久々の自作発表。 
12音技法で書かれたピアノ曲です。
(これも修業時代の終わりに書いた記憶が…)


12音技法そのものは結構有名な書法なのでご存知の方も多いと思うのだが、
クラシックにおける様々な作曲技法を習得する上で非常に重要な技法になっている。


ゲームとかアニメなどの劇伴音楽でも当たり前のように登場する作曲技法なので
私自身もたくさん仕事で書いている。


まだ取り組んだことがないけれど、
ご興味がおありの方は是非一度取り組んでみて欲しい。
(こういう技法が作曲にはたくさんある)


楽譜(下に高解像度版のリンクがあります。)

【MP3】
「百合(Lily) ピアノ組曲「六花」より 」 
http://uyuu.sakura.ne.jp/sample/mp3_op23_lily.zip 
MP3はこちらからDLできます。


【楽譜】「百合(Lily) ピアノ組曲「六花」より 」
http://uyuu.sakura.ne.jp/sample/op23_lily.zip
↑楽譜もあります。良かったら楽譜を見ながら聴いてみてください。
(楽譜にミスがあったらメールで指摘してくれると嬉しいです)



興味がある方は高解像の楽譜PDFをDLしてよく見て欲しいのだが、
「楽譜が非常に複雑」だとは思わないだろうか?


少なくともロックやポップスで書かれるような書き方では全くない。


クラシックの現代音楽にはたくさんの特徴があるが、
その1つとして作曲家が音楽そのものよりも
「楽譜に興味を持った」ということがあげられる。


音楽そのもののありとあらゆる可能性は
ロマン後期から近代の終わりにかけて掘りつくされてしまったので、
作曲家たちは今度は楽譜に興味を持ち始めたのだ。


クラシック音楽において、音楽の可能性を極めつくした一例として、
ジョン・ケージ4分33秒が有名だが、
音楽の歴史を勉強するとこうなるのも頷ける。


そこまで到達する前にも色々な紆余曲折があったのだが、
今回は12音技法に焦点を絞って書いてみたい。


12音技法は20世紀初頭にスクリャービン、シェーンベルク、ドビュッシーの3人を筆頭に
三者三様の手法で切り開かれた無調性音楽の技法の1つだが、
クラシックの現代音楽ではもっともポピュラーなものの1つとなっている。


調性音楽(ポップスやジャズにおけるキーという概念がある音楽)の可能性は
バロック、古典派、ロマン派と栄華を極めてきたけれど、
結局音楽というのは12種類の音の組み合わせで作るものであって、
数学的に限界がある。


音の高さ、音の強さ(大きさ)、音色など色々な要素があるものの、
音の種類として素材が12種類しかないというのは音楽芸術にとっては致命的で、
これらをひたすら組み合わせ作曲していればいつかは限界がくる。



最近の日本でも昔ヒットした曲を今のアーティストが歌い直している音源が
たくさんリリースされているが、あれはなぜかわかるだろうか?


もちろん新曲も出ているけれど、
昔は過去曲の焼き直しなんてほとんどなかったのに、
最近は焼き直しが非常に多い。


それは単純にネタ切れだからというのも一つの原因と言える。


結局は12種類しか素材がないので、
組み合わせていくうちに限界が生まれてきてしまうのだ。
「どの曲を聞いてもなんか同じように聴こえる…」という現象が起こってしまう。


クラシックの世界ではそれが100年以上前に起きているのだが、
(その出来事が遅れてほかのジャンルに転写される)
当時の作曲家たちがその問題を乗り越えるためにとった方法が
調性(キー)を飛び越えて作曲するというものだった。



ほかにも微分音を始めとして実に多種多様な試みがあったが、
ヴィシネグラツキーが有名)
たまにクラシックの楽譜で見かけるくらいで 
ポピュラーな技法としては確率されているとは言い難い。



12音技法はシェーンベルクが確立した作曲技法だが、
12個の音をすべて平等に扱うというルールに基づいて作曲する技法で
これが次の100年間の音楽世界に深く浸透した。



 

百合の音列。12の音を均等に用いるため音列を作る(これはちょっと特殊で11音音列)。



ただ音列を作るだけならコンピュータープログラムでも可能なのだが、
音楽素材として優れた音列を作り、
それを十二分に展開していくことが作曲家の仕事となる。

(ちなみに百合は11音音列で作っている)


個人的にはウェーベルンが大好きで
数学的に凝縮された理知的な音楽はとても興味深い。


この音列をカノンやフーガを用いて対位法的に扱ったり、
お馴染みの逆行・反行・拡大・縮小を用いたり、
トータル・セリエリズムと呼ばれる音価や音量や音色にも応用した技法もある。


メシアンの論文で「わが音楽語法」というのがあるので、
高度な作曲技法に興味があれば是非読んでみて欲しいのだが、
(書籍化されています)
こういった技法がさらに進歩した一例をメシアンにみることが出来る。



私自身も色々と勉強してたくさん作曲したが、
この手の曲はハーモニー以外のポイントに如何に工夫するか?が
非常に重要になる。




楽譜の書き方に工夫している1

例えば上の楽譜は百合の一部を切り抜いたものだけれど、
上の赤い丸はクレッシェンドに休符があるし、
下の紫の〇は連衡の書き方が前から余韻が現れるのをイメージして
このような書き方になっている。



楽譜の書き方に工夫している2
ピアノの二段譜だけれど、多声的な書法になっている。

ピアノのハーモニクス奏法

あるいはピアノハーモニクス奏法を使ったり、
リズムや音高に工夫を凝らしたり、
私の場合は色聴なので、その要素を組み込んだりして、
ハーモニー以外の音楽的要素に作曲家の腕の見せ所があり、
音楽の美しさがある。
(こういう工夫がたくさんしてあります)


12音技法で作る以上ハーモニー的な要素は似たり寄ったりになるので
(ドミソレファラみたいな音列は別です)
それ以外の要素に工夫する技術がないと作曲すること自体が難しい。



テクノ音楽でもハーモニーの要素においてコード1つで出来ているような楽曲があるが、
ある意味それと似ているかもしれない。


普段ポップスやロックやジャズなどのコード進行がある曲を書いている人に
「コード1つでテクノ作ってみて」というと突然まともに作曲が出来なくなる人がいるが、
それは音楽と音の「リズム」「メロディー」「ハーモニー」「音色」「音量」「音高」の6要素のうち
「ハーモニー」に頼りすぎているので、
それに頼れなくなると途端に作曲のクオリティーが下がることがある。



ワンコードのテクノと12音技法はハーモニー(コード進行)が作曲において、
全く重要でないという点において似ているが、
ハーモニーにベッタリ頼り切っている作曲家は
言い換えればほかの5つの要素を軽んじているということであり、
リズムやメロディーや音色や音量や音高に十分に工夫しているとは言い難い。



もししているのであればワンコードのテクノも12音技法の曲も
ルールやシンセの使い方などの基本がわかっていれば
スラスラ書けるはずなのだ。



なんでもそうだが偏っているというのはあまりよくない。
両足があるのに、右足にだけ体重を掛けて立つような立ち方はあまり
良いとは言えない。



12音技法を習得するメリットとしては
純粋にクラシック音楽の勉強という以外に、
劇版音楽における重要な技法の習得があるが、
それ以上にハーモニーに頼り切った作曲家にそのことを認識させ、
残りの5つの要素を工夫することに力を入れることで
作曲家としての全体的なレベルアップを図るというメリットがある。



現代だったらこれにミックステクニックやエフェクトの知識などが入るのだが、
メロディーやコード進行がいくら良くてもそれだけでは不十分なのだ。



それだけでは良い曲とは評価してもらえない時代になりつつある。

音楽=リズム・メロディー・ハーモニー、たしかにそうなのだけれど、
それだけでは足りない。



音楽=リズム・メロディー・ハーモニーと思っていても
ハーモニーにベッタリな人はリズムとメロディー(特にリズム)に対して
真摯に研究するだけでかなり作曲のレベルが上がるはず。


それだけではまだ足りないが、
足掛かりとして12音技法という作曲法は単に技法を超えたものを
作曲家に与えてくれるので、真剣に作曲を志しているならば是非取り組んでみてほしい。



コードとメロディーとアレンジだけが音楽の要素だと考え、
ポップス的な曲しか作らない人なら不要かもしれないが、
あらゆるジャンルを作れるようになるためには必須のテクニックなので
興味があれば頑張ってみて下さい。


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