前回が古典のベートーヴェンでしたので、
次はロマン派のシューマンの中から
子供の情景 第7曲のトロイメライをアナリーゼしてみたいと思います。
(溜まったらリスト化しようかと思います)

シューマンについて、子供の情景についても
色々なエピソードや蘊蓄は幾らでもネットや書籍で見ることが出来ますので、
やはり純粋に音楽だけを見ていきましょう。





IMSLPはこちら

トロイメライはドイツ語で夢という意味ですが、
如何にも子供が見る他愛ない夢という曲調です。

そのままではクラシックの曲ですが、
全体的な雰囲気の作り方は現代のBGMでも応用出来そうです。


本気でやってみたい方は是非、
まずは自分でアナリーゼしてみましょう。


コードが取れても調設定が出来なかったり、
和声の把握が不正確だったり、
細かい部分が取れていなかったり、
という人は結構たくさんいますので、
この記事はあくまで答え合わせとしてやってみると
本当の意味での自分の上達に繋がります。


特に作曲志望の方はそのようになさることをお勧めします。
その曲をアナリーゼ出来ない、何をやっているのかもわからないのに、
自分で同じレベルの曲を作るのは技術的に不可能です。


高いアナリーゼ能力と作曲能力は必ずしもイコールではありませんが、
音楽をしっかり把握出来る能力は自分で作曲するときに
考え得る選択肢の増加、その取捨選択・判断速度の向上、
ケアレスミスの減少など作曲に大いに役に立ちます。


何に寄らずしっかり音楽を理解し、把握出来る人は
大抵作曲においても高い能力を持っている人が多いです。


音楽に対する把握力、理解力の低さはそのまま
自分が作るときの発想の狭さ、高度さ、速度、ミスの多さに関わってくるので、
何を聴いてもちゃんと自分で理解出来て、
真似出来るようになると作曲の上達に繋がっていきます。
(実際に真似するかどうかは別として)


音楽をしっかり理解する=作曲能力の向上は
ある意味当たり前のことですが、
なかなか一朝一夕では行かない部分もあり、
基礎的な内容の習得度合や日頃の訓練がものをいうので
常日頃からの努力が大切になります。


今回も上にポピュラーのコードネーム、
下に和声の記号を書いています。

1~4小節目

この曲はある種の再現部を持つ非常に簡単な変奏曲のようであり、
中間部に簡単な展開部を持つ3部形式のような形式でもあります。

小節構造的には2部形式っぽくで書かれていますが、
こじんまりした提示→展開→再現という
古典の基本概念に忠実な構造になっています。


紙一枚の短い曲ですが、いわゆる典型的なクラシックの概念を持った
構造なので、全体を見渡した後にその点も抑えておきましょう。


最初の4小節はテーマの提示で
Ⅰ→Ⅳ→Ⅰ2→Ⅴ7→Ⅰ1→Ⅴ→Ⅰ→Ⅴという流れで、
サブドミナントが1回出てくるだけで、
あとはずっとⅠとⅤの反復です。

着目すべきは和声の単純さではなく、
隠されたリズムで、
和声の変化のタイミングがかなり変則的な点です。

 F  → B♭ → F → C → 
5拍   3拍   1拍   2拍  

 F  → C  →  F → C7
0.5拍  0.5拍   1拍   3拍

*譜面を見て確認してみましょう。

ジャズでいうところのチェンジのタイミングが甚だ不規則で
和音の移り変わりが小節線を跨いでいたり、
強拍、弱拍がランダムです。


和声とはこういうものですが、
これによって聞き手にイチニチサンシイという
手拍子を取れるようなリズムを感じさせず、
揺り籠が揺れるような曖昧な揺らぎを印象付けます。

これはそのままBGMでも活用出来るテクニックですし、
実際に私はしていたりします。


シューマンが此処で狙っているのはある種のルバート効果であり、
演奏家さんがシューマンの意図を汲むならば
拍通りではなく、ややルバート気味に弾くはずです。
(他愛ない子供の夢といった感じで)


この部分に限ったことではありませんが、
アナリーゼすることによってある程度までは
一体作曲家が何を考えているのか?何を狙っているのか?
演奏者にどういう表現を求めているのか?は
例えなんとなくでも伝わってきたりします。


理想は楽譜を見ること=即アナリーゼですが、
最初の内はゆっくり、じっくり行うべきです。


この部分は和声的にはかなり古典に忠実であり、
全体を通して見ても、多少偶成和音が登場したり、
Ⅰの2転を基本形同様に使うなど
やや古典和声に比べて発展的な部分がありはしますが、
十分に古典和声で把握出来る簡単な内容です。


初期から中期にかけてのロマン派音楽のサンプルとしては
適切な難易度ではないでしょうか。


またシューマンの和声語法はそのままブラームスにも
受け継がれていくので、
シューマンがなんたるか?を理解しておくと
その流れに続くあとの作曲家の理解にも役立ちます。
(そのためにはたくさんシューマンをやらないといけません)


ドミナントモーションにはコードの間に山形の矢印を付けていますが、
すべて正規の解決をしているのもポイントです。


つまり完全終止(4度上)か偽終止(2度上)のどちらかになっており、
この辺りも古典和声からそれほど逸脱した和声進行がないことがわかります。


また書法がいわゆる声部書法に比較的近く、
一部音数が多い部分がありますが、
和声のソプラノ、アルト、テノール、バスを連想させるような
書かれ方をしているのもポイントです。
そのまま弦楽四重奏やオーケストラに編曲出来そうであり、
事実編曲練習課題としてもよく用いられます。


いわずもがな冒頭のド→ファーミファラドファファーというのが
テーマとなります。

5~6小節目

4小節目の最後からもう一度テーマが反復されます。
1回目と旋律の後半が異なりますが、
これは「確保」と呼ぶべき部分でしょう。


1回目より和声が複雑になっており、
副属7や偶成和音が登場します。

FA7DmでⅠ→ⅥのⅤ→Ⅵですが、
A7Dmに対する副属7であり、
調的な広がりが見えます。

さらにDmFmC/GD7G7C7と進み、
ⅤのⅤである副属7のG7も登場します。


問題は7小節目のFmで、KEY-FなのになぜFmコードが
登場するのか?という点です。


これはいわゆる経過和音(偶成和音)として解釈可能で
和声~理論と実習の青本に出てくる用法です。


古典でも既に偶成和音は登場しますが、
偶成和音がより発展的に
特に時代が下がるほど半音階を伴って用いられるようになるのが
ロマン派、あるいは後期ロマン派の特徴です。


一口にロマン派と行っても最初と最後で全然違いますが、
より音楽の表現力を上げるために
作曲家たちが和音の用法を発展的にしていく様を
個別のテクニックとして、あるいは全体の歴史の流れとして
ちゃんと把握しておくのは有益でしょう。


DmFmC/Gは純粋にコードネームだけを見ると
ダイアトニックとして???という感じですが、
アルトの動きを見れば「ラ→ラ♭→ソ」となっており、
アルトの半音階ゆえに生まれた偶成和音という感じです。


偶成和音についてよくわからないという方は
是非とも和声の基本的な勉強をお勧めします。


まずは偶成和音とはどういうものを云うのか?
独立和音とはどうやって違いを見分けるのか?
大家の作品におけるその具体的な用法はどんなものがあるのか?
などをしっかり学びましょう。


どのみち和声法をしっかり学ばないと本当の意味で
クラシックの作曲法は身に付きませんし、
クラシック的なオーケストラや室内楽も
作れるようにはならないと思います。
(なんちゃってで良ければ可能ではありますが…)


自分が何処までの理解度を持ちたいのか?
どのレベルまで進みたいかによって勉強の内容と
その深さは変わってきますので
短い人生で無駄な回り道をしないで済むように
しっかり目標と手段を見据えていきましょう。


D7(♭9)でⅡのⅤがオルタード化されているのもポイントです。
コードスケールを付けるならHMP5Bでしょうか。


Fmという偶成和音のあとにドミナントモーションの連続で一旦区切りです。
やはり最後はドラムのフィルインのように
それまでと比べて和声の動きに幅があり、リズムも細かいですね。
古典に忠実な作り方と言えるでしょう。


こういった考えは現代のポピュラーのボーカル曲や
BGMでもそのまま受け継がれています。


次回はリピートマークの続きからの予定です。


本当はポップスやロック、あるいはBGM系の曲を取り上げたいのですが、
著作権の関係でアウトなので、
(アメブロ運営からブログを削除されてしまいます)
この辺りは何かいいアイデアがないか調べてみます。

どなたか良いアイデアがあれば智惠を貸して下さい。

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