「ごちそうさんまでの日々」
～あなたはそのままでいてくださいね
悠太郎） もう、秋なんですよね。
静） 卯野の皆さん、お元気やったん？
悠太郎） 多少のケガやヤケドはあったようですけど、
お元気で。僕が伺った時には、既に皆さん総
出で、店の蓄え使って、炊き出しされてました。
静） 炊き出し？ 自分も被害に遭うてるのに？
め以子） 元気なんです。うちの家族。
悠太郎） 無事を知らせる電報を打ったかとお尋ねし
たら、そんなもの打ってるヒマあるかぁって、
怒鳴られました。
め以子） お母ちゃんは？
悠太郎） 子どもができた言うたら、あなたがどれだけ
食べてるか思うと、申し訳ないって。頭下げら
れました。
め以子） しっかり食べて、しっかり、いい鍋底大根に
なるんです。
悠太郎） 鍋底大根？
め以子） はい。
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
（回想）
室井） 鍋底大根は、うまくなくてはならない！ひっくり
かえった具たちの為に、全力でうまくならなくて
はいけない！ じゃなきゃさ、死んだちくわや、は
んぺんに、申し訳が立たないじゃないか！
悠太郎） 室井さん、そんな事言わはったんですか？
希子） うん。それでね、今、目の色変えて、書いては
るみたい。
悠太郎） どんなものを？
希子） それがね、童話なんやて。
静） ど…童話かいな。
希子） うん。しかも、登場人物がみ～んな食べもん
で。…で、今、鍋ん中で、昆布とカツオが運命
の出会いを果たしたところらしいです。
悠太郎） 想像つきませんね。
希子） でも、それが、
室井さんなりの鍋底大根なんやて。
悠太郎） 僕も、考えんとあきませんねえ。鍋底大根。
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
悠太郎） う～ん！ やっぱりうちはええですねえ。屋
根があって、布団があって、ご飯が出てきて。
…ありがたい話ですよ。
め以子） 思ったより、元気なんですね。
悠太郎さんは。
悠太郎） 現場に入るまでに、一応の状況は聞いて
ましたし。かなり、覚悟した上で入ったんで。
大火の現場も…まあ、見た事ない訳ではあ
りませんし。被害の規模は、違いましたけど。
め以子） 明日、食べたい物、ありますか？
悠太郎） 何でもええですよ。普通でええです。
め以子） わかりました。おやすみなさい。
悠太郎） おやすみなさい。
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
（うなされる悠太郎を見て…）
め以子） 平気な訳、ないわよね…。
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
め以子） はい、どうぞ。
悠太郎） 今日は何ですか？
め以子） な～んでしょ？
悠太郎） 行ってきます。
め以子） 行ってらっしゃい。
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
藤井） メチャメチャ活躍したんやて？
悠太郎） 活躍したと言うより、使われ倒したと言うた
方が、正しいと思いますけど。
大村） まあしゃあないわな。
何でもやります言うて、行ってんから。
悠太郎） こっちの仕事は、ご迷惑、おかけしました
よね。ホンマに、すいませんでした。
藤井） それがさ、大工も、請負業者も、みんな復興
に行くもんやから、意外に暇でな。
大村） 資材も向こう優先やろうし、
当分はまあそんな状態やろう。
小学校も棚上げになるかもしれんし。
悠太郎） えっ？
大村） ただでさえ予算がないいうて、
中止になりそうになってたもんやで。
悠太郎） そんなもんなんですか？
大村） そんなもんなんですよ。
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
竹元） これがあの浅草とはな。
悠太郎） レンガ造は倒壊や崩壊。木造密集による、
延焼の被害が、最も大きかったようです。
竹元） これは？
悠太郎） コンクリート造の建築物でも、火災の熱で、
窓ガラスが溶けて、延焼してしまうんで。
竹元） 改良の余地ありだな。
……よし。調査結果を整理しろ。来週中に頼む。
悠太郎） …はい。
竹元） 何だ？ 浮かない顔だな。
悠太郎） 気が重いだけです。
竹元） なぜだ？
悠太郎） 圧死や焼死や…。
まるで建物が…人を殺しているようでした。
竹元） ハハハッ。無駄な感傷だな。
天災なんて明日は我が身だぞ。参考になる。
それぐらいの思いで、見れんのか？ 建築をな
りわいとするんだったら。
悠太郎） あなたは見てないから
そんな事が言えるんです！
竹元） そうだ。お前は見てきているんだ。
それを自覚しろと言ってるんだ！
いいか？ 今の大阪の都市計画を担う人間で、
現場に行ったのは誰もいない。
お前だけが、現場を見ているんだ。つまり、今
のお前の発言は、上の人間を左右する、そう
いう力を持っている。
悠太郎） …え？
竹元） この報告は、今後の調査の方向を決定づけ
る。今のお前の切ろうとしている舵は、確実に、
都市計画事業の、進むべき方向を決める。
身の程知らずが。
今お前はそういう場所に立っているんだ！
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
悠太郎） 先に寝ててくださいよ。
体のこともありますから。
め以子） 隙を見てお昼寝してますから。よいしょ。
悠太郎） 何ですか？
め以子） フッフッフッフッフ～。はい、新米です。
悠太郎） うわ～。
め以子） これを、このままですね…よいしょ。
お弁当のおむすびって、冷えてるでしょ？
新米の熱々は格別だから…。
はい、まずは、お塩でどうぞ。
悠太郎） ほな、いただきます。うまい！ うまいです。
お米が甘うて、もう、これだけで十分です。
め以子） うん。旬の力ですねえ。
悠太郎） 守らんとあきませんね。
め以子） うん？
悠太郎） この生活を守っていくのが、僕の仕事です
よね。僕の、鍋底大根ですね。
め以子） そうですねえ。まあ、新米くらいは、心おき
なく買えるお給料が欲しいですね。
悠太郎） まあ、そうですね。
め以子） さっ、旦那、次、何にしやしょう？ どの子も
いい子入ってますよ～。どの子いきますか？
どの子も、いい味出しやすぜ？
悠太郎） 結局はそれをやりたかったんですか？
め以子） え…ダメですか？
悠太郎） あなたはそのままでいてくださいね。
め以子） そのまま…。
悠太郎） （笑）
め以子） えっ、ちょっと…何？ 何で？
そのままでって言うから。
もういいですか？ これ。満足しました？
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
静） この時、この時だす。
ぐら～っと来たら、どないしますかぁ？
へっついさんは、
水がないと、大変な事になりますなあ。
関東大震災は、
遠く、大阪の人々の心にまで、
揺さぶりをかけただけではなく、
やがて、その街造りをも、
大きく突き動かしていく事に、
なったのでございます。
竹元） 高速鉄道こそ、新たな計画の、
第一歩になるのであります。
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
静） そろそろ、お正月の支度もせんとな。
め以子） そうですねえ。
希子） ちい姉ちゃんに、お手紙来てるよ。
め以子） あっ、ありがとう。お母ちゃんから。
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
はいはい。さあ、今回もいいセリフ入りましたよ～。
忘れた頃に、投入される、悠太郎による萌えセリフ。
あなたはそのままでいてくださいね。
いやいやいや、そのままじゃあかんやろ～！！！
とお茶の間から一斉にツッコミが入ったんじゃない
の？って思ったのは私だけ？ まさか、観てる側も
本気でめ以子がそのままでいいと思ってるのか？
案の定、悠太郎のセリフをそのまんま、そのまま
の恰好でいろと言われたとしか思わないめ以子。
笑いをとるシーンだってのはわかっているけど…。
バカというより、文学的素養がカケラもない、繊細
なところがカケラもないキャラに描かれてるから。
つまり…昨日め以子自身が言った通りなわけで。
誰だってお腹は空くじゃない？
私がわかる、唯一の真実って…それしかないの。
人の気持ちはわからないけど、誰でもお腹が空く
事だけはわかる。お腹が空くのは、みんな一緒！
♪みんなみ～んな生きているんだ、友だちなんだ
（ｂｙ 手のひらを太陽に）的に、それがめ以子にわ
かる唯一（唯一！）の真実だと、宣言されちゃった。
私は人の気持ちはわかりませんよ！って、堂々と
先制攻撃されちゃったというか。それ言われたら、
情緒的成長は期待できないよねえ。や・ら・れ・た。
主題歌の歌詞にも、「どんな君でもアイシテイル」
って入ってるしね。あんな君でも、そんな君でも、
どんな君でも愛するのが主題だから仕方ないか。
でもね、でもね、「鍋底大根」って例え、わからなく
はないけど、な～んかしっくりこないよ、やっぱり。
ただ、普通の生活が何より幸せだってのは、確か。
行ってきます、行ってらっしゃいがあって、屋根が
あって、布団があって、ご飯が食べられる生活…。
それが当たり前に思える日々は…うん、幸せだ♪
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