「とにかく。 ひなたの服じゃあ、かわいそうよ。 あなたのを何か貸してあげないと・・。」
ゆうこは志藤をみた。
「ハア? おれの? 逆にデカいやろ、」
「このピンクのパーカーよりマシよ・・。 今日はちょっと肌寒いし、」
「いや、いいっス・・・このシャツで帰るから・・」
浩斗は言ったが、下着のシャツで帰すのもなんだと思い、
「んじゃ。 来いよ。」
志藤は自分の部屋に彼を呼んだ。
「あんまりカジュアルっぽいの持ってへんからな~~~。」
志藤は箪笥を漁った。
浩斗は珍しそうに部屋を見回している。
「・・あの~~~。」
「あ?」
「おじさんは。 オーケストラとかの仕事をしているんですか。」
部屋はクラシックのDVDや本ばかりだったので、聞いてみた。
「ん。 まあ・・・今まではね。 4月からはちょっと仕事変わっちゃったけど。 このシャツでいっか、」
志藤はストライプの綿のボタンダウンのシャツを彼に手渡した。
「あ・・すんません、」
浩斗はアゴで会釈するようにそれを着た。
「ちょっとデカいか。 ま、袖めくれば・・・」
彼は思わずそのシャツの匂いをかいだ。
「な・・なんやねん。 ちゃんと洗ってあるし、」
「い・・いえ。 なんか・・・大人のにおいだな~~って、」
「なんや、そら。」
笑ってしまった。
「うち。 とーちゃんいないし。」
浩斗はボソっと言った。
「お母さん、雑誌の編集の仕事やったな。 ほんま忙しくてタイヘンやろ。」
「まあ。 姉ちゃんがいますから・・。」
「そーやって、おまえのことを頑張って育ててるんやもんなあ。」
「はやく・・・大人になりたい。」
浩斗は小さな声で言った。
「・・んで。 かーちゃんが仕事しなくってもいいように。 おれが働く。」
中学1年生の子が
こんなことを言う。
志藤は小さな感動を覚えていた。
「そのシャツ。 やるわ。 もう着てへんし。 20代のころ買ったヤツやもん、」
ニッコリ笑って言った。
「え、いーんですか・・」
「ほんま。 ありがとな。 ななみを助けてくれて。 助かった。」
志藤はぐりっと彼の頭を撫でた。
浩斗は嬉しそうにはにかんで笑った。
「昨日。 ごめんね、」
翌日、学校に行ったひなたは浩斗に言った。
「え?」
「お母さんに怒られなかった?」
「怒らねーって。 ひなたのとーちゃんにシャツもらっちゃったって言ったら、『こんなに高いのいいの!?』って。高いブランドもんだったみたいでさあ。」
逆に喜んでいた。
「つったって・・・お古じゃん・・」
「いーの、いーの。 おれのトレーナーだってもうキタなかったしさ。」
浩斗はごきげんだった。
「でも。 いーよな、」
「え?」
「ひなたのとーちゃん。 いくつかわかんないけど。 若くて、カッコイイし。 優しそうに笑うし、」
父を褒められて、ひなたはちょっと照れて、
「もう・・43のおじさんだよ・・・。」
と言った。
「うちも。 ああいうとーちゃんだったらな。 きっと母ちゃんも離婚しなかったんだろーな~~って、」
「え、」
「ぜんっぜん働かなかったんだって。 とーちゃん。 しかも、浮気もしちゃったらしいし! 母ちゃんは気が強いから、あたしがひとりで子供たちを育てます!って出て行っちゃったんだって。 だから、よういくひ?とかも、貰わなかったって。 ほんっとどーしようもねーよな。」
浩斗は笑った。
「ふうん・・・」
「ああいうカッコイイとーちゃんがいたら。 やっぱ高野センパイもかなわないかなあって、」
「はあ?? なにそれ、」
話題が変わって、ひなたは彼を見た。
「うん。 かなわねーって。」
浩斗はそれを自分にも言い聞かせるように言った。
「ま・・・。 ウチのパパでよければ。 いつでも貸すし、」
ひなたはボソっと言った。
まったく。
何言いたいんだか・・
彼の気持ちは全くわからなかった。
逞しく生きている浩斗に志藤はちょっと感動します・・
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