓もないし柵の間から手を伸ばして手探りで探すしかない。
しかし、もう暗いばっかりで何だか全然わからなかった。
も~~~!
ぜんっぜん手え届かないし・・!!
腹立たしくなってきたころ、
「なにやってんの??」
と言われて振り向いた。
「へ?」
そこを通りかかった浩斗だった。
「もー、ほっといて! タイヘンなんだからっ!」
「あやしすぎるじゃねーかよ。 ドロボウみてーに、」
「だって! 取れないんだもん!!」
ひなたは浩斗にあたりはじめた。
「はあ?」
「って・・・もうこれ以上手が伸びねーって!」
「もちょっと右だと思うんだよね。 ガラスのカケラだから・・軍手してないと危ないし。 軍手してると何だかわかんないし・・」
「上からのが取れるんじゃね?」
浩斗は1mほどの塀にぴょんと飛び乗った。
そして、身体をはさむように手だけ伸ばした。
手だけでは届かないので、棒をもってきてなんとかありそうなところを探った。
「また石っころだあ・・・。 ほんっとどこいっちゃったんだろ。」
何とか取れるのは石ころだけ・・・。
「よっ・・・・」
浩斗が根性で手を伸ばすと、何かトングに手ごたえが・・・。
母の涙を見て、ひなたは必ずそれを見つけ出そうと頑張ります。
ちなみに・・・
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