ある時、某生徒さんから「ピカルディーの3度はなぜピカルディーと呼ぶのですか?」と質問されて、あれ?そういえばなんでだろう?と思い調べてみた面白かったので記事にしてみます。

 

日本語のwikiだと由来的なことは何も説明されていません。

 

 

 

紛らわしいのがフランスにピカルディーという地名があることです。ピカルディー地域圏というwikiがあるくらいでナポリの和音がイタリアのナポリ地方と関係があるので、何も大して調べもせずに地名関係と思っていましたが、どうも違うようです。

 

 

ピカルディー地域圏

 

 

丁度こういった音楽理論が出来上がる過渡期にもっとも活躍したルネサンス音楽の代表的作曲家であるジョスカンがピカルディー地方出身ですし、なんとなくそうなのかなぁ?くらいに思っていました。

 

 

残念ながら日本語のwikiの音楽関係はあまり充実しておらず、クラシック音楽はそもそも外国の文化なので仕方ないのですが、フランス語と英語のwikiが詳しいです。

 

 

 

 

 

 

語学が出来なくても簡単に翻訳を、しかも無料でしてくれるなんていい時代になりました。最近では外国のページを見ることも増えたのは翻訳機能がかなり充実してきたからでdeepLとかマジで凄いです。

 

 

明確な語源は不明なものフランスのピカルディー地方云々というのはジャン・ジャック・ルソー(1712-1778)の本が書いた本が初出ですが、音楽での使用例はもっと前からあり、どうもこれは現在では否定的にみられているようです。

 

 

現在ではフランスの北部の方言で「尖った」または「鋭い」を意味する古フランス語「ピカール」に由来し、短3度を鋭く(シャープ)する=長3度になるという仮説が有効のようです。

 

 

 

ではなぜ鋭く(シャープ)するのか?というと明確な根拠となる資料をネットで見つけることは出来ませんでしたが、私が知る限りではシェーンベルクが自著の和声法の中でそのように述べている点と、ルネサンスからバロック時代に隆盛した音楽修辞法において度数の少ない数ほど協和(神)に近いという考えに基づくものであると思われます。

 

 

 

音楽修辞法についてはバッハやヘンデルなどのバロック音楽を理解する上で極めて重要であるにも関わらず日本ではとても軽んじられているのがとても残念です。

 

軽んじられているがゆえに本もなく、現状では和書ではまともな本はありません。

英語で良ければ多分これが一番と思えるのが下記の本です。

 

 

 

 

https://www.amazon.co.jp/Musica-Poetica-Musical-Rhetorical-Figures-Baroque/dp/0803212763

MUSICA POETICA (英語です)

 

 

今回は音楽修辞法の記事ではなくピカルディーの3度の記事なので割愛し、ここからは私個人の意見としてそういう風に言う人がいるという風に受け取って欲しいのですが、重要な部分だけを抜粋すると当時全盛だった修辞法ではより単純な比率(協和する音程)が神に近い数字として重視され、教会音楽では協和音程こそが神の響きとして良いものとされ、不協和は制限付きで使える響きとされていました。

 

 

オクターブや完全5度などの協和がルネサンス音楽では極めて重視されているのはこの時代の音楽を勉強なさった方にとっては良くご存じのはずです。

 

 

ピカルディーの3度は曲の最後を短3和音で終わることを不満足としたので長3和音にしたわけですが、長3和音の比率は4:5:6であり、比較的小さい整数です。完全とまでは言えないまでも美しい協和した数字と言っても良いかもしれません。

 

 

 

対して短3和音は10:12:15とかなり大きい数字になります。

 

協和音程こそを絶対的な基準とした時代において10:12:15という協和からかけ離れた数字は不協和の解決や曲の終止として不適切とされたことは音楽修辞法が全盛の時代においては当然と言えます(これは私の推測ですが)。

 

 

3度が使われ始めたのはルネサンス期のフォーブルドンからですが、教会音楽において神から遠い3度よりも神に近い3度が選ばれたと考えるのはおそらく正しいと思われます。

 

 

 

バロック時代までは音楽修辞法が十分に生きていたのでバッハやヘンデルの音楽は音楽修辞法なしに語ることは出来ません。ですのでバロック時代の曲には短調の曲でも最後は長3和音で終止する曲がたくさんあります。これは音楽修辞法を重視しているからと言い換えることも出来ます。

 

 

古典以降になると例えばベートーヴェンは短調の曲をそのまま短3和音で終えている曲が多数あります。

 

これはヨーロッパで音楽修辞法が軽んじられてきたことを意味し、この流れは現代まで続きます。ましてや外国の日本ではそもそも音楽修辞法の名前すら知らない人もたくさんいます。現代であれば不協和のまま曲が終止しても誰も何も言わないでしょう。

 

 

 

10:12:15の短3和音を4:5:6にするために3度音を鋭い(シャープ=鋭い)という意味の古いフランス語のピカールをするからピカルディーの3度かと思いますが、修辞法を絡めた考えは完全に私の推測ですので何か根拠となる文献などのソースがあるわけではありません。理屈として通るのでは?というだけなのですが面白かったので記事にしてみました。

 

 

 


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