FETコンプレッサーの王様とも呼ぶべきUNIVERSAL AUDIOの1176の実際のアタックタイムが気になったので、本当のところは何秒なのか調べてみました。
一応メーカーからは800μs~20μsとマニュアルにあります。1000μsは1msなので=800μsは0.8ms、20μs=0.02msになり、最短で1/50000秒という超高速アタックタイムを持っています。
最遅の800μsでも1/1250秒で1msを切っており、この極端に速いアタックタイムがパンチのあるカッコ良いサウンドを生み出すためにボーカルを始め色々なトラックで愛用されています。これは光学式や真空管式と比べると極端に機敏な動作でFETならではの個性とも言えます。
しかし、本当にこの通りであればサウンドにパンチを出す効果としてはアタックタイムが速すぎるので実際はもう少し遅いのではないか?と思いました。
1176は「1~7」で右側の数字が大きいほど速くなる
1176は普通のコンプと逆になっているのでわかりにくいですが、アタックもリリースも右側が速くなります。つまみの7が最速(20μs)で1が最遅800μsになります。
〇実際に最速と最遅を調べてみました。
WAVESのCLA-76
測定にはWAVESのCLA-76を用いました。
最も遅い「1」約8ms(公称800μs=0.8ms)
公称800μs=0.8msですが、実際にはその10倍で8msです。これでも十分速く耳ではっきりアタック感を残せる20msあたりのアタックには出来ませんが、個人的には速い設定の中の遅い設定という感じです。
最も速い「7」(公称20μs=0.02ms)
公称20μs=0.02msの設定は実際には0.4msでした。1msを切っており、十分すぎるスピードを持っています。
色々なメーカーから1176はモデリングされているのでほかのメーカーの1176プラグインは違った結果が出るかもしれません。
ともあれ実際のアタックタイムは0.4ms~8msであることがわかりました。ほとんどのコンプに言えることですが、額面上の数値よりも実際の動作は遅くなることがほとんどです。
〇それ以外の中間的な数値。
1176は1~7のダイヤル式で整数の中間の値の設定も可能なのですが、小数点の数値は飛ばして整数だけの残りの値も調べてみました。
「2の目盛り」=6ms
「3の目盛り」=3ms
「4の目盛り」=2.5ms
「5の目盛り」=2ms
「6の目盛り」=0.75ms
〇有名なドクターペッパー設定は?
1176の有名なセッティングのドクターペッパー設定では「アタック」を10時方向、「リリース」を2時方向、「レシオ」は4になっています。
アタック10時なら3の目盛りあたり
3の目盛りあたりなら3msのアタックタイムというになります。速い部類に入りますが、ほんの少しだけ音の頭が抜けてパンチ感が出る値であり、なるほどロック系のボーカルなどではカッコ良い感じになる美味しい位置と言えます。
ちなみにリリースののドクターペッパー設定である2時は目盛りでいうと5の辺りであり、測ってみたところ大体80msくらいでした。速くもなく遅くもなく無難な値です。
実際にボーカルで1176が使われている例は枚挙に暇がないくらい多く、1176が好きでよく使うという方も多いのではないかと思いますが、ドクターペッパー設定だと上のような波形イメージになります。
3ms程度のアタックによるほどよいパンチと当たり障りのない80msくらいのリリースでいい感じのセッティングであり、別に1176でなくても使えるセッティングで似たような設定を使う方は多いのではないかと思われます。
〇まとめ
前回の記事で適切な処理を出来るかどうかということについて述べましたが、ミックスでは求める効果は千差万別です。もっと遅い20msのアタックや1msの極端に短いリリースが必要なら1176では不可能なので「なんとなくカッコ良いから、ネットで評判が良いから」などの理由で1176を使うのは不適切ということになります。
WAVES C1
仮にドクターペッパー設定ががっちり自作のボーカルコンプにハマったならデジタル系のコンプで似たような設定にしてみる実験を行うと良いかもしれません。
(これもプラグイン上の数値と実際の数値の違いを測る必要があります)
仮にWAVES C1でドクターペッパー設定にすれば当然1176でのドクターペッパー設定と似たような音になります。Bulestripeのようなヴィンテージ的な歪みは入りませんが、逆にこれ以上歪ませたくないクリーンな処理がしたいケースもありますのでそういう場合はむしろデジタルコンプの方が良いとも言えます。
ミックスでは「なんとなく」ではなく、ちゃんと目的やコンセプトを明確にして適切な処理を行うことが重要であり、それが果たせるならデジタルコンプでもミックスでの調整は可能ですし、果たせないなら1176やLA-2Aや670などのプラグインを買っても十分な性能を発揮することは出来なかったりします。
初学者の方であれば「じゃあEDMやメタル系の激しい系の音楽にはどういうコンセプトがあって、それぞれはどういうEQやコンプの処理でそれを実現できるの?」という疑問が起こるかもしれません。
それに関してはある程度ミックスが上手な方は方法論とか定石をお持ちでしょうが、ジャンルごとの方向性や個人の趣味嗜好、あるいは曲ごとのケースバイケースなど色々で一概に〇〇〇と言えなかったりします。
ミックスでは高いコンプやEQを買うことよりもむしろそちらの方が重要だと個人的には感じていますが(高いものを買うのを否定しているわけではありません。むしろお金に余裕があるならある程度揃えた方が良いと思います)この部分がミックスの難しいところでもあり、また面白いところでもありますが、それについては機会があれば別の記事でまた述べてみたいと思います。
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