自分でも驚くほど
淡々としていた。
家に戻って、着替えてすぐにまた出社した。
真太郎もいつものように出社をして、みんなに昨日のお礼を言ったりしていた。
「志藤さんも、ありがとうございました。 お世話になりました。」
と志藤に頭を下げる。
「いえ・・。 新婚旅行は? 行かないんですか?」
彼はふっと微笑んで言う。
「残念ながら。 もうちょっと先ですね、」
真太郎もニッコリ笑った。
「ゆうべ。 二次会には来られなかったんですね。」
と言われて、少しドキっとした。
「ちょっと。 用があったものですから。」
すぐにそうごまかした。
そこに
「志藤さん。 これから社長とムーンリバーミュージックに行くことになりましたから。 一緒にお願いします、」
ゆうこが入ってきた。
彼には目を向けず、資料に目をやりながらそう言った。
「あ・・はい。」
志藤はタバコを消した。
「真太郎さんは午後からの会議の準備を進めていてくださいとのことでした。」
真太郎の顔も
何だか見れなかった。
「わかりました。」
彼の声だけ
耳に留め。
あれは
夢だったのではないかと
もう一人の自分は思っている。
まだ
ゆうこの中で
思考は停止したままのようだった。
何も
考えたくないのかもしれなかった。
夕方6時を過ぎた頃、南が社に姿を見せた。
色んな人に披露宴のお礼を言って回っていた。
「あ、ゆうこ!」
後ろから声を掛けられドキンとした。
「南さん、」
「昨日、ありがと。 ほんまにきれーなブーケ。 誰にもあげへんかった。 みんな頂戴って言うたけど!」
いつものように明るく言った。
「ウチに飾ってあるよ。二つとも。」
「1週間くらいはもつと思います。」
「ずうっと枯れへんかったらええのにな。」
彼女の笑顔が少し胸が痛む。
そこに志藤が通りかかった。
「あ! 志藤さんも。 昨日はありがとうございましたァ。」
南が声をかけた。
「ああ・・。 いえ。 おれ、別に何もしてないし・・」
いつもの彼だった。
「ね、ゴハン行かない? 真太郎ももうすぐ仕事終わるってゆーし。」
南は志藤に言った。
「メシ・・ですかあ。 別に二人で行ったらどーです?」
「もー、別に。 今さら二人にならなくても!やし。」
南はアハハと笑った。
「まあ。 邪魔にならない程度に行きましょうか。」
志藤は時計を見た。
「ね、ゆうこも行こう! この前のさあ、イタリアンのお店、美味しかったし~。」
南はゆうこの腕を取った。
しかし
ゆうこはほんの少しの間があって
「すみません。 ちょっと仕事があって。 行かれないと思います・・」
とやんわりと断った。
「え~? 今日やないとアカンの?」
「・・ええ。 明日の朝イチまでにやらないとならないことなんで、」
ゆうこは微笑んだ。
「そっかあ・・残念やな。」
「また、今度、」
小さな声でそう言った。
志藤は自分の仕事に戻るゆうこを目で追った。
真太郎も
南も
この二人の『異変』に気づくことはなかった。
小さな亀裂がどんどんと広がっていくことをゆうこ自身もまだ気づいてはいませんでした・・