許されざるもの | 生き物を探す人

許されざるもの

樋口明雄氏最新作。 名作、約束の地 の続編です。 前作は大熊、それを超える化け物。 渋い老猟師、善と悪。一流のエンターテインメントでした。


許されざるもの/光文社

¥1,944
Amazon.co.jp

ということもあって、少々期待しすぎたか。二段350ページ超のそれなりの分量を一気に読めたので面白かったのでしょうけれど、前作ほどの盛り上がりと満足感は残念ながら。。。


前作と同様の主人公、野生鳥獣保全管理官、七倉はネオウルフプロジェクトなるものに関わることとなる。日本の山に増えすぎたシカの個体数コントロールのため、八ヶ岳山麓にオオカミを試験放獣にするというものだ。舞台を日本、中国、日本と移しながら、オオカミの放獣の是非、軋轢、未来などを問いていく。オオカミは森に放たれるのか、日本の森はオオカミを必要としているのか。デリケートなテーマをさすがに綺麗にまとめています。


しかし、作中で主人公や大学教授がたびたび口にするロマンという言葉、残念ながら僕には共感できませんでした。 八ヶ岳で海外から連れてきたオオカミが吠えている姿を想像するのは果たしてロマンなのだろうか? 

現実社会でも、この本に出てくる教授のモデルであろう丸山直樹先生はじめ、日本オオカミ協会が提唱するオオカミ再導入(この言い方もどうかと思いますが)に反対する声は大きいでしょう。作中でもその反対者が出てきますが、それでも主人公がオオカミ放獣のために従事する動機を「ロマン」一言でまとめてしまうのは少々ずるくないでしょうか。


オオカミを再導入すべきか否か、これについて意見を述べるのには僕は無知すぎます。だって丸山先生の本は一冊も読んでいないから。


ただ、僕がオオカミに対して抱くロマンとは、海外から連れてきたオオカミが日本の森で跋扈することではなく、日本のどこかにニホンオオカミがひそかに生息していてそいつが山の深奥で遠吠えをあげること。

日本オオカミ学会の方々がヒールとして登場するドキュメンタリー、ニホンオオカミは生きている の話のほうに数倍ロマンを感じてしまいます。


生物学的防除は難しいですよね。 極論とも取られかねません。 無駄をまったく省こうともしないで景気回復事業をバンバン行おうとする政治のやり方にも同じ臭いを感じたりもします。


その前にまだできることがあるはず。と考えながら、生物部員が獲ってくるシカ肉を楽しみにしている今日この頃なのでした。