グレーテルのかまど (12月20日放送)
ピーターラビットの母
ピーターラビットの母
自立する女性を目指す一方で…、古風ではあるが、幸
せな結婚は、女の人生の冠・・・とも考えていたポター。
最愛の婚約者との死別、その試練を乗り越え、初めて
結婚したのは、47歳の時。今日は、ポターが、クリスマ
スに、愛する夫と食べたケーキとともに、ヴィクトリア時
代に生まれた一人の女性の、愛の物語をひもときます。
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100年以上も愛され続ける、ピーターラビットのおはなし。
この絵本を生み出したのが、1866年に、イギリスで生ま
れた作家、ビアトリクス・ポターです。
いたずら好きのウサギ、ピーターが主人公の絵本で知ら
れるポターですが、クリスマスと、こんなゆかりがあるの
をご存じでしょうか?
実は、彼女のデビューは、1890年、絵本ではなく、
クリスマスカードなんです。
イギリス伝統の、クリスマスプディングを持つウサギ。
クリスマスカラーのコートで、カードを配る郵便やさん。
クリスマスカードは、
絵本より12年も前に出版されたんですよ。
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また、47歳で、弁護士のウィリアム・ヒーリスと結婚。2人
で迎えた初めてのクリスマスには、こんな事が・・・。
夫ヒーリスの末裔が書いた、ポターの伝記によると、彼女
が、彼の実家に、クリスマスプレゼントとして、ホークスヘ
ッドケーキを贈ったというのです。
ホークスヘッドとは、
イギリス北西部の湖水地方にある、小さな町の名前。
ポターの夫は、そこに、事務所を構えていました。
調べてみると、町の絵ハガキに、ケーキのレシピが。
パフ・ペストリーとは、パイ生地のこと。
ホークスヘッドケーキは、干しぶどうやモラセスなど、
イギリスならではの素材を使ったパイらしいのですが…。
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イギリスのお菓子に詳しく、
ポターの研究家でもある、北野佐久子さん。
ホークスヘッドケーキは、
クリスマスらしいお菓子だと言います。
(北野佐久子)
そもそもクリスマスというのは、収穫を祝うお祭りの意味
合いもあったものですから、イギリスのお菓子の中には、
ドライフルーツであるレーズンですとか、オレンジとかり
んごとか、そういったフルーツを盛り込んだお菓子が、ク
リスマス菓子として存在していて。ホークスヘッドケーキ
も、レーズンを入れたお菓子ということで、クリスマスに
ふさわしいお菓子、なのではないかと思います。
ポターの夫・ヒーリスは11人兄弟。クリスマスに彼の実
家を訪れると、大勢の親族が集まっていました。ポター
が持っていった、大きな丸いホークスヘッドケーキには、
自然の恵みが詰まったレーズンがたっぷりと入り、ヒー
リス家で、クリスマス恒例のメニューになったそうです。
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ポターは、1866年、裕福な弁護士の娘として、
ロンドンに生まれました。
体が弱く、友だちづきあいが許されなかった、孤独な子供
時代。彼女が、多くの時間を費やしたのは、絵を描くこと
でした。これは、8歳の時に描いた、毛虫の絵。
毛の一本一本まで、生き生きと描かれています。
小さな生き物が友だちだったポターは、
彼らの姿を、飽きることなく、スケッチしたといいます。
女性が職業を持つことは、ほとんど許されなかった時代。
24歳になったポターは、得意な絵で、自らの人生を切り
開いていきます。自分の絵が、クリスマスカードとなった
事が自信となり、絵本作家になりたいと、考えるようにな
ったのです。
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いくつもの出版社に、アイデアを売り込み、「ピーターラビ
ットのおはなし」を出版したのが、1902年、36歳の時。
この絵本作りが、編集者の、
ノーマン・ウォーンとの出会いのきっかけとなりました。
毎日のように手紙を交わして、2人で絵本を作るうちに、
互いに惹かれあい、やがて、ポターは結婚を申し込まれ
ます。
ビアトリクス・ポター研究家
(ジュディ・テイラーさん)
ポターは、ノーマンが見せた創作に対する理解や知識に
惹かれていたと思います。しかし、ポターの両親は、ノー
マンのことを、商売人で自分たちより階級が下なので、娘
とは不釣り合いだと考えていたようです。
両親は結婚に反対しましたが、周りには秘密にするとい
う約束で、婚約を果たした2人。しかし、そのひと月後、
ノーマンは白血病で亡くなります。
最大の理解者で、最愛のパートナーを失ったポター。
彼女が、何度か訪れたことのある、湖水地方に農場
を買ったのは、その年のことでした。
村の風景や、村人との出会いが、傷心のポターを慰めた
のでしょうか。彼女の絵本には、村の風景が、いくつも登
場するようになります。
いたずら好きの子猫が遊ぶ塀。
今も、当時のままです。
ネズミの夫婦が逃げる道も、村の一角にありました。
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そして、農場を買ってから8年後。
ポターに、人生の転機が訪れます。
農場経営で、何かにつけ、相談に乗ってもらっていた、
弁護士のウィリアム・ヒーリスから、結婚を申し込まれ
たのです。反対する両親を押し切り、47歳で結婚。
親元を離れ、夫との暮らしが始まりました。
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新婚生活で頼りにしたのが、
ビートン夫人が書いた、料理と家事の本。
ヴィクトリア時代、主婦たちの愛読書だったこの本を、結
婚祝いにリクエストしたとか。春には、夫のために、体に
いいハーブで、プディングを作ったというポター。
絵本に登場する、ハーブプディングを見ると、ポターはこ
んなプディングを作ったのかもと、想像が膨らみます。
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次第に腕を上げたポターは、クリスマス、ホークスヘッド
ケーキを夫の実家へ持っていきます。
(北野佐久子)
ポターの家庭は、クリスマスを祝う家庭ではなかったので、
ポターは小さい頃から、クリスマスの季節になると、寂しい
思いをしていた、ということなんですね。結婚して初めて祝
うクリスマスというのを、ヒーリスさんの大家族に温かく迎
えられて、ホークスヘッドケーキの味とともに、結婚した幸
せを、噛みしめたのではないかと思います。
最愛の伴侶を得たポターにとって、ホークスヘッドケーキ
は、何よりも特別なケーキになったのです。
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湖水地方の町に、当時のポターを知る人がいました。ポタ
ーの思い出の品を、今も大切にしているという、シリアさん
です。彼女が見せてくれたのは・・・。
(シリア・ブロックバンクさん)
この2冊の絵本はポターにもらいました。こっちは1941年
のクリスマスにサインをしてくれたものです。クリスマスに
は、毎年プレゼントしてくれたんです。これは「ひげのサ
ムエルのおはなし」で、1942年にもらいました。
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結婚後のポターは、ほとんど絵本は描かず、農場の経
営に力を注ぎました。湖水地方の生活文化を大切にし、
特に、在来種の羊の飼育に、熱心でした。更に、クリス
マスの度に、飼っていた七面鳥を村人にプレゼントして
いたとか。
都会育ちのお嬢様だったポターは、農場主として、
確実に、村の一員となっていったのです。
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ところで、イギリスでクリスマスツリーを飾る習慣が出来
たのは、ポターが生まれたヴィクトリア時代の事。1837
年から60年以上にわたり、イギリスを統治した、ヴィクト
リア女王。彼女の夫、アルバート公が、故郷ドイツの習
慣だったクリスマスツリーを持ち込んだのが始まりとか。
1848年、イラスト付きの新聞に取り上げられた、
王室のクリスマス風景。
それを見た人々が真似をして、ツリーを飾る習慣が、
イギリスに広まったのよ。
ツリーの下にあるのは、クリスマスプレゼントかしら?
新聞に載ったクリスマス風景の中に、
プディングを作る姿も見つけたわ。
イギリスで、今も食べられているクリスマスプディング。
ドライフルーツやスパイスなどを入れた生地を、当時は、
布で包んで茹でていたそうよ。
こちらは、楽譜つきのクリスマスソング。家族みんなで、
歌ったのかしら? 家族が集まってツリーを飾る。クリス
マスの過ごし方は、ポターの生まれたヴィクトリア時代
に、一般的になったそうよ。
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ヴィアトリクス・ポターが、クリスマスに家族に贈った、
ホークスヘッドケーキ。
サクっとしたパイが、濃厚なレーズンの甘みを、
優しく包む、イギリス伝統の味です。
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ポターは、農場主となった後も、病気の子供を援助する
ため、チャリティー用にクリスマスカードをデザインして
いました。湖水地方には、彼女からのプレゼントが、今
も残されています。
美しい自然を、開発の手から守ろうと、絵本から得た収入
で、たくさんの土地や、農場を買ったポター。美しい風景
や、それを生み出す農場の生活を、残したいという願いは、
彼女が土地を寄贈した、環境保護の団体に受け継がれて
います。
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1943年12月22日。ポターは、77歳で亡くなります。
愛する夫に、見守られた最期でした。
30年に及んだ結婚生活。クリスマスには、夫とホークス
ヘッドケーキを囲み、幸せを噛みしめたポター。
彼女の死から、3日後のクリスマス。
遺言により、遺灰は、彼女が守り続けた、
湖水地方の大地にまかれたそうです。
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ホークスヘッドケーキというお菓子、今回初めて知りま
したが、サクっとしたパイ生地とレーズンの組み合わせ
は、とっても美味しそう。材料として出て来た「モラセス」
と「ゴールデンシロップ」もすご~く気になります。その
へんが、ホークスヘッドケーキの味の秘密なのかなと
想像がふくらみます。う~んこれは一度食べてみたい。
それにしてもお金持ちのお嬢様と生まれながら、クリス
マスは寂しく過ごしてきたなんて…。少女漫画に出てき
そうな設定というか、絵を描く事でその寂しさを紛らわせ
ていたのだろう少女時代を思うと、切なくなってしまいま
す。結婚して大家族のクリスマスを過ごせるようになっ
て、心の底から幸せを感じたんだろうなあって思います。
ピーターラビットが描かれた街が存在していたというか、
ポターが過ごした街の中にピーターラビットが描かれた
というのか、そのまま絵になるような景色を守ろうとした
ポターの気持ちがわかるような気がします。絵本を描い
て、絵本の舞台となる世界を守る。それこそが、絵本の
ようなお話で。リアルなピーターラビットが飛び跳ねる、
そんな世界が守られていることに、感動。お金はこんな
風に使われて生きるんだなあと感心してしまいました。
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