You're my sunshine(6) | My sweet home ~恋のカタチ。

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せつなくてあったかい。
そんなラブストーリーがいっぱいの小説書いてます(^^)

「あ、斯波ちゃん! 遅いや~ん!」



のそっとやって来た斯波に南はいつものようによく通る声で言った。


「ども・・」

気まずそうにペコと頭を下げた。


「あ、こちらにどうぞ! 今、グラスとおつまみを頼みますから、」

夏希はささっと自分の席を空けて斯波に譲った。


「あ、いいよ・・」

と言うが、彼女はつまみの追加と新しいグラスを頼んだ。


「さっきからめっちゃ気が利くねん。 自分の歓迎会なのに、お酒とかも全部頼んでくれて。」

南は斯波に笑いかける。


「さすが・・体育会系。」

志藤はまた感心した。



「斯波さん、お酒は何にしますか?」

夏希は彼におしぼりを手渡す。


「あ・・斯波さんはお酒が飲めないの、」

萌香がそっと言ったが、


「・・ビールを、一杯だけ、」

それをさえぎるように斯波は言った。


「ハイ。 どうぞ。」

夏希は彼のグラスにビールを注ぐ。


「・・ありがとう、」

斯波は素直に礼を言った。


そして彼が冷めてしまったつまみに手をつけようとすると、

「あ、今・・温かいものを頼んでありますから。 これはあたしがいただきます。」

夏希は笑顔で言った。


「そんな気いつかうことあらへんで、」

南が横から口を挟むが、


「いえ。 新入りですから・・。 みなさんの足手まといにならないように。 あたし、ほんと雑用とかぜんっぜん平気なんで。 なんでも言いつけてください。 体力には自信あるし! あと! もし会社の野球大会とかあったら出ますから!」

夏希が張り切ったので、


「野球大会は・・・ないなあ・・・残念ながら。」

みんな笑ってしまった。



新しいつまみがテーブルにやってくると、

「あ、お醤油でいいですか? かけさせていただきますっ!!」

いちいち張り切る夏希にみんな笑って。

斯波もさすがに苦笑いだった。



彼女がやって来て事業部は、ぱあっと明るい空気になった。

元気がよくて、明るくて。

あっという間にみんなにとけこんだ。




ところが。


「場所はここ。 わかりやすい所だから大丈夫だと思うんだけど。」

萌香は地図と封筒を夏希に差し出した。


「ええっと・・・。中丸設計って会社に届ければいいんですね。」


「今度の定期公演の舞台のデザイン画なの。 ウチの企画の人がデザインしたものを設計会社の人にお願いして設計図に起こしてもらうの。 ウチのオケは舞台も華やかに楽しくって本部長がやられていた時からそういう方向で。だから舞台設計もすごく練って。」


「へえ・・そうなんだぁ。 なんか楽しそうですね。」

夏希は笑顔で言った。



神保町で降りればいいんだよね・・。



夏希は『初めてのおつかい』を楽しんでいた。



好事魔多し。



途中の駅で乗ってきた初老の女性が彼女の前に立つ。



なんか

気分が悪そうだなあ・・。



顔色の優れないその女性を見て、

「あの・・どうぞ。 座ってください。」

席を譲った。


「・・すみません・・ありがとう、ございます・・・」


「顔色、悪いですけど・・お加減でも悪いんですか?」

思わず聞いてしまう。


「・・いえ・・」


その人は否定をしたが、胸を押さえて苦しそうにし始めた。



「大変・・! 次の駅で降りましょう!」

夏希は慌ててその人を抱えるようにした。


駅に着くと、ベンチにその人を座らせて、

「誰か! 駅員さーん!」

慌てて助けを呼んだ。


「どうしました?」

ほどなくして駅員がやって来た。


「この人が、なんだか苦しそうにして・・。 救急車呼んだほうがいいんじゃないですか?」

夏希は焦りながら言う。

人だかりができて大騒ぎになってしまった。


やってきた救急車にその人は運ばれていき、夏希はふうっと一息ついて、すぐやってきた電車に乗った。

空いている座席に座ったが・・・




えっ!?



封筒が・・・

ない!!



デザイン画の入った封筒が・・

ない。




「失くした・・だと?」

斯波は怖い顔をさらに怖くして夏希をにらみつけた。


「すみませんっ! ほんと駅員さんにも聞いて・・何度も探したんですけど!」

夏希は頭を下げっぱなしだった。


「・・おまえ・・・。 舞台のデザイン画はなあ・・・マル秘事項だろっ!! そんなもん、どっかの人間に拾われたらどーすんだっ! 封筒にウチの社の名前も入ってるのに!!」

ものすごいカミナリが落ちた。



マル秘・・・。



夏希は自分のしでかしてしまったことの大きさが身にしみた。


斯波はそこにいた萌香に、

「企画の・・阿部を呼べ!」

低い声でそう言った。


「はい・・」


「はあ?? コピーがない?」

斯波はまた声が大きくなってしまった。


「や・・今までも向こうから上がってきたものはもちろんコピーして残しておきますけど・・。デザイン画は向こうで取るだけで・・こっちではコピーをしませんし・・」


企画から呼ばれてやって来た阿部はこわごわと言った。

夏希は顔面蒼白になった。



「あ、あたしのせいです! もう一度探して!」


「そんなことより中丸設計に話をするのが先だろう! ガキの使いじゃねえんだぞ! おまえは書類を届けることもできないのか!」

斯波の怒声が事業部中に響き渡る。


「それでなくても阿部のデザインのあがりがおそくて、今日がリミットだったんだぞっ!!」


「すみません!  あたしの責任です!あたしが先方に行って・・」

夏希はもうどうしていいかわからないほどパニくっていた。


「新人のおまえにどう責任が取れるって言うんだっ!」

そう怒鳴られたが、夏希は反射的に部署を飛び出した。



「加瀬さん!」

萌香は彼女を止めるように声をかけるが、その声も聞こえていないようだった。



夏希は大変なミスをしてしまいましたが・・・


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