いやまあ、今年の夏は忙しい夏でした。
遊びや趣味や個人的な予定でいっぱいだったので、責任もないし、頭が忙しいわけでもないし、気楽でやっぱり夏休みではあったんですが、時間がせわしかった。家にいられたのが夏休みの間3週足らず、しかもうまい具合に翻訳の仕事が入ったりで、あっという間に過ぎていきました。

7月初めに開幕したシュレスヴィヒ=ホルシュタイン音楽祭は、8月27日(日)の最終コンサートで幕を閉じました。私たち音楽祭合唱団にとっては、3つ目で最後のプログラムです。

プログラムは
ルトスワフスキ:管弦楽のための協奏曲
オルフ:カルミナ・ブラーナ

ソプラノ:ローザ・フェオーラ
バリトン:ミヒャエル・ナジ
テノール:ユルゲン・ザッヒャー
指揮:クシシュトフ・ウルバンスキ
北ドイツ放送交響楽団、北ドイツ放送ユースオーケストラ
シュレスヴィヒ=ホルシュタイン音楽祭合唱団
エルンスト・バルラッハ・ギムナジウム合唱団

1曲目は、前日のリハーサルで部分的に聴いた感じでは、立体的でタイトル通り、さまざまな声部が交代にソロを担ってゆく、現代曲にしては心地よい響きの曲でした。聞いてみたい気持ちはあったのですが、時間にゆとりがなく、2曲目が出番だということもあって、楽屋でおとなしくしていました。

この日は、音楽祭の締めくくりの式典も兼ねていたらしく、関係者の話があった模様です。今年焦点の当たった作曲家はモーリス・ラヴェルでしたが、来年はシューマンの年だそうです。

このプロジェクトは、コンサート前の予定にゆとりがあり、本番3日前には合唱指揮者からウルバンスキへの受け継ぎがあったし、オーケストラとも2日にわたってリハーサルがあり、この曲の経験者も多く、3つのプログラムの中で一番スムーズに行ったプロジェクトでした。

ウルバンスキさんは30代半ば、人当たりよくにこやかながら、音楽的には妥協せず根気よく自分の解釈を貫いてきます。

第3曲目『春の喜ばしい顔』では、慣れているテンポよりもずっと速いテンポで、みんなビックリしていましたが、楽譜どおりだし、歌詞の内容から言ってもふさわしい。ただ、新しいテンポに慣れるのにちょっと時間が要りましたが、本番前にマスターできました。

第5曲『今や願わしい春が』でも、楽譜どおりに徐々にテンポと音量を上げていき、緊張感が生まれます。

男声にトリラーを要求したり、グリッサンドをフォルティッシモのまま時間をたっぷりかけるよう指示していましたが、これも楽譜どおり。
かなりドラマチックな解釈ですが、すべて楽譜から解釈可能です。

その一方で、こちらの要求にも耳を傾けてくれました。1箇所、裏拍で出るところがあるのですが、1拍目は音がなく、ウルバンスキさんは1拍目を鋭く振り、2拍目以降をその反響と感じられるような振り方をしていました。でも、それだと、みんな鋭く振り下ろされた1拍めで声を出してしまいます。合唱指揮者とも何度も練習して、みんなわかっているんですが、ウルバンスキさんが1拍目を勢いよく振り下ろすと、やっぱりつられてしまいます。

それで、2拍目を合唱団から引き出すような振りに変えてくれ、オーケストラにも事情を説明してくれました。これで、事故が事前に避けられました。

ソロの歌手の方々も、それぞれに要求された特徴を十二分に出していました。
ソプラノのフェオーラさんは、豊かな声ながらピアニッシモも良く響き、愛に悩む女性のニュアンスがよく出ていました。
バリトンのナジさんは、かなり演劇的な解釈、とくに僧侶の「俺、俺は僧院長様」は、性格がよくわかるような人物描写でした。
テノールのザッヒャーさんは、ハイDだけが裏声で後はまともに歌いきり、哀れっぽい嘆きを響かせていました。

ウルバンスキさんは、この曲を一種のエンターテインメントとして捉えているようで、自身も時にはコミカルな身振りを見せていました。私たちも、"cullannd"では、文字通り左右に揺れる身振りつき。22曲目の「おお、おお、すっかり花盛り」では、オーケストラ団員も一緒に歌えるように、歌詞が配られていました。

裏話としては、第11曲目のバリトンソロ「胸のうちは抑えようもない」で、2回目の間奏が2小節のはずのところ、1回目と同じように3小節。お隣の歌手と「え?!」と顔を見合わせましたが、オケも淀みなく、ナジさんも迷う風もなく、ウルバンスキさんも楽譜を見直したようにも見えましたが、何も発言なく。本番でも堂々と+1小節でした。

私たちの出来も、徐々にリハーサルを重ねることが出来て、この日が最高だったと思います。とても楽しい体験でした。

会場は、キールのシュパールカッセ・アリーナ。普段ならポピュラー音楽のライブが行なわれるところです。この日はマイクが使われましたが、私がリハーサルの時に客席で聴いた感じでは自然で、よい響きでした。

カルミナ・ブラーナは人気が高く、この日も最終コンサートということもあり、観客は5,000人あまり。割れるような拍手が続きましたが、さすがにアンコールはありませんでした。この日の演奏は、北ドイツ放送からライブ配信されました。

この後、打ち上げパーティーで関係者の尽力を称えねぎらいました。