「ラポール」だけで「解離性(PTSD性)幻覚妄想」を抑制する限界、海軍輸送用潜水艦 | 精神科医ブログ、長崎広島原爆・福島原発・コロナ・第二次大戦・北朝鮮ロシア核・児童虐待・DV・レイプ複雑性PTSDの薬物療法

「ラポール」だけで「解離性(PTSD性)幻覚妄想」を抑制する限界、海軍輸送用潜水艦

私が「内因性精神病の単剤治療を厳格に行う精神科医」から「PTSD=複雑性PTSDをラポール形成・傾聴後の新規向精神薬で治療する世界で1人だけの精神科医」に「化けた(進化した)」のは平成13~15年の短い期間だった。この時期にある老人を診ていた。長く内海運輸で立派に働いてきた人でしっかりした息子さんもいたが、アルコール依存症(依存症はPTSDの合併症)になり、幻覚妄想状態(今なら解離性PTSD性とわかる)となり、自宅に放火して妻を殺害しようとした。しかし、入院すると不満は多々あっても逃げだそうとはしなかった(全解放病棟だった)。時折幻覚妄想状態となるが、抗精神病薬は無効だった。その老人は大戦中に少年兵として海軍輸送用潜水艦に乗り組んでいた。その話を繰り返し繰り返し話していたし、私は飽きずに聞いていた。敗戦の時に彼を可愛がってくれた艦長が切腹して死んだことも。私がしたことは、彼の腰をマッサージしてあげることと、話を聞くことだけだったが(抗精神病薬の処方はやめていた、現在のイギリスみたいに)、彼がわずかしか話さなかったのは、彼が孤児に近い生い立ちだったことだ(この点は私の「元帝国陸軍兵士が複雑性PTSDを呈した一例」広島医学2007に極めて似ている)。
アルコール精神病による認知症状態として病状安定しているからとして、施設入所になった。ところがそれから数週間で激しい幻覚妄想状態となり再入院となった。その時はなぜだがわからなかったが、私との間に形成された「ラポール」だけが、彼の解離性PTSD性幻覚妄想を抑制していたのだった。
今は理解できるのだが、「主トラウマ(可愛がってくれた艦長の敗戦自殺)」と「従トラウマ(生い立ちの孤独:ネグレクト)」の両方を傾聴する必要があったのだ。両者は「トラウマコンプレックス(複合体)」を形成していたのだから。その後に新規向精神薬を処方したら・・。精神科医もこのブログを読んでいるだろうが、世界中の精神科医が治せないPTSD治療の一番の「ツボ」はここなのである。理解できる精神科医が何人いるか。理解できなければ精神医学はイギリスのように消滅していくだろう(アメリカも大麻だ電気ロボトミーだ鍼灸だでは消滅中である)。