八神は急に腹立たしくなり、
「ほんっと、ゆうべはおまえの『アホ』な彼女のせいで、どうなることかと思った!」
と高宮に言い放った。
「はあ?」
「ほんっと! 常識知らずで迷惑かけられっぱなし!」
それにはちょっとムッとして、
「先輩であるあなたの責任もあるでしょ、」
と言い返してしまった。
「ほんっと! 規格外れのアホだから! おかげで・・おれなんか、あらぬ疑いをかけられて! 」
「彼女に殴られたんですか?」
先回りしてそう言われ、
「くっ・・。 なんか、魔女みたいな爪してっから! ほんっとまだヒリヒリして・・」
ちょっとテンションが下がって、頬を押さえた。
「加瀬ごときに! おれがなんかするわけでもないのに!」
悔し紛れにそう言うと、
「失礼じゃないですかっ、」
高宮もあまりの言いようにムカっとした。
「ほんっと、あいつとなんか仕事したくなかったし!」
八神はキレそうになってしまった。
「ほんっとあんな状況下でも、あいつ緊張感ゼロでおれの膝枕でグウグウ寝てるし!」
「はあ??」
「んで、どけっ!ってここ引っ張ったら、シャツのボタンが飛んじゃって! いきなり『なにするんですか!』ってパニくりだして、顔ぶつけて鼻血出すし。」
高宮はそんな話を聞かされてワナワナと震えだした。
「そ、そんなことしたんですか・・・。」
「そんなことって! 事故だろ? 事故! やっと鼻血が泊まったと思いきや、鼻に青アザができてたから、そこ指差そうとして近づいたら、また騒ぎさしておれの頭を思いっきりはたきやがって!」
「・・・・」
想像して絶句だった。
「挙句の果てに、オッパイ触ったとかぎゃあぎゃあ言い出して!」
「なっ・・」
カーッと全身の血が逆流しそうだった。
そして、八神に掴みかからんばかりに、
「さ、触ったんですかっ!」
必死だった。
あまりの彼のリアクションに口の滑った八神は、ヤバっという顔をして・・・
「や、わざとじゃないから・・ほんと、」
急にトーンが下がった。
逆に高宮の怒りが頂点に達し、
「あんたって人はっ!!」
襟首を締め上げてしまった。
「お、おちつけ!ほんと、偶然だからっ!」
八神は必死に抵抗する。
「許せないっ!」
おれ以外に
おれ以外にっ!
彼女の体に触る男がいるなんてっ!!!
そこに南が通りかかる。
「あ、なにしてるん!」
慌てて二人を止めた。
「こっ、この人がっ!」
高宮はもう口が空回りしてしまった。
「もう落ち着いて、」
ようやく二人を引き離した。
「は~? 加瀬のオッパイ触った~?」
「声がでかい!」
高宮は南の口を押さえた。
「だから、事故なんだってば・・・」
八神は泣きそうになりながら言う。
「まあ、事故ならしゃあないなあ、」
南も頷いた。
「そうでしょ? なのに、こいつがいきなり怒り出して、」
「ぜったい、やましい気持ちあったんだっ!!」
「え~、そりゃ八神だって男やもん。 触りたくなっちゃうよねえ?」
南の問いかけに八神は思わず、
「そりゃそうですよ、」
と本音を言ってしまい、
「やっぱりわざとだっ!」
高宮は聞き逃さなかった。
「アホか、」
南はため息をついた。
高宮は仕事があるため仕方なく部屋を出て行く。
「あ~、ひどいめに遭った・・・」
八神はネクタイを直した。
南はそんな八神を見て、
「美咲ちゃんに殴られたの? すっごいバリバリ跡残ってるやん、」
ぷっと吹き出した。
「え~? もう、ほんっと大変でしたよ。 地下に閉じ込められたって言っても信じてくれないし。おまけに。 昨日加瀬のヤツが鼻血出したもんで、おれのシャツにも血がついちゃって。 これはなんなんだ、とか。すんごい問い詰められて。 しかも、昨日は美咲の誕生日で、約束もしてたから。 めっちゃくちゃ怒って・・んで、ひっぱたかれて・・」
思い出すだけで目が潤んでしまう。
「あ~あ~。」
南も想像してちょっと同情した。
「だから、ホントのこと全部話して。 加瀬と一緒だったことも。 まあ、なんとか怒りは鎮まりましたけど。 ほんっと感情の起伏が激しくて、すぐ手が出るし・・」
「合コンはオッケーなくせして、そこはアカンねんなあ。まあ、カワイイやん。 めっちゃ心配したと思うよ。 あんたのこと心配で。」
「・・・まあ、」
ちょっとだけ照れてうつむいた。
「んで・・・どやった?」
「は?」
「加瀬のオッパイ触った感想。」
ニヤっと笑う。
「えっ」
八神は絶句してしまった。
「けっこうあるやろ。 あたしも最初びっくりしたもん。」
「・・・ん、まあ。 見た目と違うもんだなあと、」
ボソっとそう言った。
「も、ほんま彼氏がテクあるからさあ! 大きくなっちゃったんじゃないの?」
南は暢気に笑って八神の背中を叩いて出て行ってしまった。
「ちょっと! 想像だけ置いてかないでくださいっ!」
出て行く南の背中に思いっきりそう言った。
想像だけ置いていかれた八神でしたが。 今後もこのことで高宮との間に妙な『しこり』が残ってしまいます・・