南は真尋のスタジオを出て帰ろうとすると、そこに美咲が立っていたのに驚いた。
「・・美咲ちゃん・・」
「南さん、」
美咲も驚いていた。
「どないしてん。 もー、八神から家飛び出したって聞いて・・。」
慌てて駆け寄った。
「・・も・・なんか、」
美咲はグスっと泣いて、手で涙を拭った。
「八神、探してるよ。 それで、あたしに真尋のこと頼むって・・。」
その言葉を聞いて
美咲の涙は止まらなくなってしまった。
度々咳き込む彼女に、
「あんた風邪引いてるやん。 もー、この寒いのに上着も着ないで。 とりあえず、ウチ行こう。 タクシー拾うから。」
南は美咲を支えるように歩き出した。
「美咲さん、」
絵梨沙はやってきた美咲に驚いた。
「ん。 真尋のスタジオの前で会ったの。 エリちゃん、悪いけどあったかい飲み物淹れてあげてくれる? 真尋はあと1時間くらいしたら帰ってきてこっちで寝るって言ってるから。」
「は、はい・・。」
絵梨沙はうなずいた。
美咲はずっと泣いてうつむいたままだった。
「は? 南さんのところ??」
八神は気が抜けたようにそう言った。
「まあ、今日はうちに泊めるから。 真尋も今日は大丈夫やから、あんたも帰って休みなさい。 大丈夫、まかせて。」
南は彼にそう言った。
「ほんとに・・ごめんなさい。」
絵梨沙は美咲に頭を下げた。
「え・・」
美咲はぼんやりと頭を上げる。
「真尋がほんと、わがままばっかり八神さんに言うから。 煮詰まってくると、時間関係なく呼び出したり・・。あたしのしなくちゃいけないことまで、八神さん、全部やってくれて。 『真尋さんのことはぼくがしますから、絵梨沙さんは子供たちのところにいてあげてください。』って。 真鈴が2日前から熱を出してしまって、また八神さんに無理をさせて・・」
絵梨沙は美咲に申し訳なくて申し訳なくて
顔が上げられなかった。
「そ、そんな・・。 そんなに、謝らないでください・・」
美咲は呆然として言った。
「いいえ。 もう八神さんだって美咲さんと結婚して家庭を持つことになって、いままでとは違うんですから。 あたしも八神さんの優しさに甘えてしまって。」
美咲は首を横に振りながら、
「・・そんなの、わかってますから・・あたしは、」
絵梨沙の肩に手をやった。
「あたしが・・悪いんです。」
美咲は絵梨沙の淹れてくれたホットココアを少し口につけてポツリと言った。
「慎吾に『真尋さんとあたしがどっちが大事なの?』なんて・・サイテーなこと言っちゃった。 慎吾が絶対に答えられないってわかってて。」
「美咲ちゃん、」
南は彼女を見た。
「か、風邪ひいて・・ちょっと具合が悪かったから、よけいに頭にきてしまって。 真尋さんのことはほんとにちょっとのことでもすぐに心配するのに、あたしのことはどーでもいいみたいな感じで。 もう、そしたら・・言わなくてもいいようなことをどんどん言って。 前につきあってたヴァイオリンの彼女のことまで出しちゃって。ひどいこと、言っちゃって。慎吾、怒って・・あたしのこと・・叩いて・・。」
「えっ・・」
二人は驚いた。
いつも
子供みたいにニコニコしていて。
そういう
感情を表に出すことなんか
ほとんどなくて。
女の子を叩いたりなんか
絶対にしないような八神が・・
「ほんと・・慎吾に叩かれたのなんて初めてで。 なんか・・すっごいショックで。 それで・・思わず飛び出しちゃって・・。」
美咲はまた顔をくしゃくしゃにして泣き出した。
「・・なんで・・真尋のスタジオの前まで、来たの?」
南は優しく彼女に聞いた。
「ひとりで公園のベンチで泣いてたんですけど。 でも、時間が経てば経つほど・・慎吾なら、そうするって、あたしわかってたじゃんって。 あの人がほんっとに何よりも音楽が好きで。 真尋さんのピアノが大好きで。 演奏家として自分の限界を感じて辞めてしまったから真尋さんみたいに、ほんとすっごい才能ある人を全力で応援したいって・・慎吾なら絶対に思うって。 わかるから・・なんだか余計に悔しくて。 前に慎吾から聞いた真尋さんのスタジオに・・タクシーで。 ひょっとして、慎吾・・行ってるのかなあって、」
もう
美咲が
かわいそうで
健気で
かわいくて。
南と絵梨沙は胸が痛くなってしまった。
「ちょっと・・、」
後ろで声がして3人は振り向いた。
いつの間に真尋が立っている。
「真尋さん・・」
「美咲、ちょっと来て。」
真尋は美咲を手招きした。
人気ブログランキングへ やっぱり八神のことをわかりすぎていた美咲。わかりすぎるのもつらいものです。
お気に召しましたら、どうか1日1ポチお願いいたします!