つい先日、以前作ったボーカロイド曲をまるごとやり直した。


その過程でたくさんの市販曲を研究したり、
初音ミクを扱う上で色々なことに気が付いたので、
同じくボーカロイド楽曲を作っている方のお役に立てばと思い、
気が付いたことを書いてみたい。


やり直しに際して最も苦労したのが
初音ミクのイコライジングだった。


まず初音ミクの周波数スペクトラムを見てみたい。


初音ミクの周波数スペクトラム(クリックで拡大)

分かり易いように各倍音の●に色を付けてマークしておいた。
基音、2倍音、3倍音、4倍音、のように印が付いているが、
基音が非常に強く、2倍音以降が非常に弱いことがわかる。


初音ミクの声質は可愛い感じの丸みのある声だが、
聴いた感じの特性がそのままスペクトラムに現れている感じだ。


次に人間の女性ボーカルの周波数スペクトラムを見てみたい。

人間の女性ボーカルの周波数スペクトラム(クリックで拡大)

同じく基音、2倍音、3倍音、4倍音、のように印が付いているが、
基音よりも2倍音の方が豊富で、
3倍音、4倍音もほとんど基音と同じくらい豊かに出ている。


高域に伸びや輝きがあって、当然オケに埋もれにくい感じなる。



またスペクトラムの図には何も書いていないけれど、
4kHz~8kHzあたりの高域に含まれる成分を比較してみて欲しい。


倍音でいうなら8倍音以上の高域に相当するが、
初音ミクの方はまるっきり出ていないのがわかる。
(88鍵盤ピアノの一番右端のドからさらにオクターブ上周辺の帯域)


元々の声優さんの声質もあるだろうし、
レコーディングで使用された機材も関係してくると思うのだけれど、
初音ミクの声をもっと高域を豊かにしてオケに埋もれないような感じにしたくて
頑張っているのになかなか上手くいかない方は多いのでは?と思った。


耳だけで聴いてなんでもかんでもわかれば苦労しないのだが、
眼で周波数スペクトラムを確認することがヒントになる場合もある。
(最終的には耳だけで出来ないといけないと思います)


例えば極論だけれど、
イコライザーを使って人間の女性ボーカルのような周波数スペクトラムになるように
無理やり声を弄ってしまえば、
一応聴覚上は似たような感じになってくる。

初音ミクをEQで無理やり人間の女性ボーカルに近づけた例(クリックで拡大)


上の画像はEQを使って人間の女性ボーカルの周波数スペクトラムに近づくようにしている。
これをやってしまうと、たしかに高域がよく聴こえるようにはなるけれど、
EQのやり過ぎで完全に音が崩れてしまう。


人それぞれ好みの問題もあると思うし、
作る曲調にもよるけれど、
ボーカルに対してあまり無茶なEQはやりたくない。


やればやるほど位相が崩れて音がおかしくなるので
(ボーカロイドは元々そっち系なのでアリと言えばアリだけれど)
なるべく録りの段階で音を作りたいし、
EQも出来るだけ控えめにしたい。



けれど、ボーカロイドの場合は録音するわけではなく、
波形を書き出すので
録音云々で音を作っていくことは基本的には行わないし、
やるとしても道具も必要だし手間も増える。


ではどうするかというと、
たくさんのアイデアがあるが、
イコライザーを使うより基音に沿って倍音を増幅してくれる
エンハンサーやエキサイターと銘打っているプラグインが良いと思う。


Vienna SuiteのExciter

Waves  Aphex Vintage Aural Exciter


この手のプラグインはたくさんのメーカーから色々リリースされているので
好きなものを使ったら良いと思うけれど、
あまり激しい歪みも困るので、
歪ませるというよりも整数倍音のみを綺麗に増幅してくれるものを選べば良いと思う。


奇数系、偶数系、あるいは非整数倍の倍音が増幅されるものなど、
機種によって特性は様々だが、
ちゃんと特性を理解した上で用途に合わせて使い分けていけば良い結果がだせる。
(このブログの「プラグイン(シミュレーター)」系にその手の記事がたくさんあります。)


またリバーブやディレイなどに付加されセンドエフェクトの成分の込みで
1つのボーカルになるので、
原音以外のセンドエフェクト成分の高域をコントロールするのも良いと思う。


普通のEQで行うスタティック(静的)な処理よりも
マルチバンドコンプやダイナミックEQでのダイナミック(動的)な処理のほうが
自然になる場合もあるし、
この辺りは一つの処理で全部行おうとするのではなく、
色々な要素を組み合わせて行うと良いかもしれない。


アイデアはたくさん出てくるし、
それを実現するプラグインもたくさんあるけれど、
つくづく思ったのが、結局は最後のところでは
人間の耳やセンスが良くないとどうにもならないということ。
このことを身に染みて思い知らされた。


いわゆる一流のエンジニアさんたちのミックスはやっぱり聴いて凄いなぁ~と思うし、
むしろ国内、海外問わず有名エンジニアさんに弟子入りしたい気持ちもある。


やればやるほど上が見えてきて、
自分の未熟さが情けなくなるのだが、
そうも言ってられないので頑張るしかない。


本業は作曲だし、どちらかというとベートーヴェンとかドビュッシー云々というのが好きなのだが、
ミキシングやマスタリングももはや出来ないと話にならないので、
勉強することが増えたなぁと思う。


また少し金銭的に余裕のある方は、
チャンネルストリップを購入するして
ボーカロイド楽曲に取り組むのもありかもしれないと思った。


私自身も書き出されたボカロデータを一度アウトボード経由で再録音しているが、
マイクプリやアウトボードのコンプを使うことで
多少は質感が変わってくる。


面倒かもしれないがひと手間加えるだけで
(ミックスはそのひと手間の積み重ねだけれど)
出来上がりも変わってくるので興味がある方は
挑戦してみるのも良いかもしれない。


先ほどの人間の女性ボーカルの録音に使用した機材は
AVALON / VT737SPだった(思う)。
マイクはノイマンの87(だったと思う)。

http://www.soundhouse.co.jp/shop/ProductDetail.asp?Item=168%5EVT737SP%5E%5E


本物の真空管を通して得られる質感はなかなかプラグインでは得難いので、
こんな高価なものを個人レベルで買うのは大変だけれど、
2万円~5万円くらいの低価格帯のモノラルチャンネルストリップを買って
色々と勉強するのも良いかもしれない。


やり直したボーカロイド曲はこちらです。
あまり上手ではありませんが、良かったら参考までにどうぞ。


【初音ミク】STAR☆BIRD 【オリジナル】
http://www.nicovideo.jp/watch/sm19961290


【IA】 コトノハ 【オリジナル】
http://www.nicovideo.jp/watch/sm19961342


まだまだボーカル処理に関しては書くことがあるのだが、
それはまた別の機会にしたい。


私自身もまだまだ修行が必要だと思うので、
さらなる研鑽を積んでいきたいと思います。