その前の話 その1 その2 その3 その4
Kierkegaard

速水邸、英介の書斎にて、電話で呼び出された宝田氏が、

眠気眼でカードと2枚の羽を見ていた。

「黒鶴と白鶴で、つるつるすべったか、術者が作った陣の中に二人は、

閉じ込められているわけだな。さてどうしたもんか」

「陣を崩せば助け出せるのか?」

「俺は専門家じゃない、そもそもこの歌詞を普通に解釈すれば、

陣をはり鬼(神)はいつ来るのか問うたら、神とは限らないという意味だぞ。

二人が神隠しにあったいま、魔が呼び出されたということだ。

俺には、どうしようもない」

「儂はこのカードを見たとき、なぞを解いてみろと挑戦されてる気がしたんだ。

ああいった怪しげな者たちは、警告などせず、拐し贄にするものだ、

が事前にメッセージが屋敷へ届けられたということは、なぞを解けば、

二人を解放するのではないかな、裏の裏は表だ」

「あんたはこれを遊び歌として解釈し、遊び歌の結びのように、後で正面を

向いているものの真名を唱え、二人の代わりに閉じ込めろと、俺にいってるのか」

「これは遊び歌だろう?」

「なぜそこまで謎をといてるのに、自分でしない?」

「儂は足が悪い、それに鶴と亀がおらん。あんたには、心当たりがありそうだが」

「なくはないが、今回は、これで代用してみる」

宝田氏は、ポケットからキョーコ特製の蓮とキョーコの操り人形を取り出した。

「まあ、本体は多少痛い目をみるかもしれんが、これも人助けだしな」

「真名は、おそらくこれだ」

英介は、懐から短冊を取り出し氏に提示する。

「何であんたが、それを知っている?」

「うちのものが、あの当主が、最近盲目の若い女を囲ってることを、調べてきた。

その若い女に心当たりがあってな、まあ、幽霊みたいなもんだが」

「幽霊?」

「今回のことは、儂に原因があるようだ、あの二人には何の罪咎もない。

二人は今日から久々のオフをとる予定でな、ずいぶん前から楽しみに

しておった。そろそろ、夜明けの晩か、場所はここを使うといい」

「相変わらずだな、あんたは、喰えない人だ」

宝田氏は、ポケットから折りたたんだ紙を取り出し、机上に広げた。

囲碁の盤のように四角の升目が書かれている。磁石を取り出し、正確に

東西南北に小粒の真珠を置いていく。

そして真珠の間に小さな水晶の粒円形になるよう置いていく。

中心に大玉の真珠を2粒置き、どこから出したのだろう、ちいさな籠をかぶせた。

遊び歌の見立ては完了した。

見立てを中心に二人は、時刻が正確に四時を指し示すのを黙って待つ。

時刻が四時を指し示したとき、どこからともなく遊び歌が聞こえてくる。

円形におかれた玉(ぎょく)がゆっくりと回る。


「かごめかごめ 籠にの中の鳥は いついつでやる 夜明けの晩に

鶴と亀が滑った 後の正面だあれ」


「すまん、蓮、キョーコくん」

鶴と亀に見立てた人形が滑る(同時に転ぶ)、氏は、真名を唱えた。

そのとき部屋全体が地震のように揺れた、すさまじい光を放つものが、

籠に吸い込まれ、揺れが収まると、部屋の隅に真澄とマヤが床の上で

壁にもたれかかっていた。


「何とか上手くいったみたいだな。屋敷の人間には、何て説明する」

「正直に、神隠しだというさ」

「あんたのところ俳優は、大丈夫か」

「今の時間なら寝ている頃だろ、せいぜい布団から転げ落ちる程度だろう」


***


敦賀氏の寝室で、夢の中にいた二人ですが、とつぜん体が宙に浮いたと

思ったら、ベッドに叩きつけられました


「きゃー、何?」

「うわ、何だ」


いくら身体能力の高い二人でも熟睡しているときに、無造作に投げ出された

二人です。かなりの衝撃を受けましたが、怪我はないようです。


「敦賀さん、地震ですか?」

「違うみたいだ、物は倒れてないようだし」


蓮は、今日の社長室での会話を思い出しました。

「鶴と亀が滑った、まさかね」

「え、何ですかそれは」


***


続く その6