Pure Love(14) | My sweet home ~恋のカタチ。

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せつなくてあったかい。
そんなラブストーリーがいっぱいの小説書いてます(^^)

ずうっと

糸の切れた風船のように

漂っている気持ちだった。


パソコンを打つ手は動いていても、それは自分ではない。

自分の意識は完璧に違うところにいっているのに。



「うそ! ほんま?」


「ん・・・。」



南は志藤にかぶりつくように身を乗り出した。



「なんで、言うてくれへんかったの?」


「なんでって。 ジュニアにも口止めしてたみたいやで。 あいつ。 ちょっと長い出張ですから、とかカッコつけちゃって。」

タバコを灰皿に押し付けた。



「で、なんで加瀬が知らないの?」



一番の疑問はそこだった。



「わからん。 あいつ、どうしてる?」


「どうって。別に。 でも、いつもよりは存在感が薄いような・・・・」

南は思い起こしてそう言った。



昼休みになり、

「あ~・・・加瀬。 なんか食べたいものある? おごってあげる、」

南は腫れ物を触るように夏希に言った。


すると、くるっと勢いよく振り向いた彼女は、ニコーっと笑って、

「じゃ・・・お寿司のランチでお願いします!」

いつもの彼女の声のトーンだった。


「すし?」


「自分じゃあ食べれませんから! あ~、お寿司久しぶり! ありがとうございます!」

嬉しそうに席を立った。



「あ~、やっぱヒカリモノさいこー。 あたし、シメサバ大好物なんですよぉ~。」

夏希はすし屋でも元気だった。



逆に

切り出せへんやんか。



南は高宮のことをつっこむこともできなかった。



いつものように

もりもりと食べまくる彼女は

元気そのもので。




「なんかあたしらしくもなく、つっこめなかった。 どーしよ、」

南は萌香にコソっと言った。


「本当に、加瀬さんは知らなかったんでしょうか。」


「志藤ちゃんの話だと、知らないみたいやったって。 もー、高宮、何考えてんねん!」




「あ、どうも先日はお世話になりました~! あの後も盛り上がっちゃったんですか~?」



得意先の人間と電話を元気にする夏希を見ながら萌香は焼肉屋で高宮を思って泣いてしまった彼女のことを思い出す。



きっと

ものすごく動揺してる。

それを周囲に悟られないように

一生懸命に元気を出している



小さなため息をひとつついてみた。





「あ、お忙しいところ申し訳ありません。 東京の栗栖です・・・」


萌香は人気のない休憩室で、大阪支社の秘書課に電話をしてみた。



「栗栖、さん?」

高宮は驚いたような声を出した。


「大阪は大変なことになっていたんですね、」


「ええ。 もう着くなりすぐ仕事です。 支社長が入院されてからペンディングになっていることが山積みで。 芦田常務に渡す前に仕分けをしないと、」


「急でしたね。」


「・・まあ、」




「でも・・・加瀬さんに言ってあげるくらいの時間はあったんじゃないんですか?」




萌香は彼を責めてしまった。



電話の向こうの彼は無言で。



「彼女はあなたを思って泣いていたのに。」



「え・・・」



萌香の言葉が高宮に突き刺さる。



「いまどき珍しいくらい・・・本当にピュアな子で。 自分の気持ちさえきちんとわかっていなくて。 だって。 自分で気づいてないんですから。 加瀬さんはもう高宮さんのことを好きになっているって。」



彼女が?

おれのこと・・・?



「私にわかって彼女本人がその気持ちに気づいていなくて。 もうあなたのことがすごく大事な人になってるってこと。 だから、あなたがつらい思いをしている時、胸が痛くなって涙がこぼれて。 そんな人が急にいなくなってしまったら・・・。 かわいそうすぎます、」



高宮はしばらく言葉が出ずに黙りこくっていた。



そして、



「・・言えなくて。」



ポツリとそう言った。



「え・・・」



「言えなかった。 彼女の気持ちがどうなっているのかわからなくて。 このまま半年も会えなかったら、いったいどうなってしまうのかって考えただけで・・・。 言えなかった。 だって、待っていてなんてまだとても言えないし。

どうしていいか・・わからなくて。」



彼の本心だった。



「加瀬さんにそう言ってあげてください。」

萌香はぎゅっと携帯を握り締めた。






「は? マジ? なんでまた急に・・・。 加瀬、捨てられたの?」


「もう、捨てられたなんて縁起でもない・・・。 黙って行かれただけやんか、」


「同じじゃないですか・・?」



部署でもなんとなく南や八神たちが夏希に気を遣いながら噂をしていた。



斯波は

そんな会話に入るわけでもないが、黙って聞いていた。




だから

あんなヤツ

やめときゃよかったんだ。


恋愛初心者のクセして、あんなのいきなり大物過ぎる。




何考えてんだ?

さんざんエサやっといて

いきなりいなくなるなんて。

そういう上級者のテクなんか使うなって!




ふつふつと高宮に対する怒りが沸いてくる。




「あ、南さーん! コレ、経理から回ってきたんですけど。 これでいいんですか?」

夏希が元気な声で部屋に入ってきた。


「あ、ウン。 あれ? これなに? 『以下のとうり』 って書いてあるよ・・・」


「だって・・変換できなくって。 おかしーですよ。 このパソコン・・・。」


「『とうり』やなくて『とおり』やろ?」

と指摘すると、


「えっ! そうなんですか??」

リアルに驚いていた。


「知らなかったの・・・?」

半ば呆れて言うと、


「え~、知りませんよ・・あたし、ずうっと『そのとうり』とか書いてましたよ?」


「もー、しゃあないなあ、加瀬は・・」



そんなやり取りを見ていて。




加瀬は

ほんっとに人間としてどうなんだって思うくらいバカで。


人を疑ったりとか

人を恨んだりすることも

ないんじゃないかと思うくらい


素直で。



心配になってしまうくらい。



斯波は明るく笑う彼女を

頬杖をついてぼんやりと見ていた。



事業部のみんなは影で心配しますが・・

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