日本人はなぜ直交表により興味を抱くのか? | 組み合わせテストケース生成ツール 「PictMaster」 とソフトウェアテストの話題

日本人はなぜ直交表により興味を抱くのか?

組み合わせテスト技法にはAll-Pair法と直交表を利用する方法の2種類があります。面白いことに日本では直交表をベースとした方法に関心を抱く人が圧倒的に多いのです。なぜAll-Pair法は関心をもたれないのでしょうか。その理由を解明する前に、現状のそれぞれの手法に対する関心度の高さをWebページの数で比較して見ましょう。

Googleで検索した結果を示します。" "で囲んだ用語などが検索した用語です。" "で囲むことで正確な検索ができます(ヒット件数は日によっていくらか変化します)。

国内(日本語)での各用語のGoogleヒット件数

"直交表" ソフト テスト 10,500件
"HAYST法" 10,100件
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合計: 20,600件
比率: 98.9%


"All-Pair法" 72件
"All-Pairs法" 9件
"オールペア法" 88件
"Pairwaise法" 30件
"ペアワイズ法" 40件
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合計: 239件
比率: 1.1%


直交表のあるページにはHAYST法もある可能性が高く、2重にカウントしている可能性が高いですが、All-Pair法も同時にPairwaise法もある可能性があるため、そのままカウントしています。

次に全世界での直交表とAll-Pair法の関心度の高さをWebページの数で比較してみましょう。直交表は Orthogonal で検索しました。

全世界(すべての言語)での各用語のGoogleヒット件数

Orthogonal Software test 187,000件(直交表)
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合計: 187,000件
比率: 46.6%


All-Pairs software test 33,900件
Pairwise software test 180,000件
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合計: 213,900件
比率: 53.4%


以上の結果から、少なくとも国内(日本)においては、直交表やHAYST法が占める割合は、All-Pair法などの手法よりおおよそ90倍注目されている、ということになります。あくまでもWebページ数の単純合計からの推測ですが。この差は非常に大きなものがあります("直交表"単独では実験計画法関係の多くのページがヒットしてしまうため"ソフト"と"テスト"という単語を追加しました)。それに対して全世界での直交表の占める割合は半分以下であり、All-Pairs法関係が過半数を占めています

日本でソフトウェアの組み合わせテスト技法として直交表に多くの関心が集まる理由として、田口玄一博士の存在は無視できないでしょう。博士は1924年生まれ。1980年、田口博士はAT&Tのベル研究所を訪れ品質保証部の仕事を手伝いました。また米国のゼロックス社でも品質工学の手法について議論を行ないました。田口博士の優れた手法は「タグチメソッド」として紹介され、米国の主力産業界に大きな影響を与えました。

田口博士の業績の1つとして、直交表を使いやすくした点にあります。直交表は少ない実験回数で結果に最も大きな影響を与える因子を見つけ出す方法としてタグチメソッドを取り入れることで、より使いやすいものとなりました。

直交表の用途が少ない実験回数で結果に最も大きな影響を与える因子を見つけ出すことにあるため、実験の組み合わせには同じ2因子間の組み合わせが同一回数現れるという性質があります。このことは2因子間のみならず3因子間の組み合わせもバランスよく現れること、実験に影響を与えるノイズの存在を検出できること、などの特徴につながっています。

こうした直交表の特徴をソフトウェアの組み合わせテストにも適用できないかということで1980年代の半ばから直交表を使った組み合わせテストの研究が発展してきました。こうした歴史的経緯から、日本では直交表ベースの組み合わせテストに注目が集まってきたということが言えると思います。

それにしても日本におけるAll-Pair法に対する関心のなさは異常と言ってもいいようです。そういう私も最初は直交表に関心を持ったものでした。3因子間の組み合わせもある程度網羅できることが直交表のメリットとして私には意識されました。直交表をめぐる話題には特有の専門用語が数多く出現しますが、そういった手法をマスターしようとすることが魅力的に思えるのかもしれません。直交表ベースの組み合わせテストツールを作成するには実験計画法の知識が必要とされますが、これが1つの難関になっていると思います。直交表ベースのツール開発には多大なコストが必要となり、そうして開発したツールを無償で公開するなどということは考えられないことです。

All-Pair法は1990年代の初めから主として米国で研究・発展してきました。直交表が実験計画法から生まれたのに対し、All-Pair法は最初からソフトウェアの組み合わせテスト技法として研究されてきました。米国ではAETGなどに代表されるように優れたAll-Pair法の有償のツールが有名です。All-Pair法のツールは何よりも2因子間の網羅率を100%とすることを最優先にしています。直交表ベースのツールでは制約の関係にある因子間では通常の重要性の場合、網羅率を80%程度とすることにしています(HAYST法の場合)。

All-Pair法では、制約の関係があっても2因子間の網羅率は100%保障されます。またAll-Pair法では多くのツールが無償で公開されています。これは直交表ベースのツールでは考えられないことです。無償で公開されているAll-Pair法のツールは玉石混交ですが、中にはPICTのように制約をサポートしており、テスト業務で活用可能な優れた組み合わせ生成エンジンもあります。これらを利用して使いやすい組み合わせテストツールを作成することは難しくはありません。コストの面でも生成エンジンを自社開発する場合に較べて大幅にコストダウンとなります。もしもHAYST法のように制約をサポートした直交表ベースの組み合わせテストツールを自社開発しようとするならば、その開発コストは相当多額なものとなるはずです。

直交表ベースのツールも、All-Pair法のツールもそれぞれ一長一短があります。具体的な比較は差し控えますが、全体的に見てどちらがより優れているという判断はできないと思います。そうであるならば後は開発コストが焦点となるでしょう。

PictMasterは組み合わせ生成エンジンにMicrosoftの開発したPICTを使用しています。PICTそのものだけでは日本語が文字化けするなど実用的に使用することはできませんが、ExcelベースのBookであるPictMasterを利用することで極めて使いやすく実用的なツールとなっています。しかも無償です。

以下のURIからダウンロードすることができますので一度試してみてはいかがでしょうか。
http://sourceforge.jp/projects/pictmaster/

それでは、また。