<13th March Tue>

昨日のMiss Fortuneは死ぬ程退屈だったし、今日のポルーニンのバレエもなんだかなあ、と連日凹んでますが、気を取り直してドン・ジョヴァンニをアップしましょう。やり残した宿題がやっとできたような気分ですが、書き終えてしまうと淋しい気もします。もっとたくさん書きたかったですがキリがないのでこれくらいで。

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ROHの1月から3月に掛けてのモーツァルト/ダ・ポンテ三部作も終わってかなり時間が経ってしまいましたが、やっと最後のドン・ジョヴァンニの記事を書くことができました。


とは言っても、最近出掛けてばかりで更に忙しいので、登場人物紹介は過去の記事(→こちら )をほぼそのままコピペして誤魔化すことをお許し下さい。

こんな人たちが織成す「ドン・ジョヴァンニの全くついてない一日」をテンポよく、最後は地獄に堕ちてしまう女たらしのビョーキ男のお話です。     

London Opera-loving Kimono-girl (着物でオペラ in ロンドン)     London Opera-loving Kimono-girl (着物でオペラ in ロンドン)


London Opera-loving Kimono-girl (着物でオペラ in ロンドン)
恋の矢 ドン・ジョバンニ  (スペインの貴族)


2千人以上をモノにした稀代の色事師で女たらしの悪い奴と思われているのですが、「一人の女しか愛さなかったら、その他大勢女性に対して失礼だろ?」という論理には妙に説得力があるし、金持ちでも貧乏でも美人でもブスでもデブでも痩せでも黒髪でも金髪でも差別しないのは立派です(できれば夏はやせっぽちがよくて冬はふくよかなのがいいけどとちょっとだけ贅沢言いますが)。ここまでくれば博愛主義と言ってもいいくらいだし、彼に口説かれて一時的にせよ女として幸せを感じ自信を持たせてもらった女はたくさんいるわけです。


都合の悪いことは召使に濡れ衣を着せたりして姑息なところもあるのですが、女性に関しては信念に基づいて行動し、周りから不道徳と責められても、「改心しないと地獄に引きずっていくぞ」と行きがかり上殺してしまった(正当防衛と言えなくもない)騎士長の亡霊に脅されても、「俺は意気地なしじゃねえぜ。これが俺の生き様なんだ」と潔く地獄に堕ちて行きます。

でも地獄に行ってもきっと女性を幸せにするのが俺のミッションと切磋琢磨するのでしょう。或いは生まれ変わって信念を貫く肝のすわった男です。事実そういう男は世の中に後を発たないわけで、彼の生まれ変わりかもしれません。頑張れドン・ジョヴァンニ、フォーエヴァー!

ビール レポレロ  (ドン・ジョバンニの下男)


フィガロと並んでオペラ界では一番有名な召使。ここではご主人の女性攻略の大切な手助け役で、モノにした女の記録もする几帳面なところもあり。こんなことやるのはおいら嫌なんだとぶつくさ言ってるけど、お金であっさり丸め込まれてしまうし、それにおこぼれも頂戴したり海外遠征にもお供して変化に富んだ興味深い仕事に就いているわけで、ドン・ジョバンニ亡き後もし御清潔で御誠実なご主人様に仕えたら退屈して、きっと前の雇い主と同じような人のところに転職するのではないでしょうか?

宝石赤 ドンナ・エルヴィラ  (ドン・ジョバンニが棄てた女)


ひどい男に棄てられて悲しい思いをしている可哀相な女がいるから慰めてやろうという優しい心根で近づいたら、なんと怒ってる対象は自分で、とんだヤブヘビ。あんたひどいじゃないの、と詰め寄るだけじゃなくて、他の人に「こいつは悪者だから」と言いふらして彼の邪魔をしまくる恨み女。でもまだドン・ジョバンニを誰よりも愛していて、それはいいけど、なんとか愛の力で自堕落生活から救ってあげるなんて無理なことを本気で思ってる思い込み女。ドン・ジョバンニが一番避けなきゃいけない一途な迷惑女ですが、一番わかりやすくて純粋。

London Opera-loving Kimono-girl (着物でオペラ in ロンドン)
宝石紫 ドンナ・アンナ  (ドン・ジョバンニに父親を殺されて復讐を誓う女)


この女、私は嫌いです。ドン・ジョバンニに惹かれているのに、婚約者も安全弁としてキープして、慰めてあげたいから早く結婚しようと親切な申し出にも、「私がこんなに苦しんでるのによくそんなこと言えるわね! それよりも貴方も一緒に復讐すると誓うのよ」、なんて命令して結婚を引き伸ばす二股女。ドン・ジョバンニが部屋に侵入してきたなんて言ってるけど、当時の上流階級のお嬢様の部屋に簡単に入れるはずないから、人払いをして自分で招き入れたんでしょ? 

カエル ドン・オッタヴィオ  (ドンナ・アンナの婚約者)


私が相談投書おばさんで、彼から「婚約者が復讐第一、結婚はその後って言ってるんですけど、僕どうしたらいいんでしょう?」と相談を受けたら、「そんな勝手な女とはすぐ別れて、他の女探しなさい。でないと一生尻に敷かれるわよ」と即答えます。

ブーケ1 ツェルリーナ  (結婚式を控えた村娘でドン・ジョバンニの今日の獲物)


この娘はしたたかですよ~。結婚式の日に「君程の女性があんな田舎者と結婚して村に収まるのは勿体ないよ。僕のところにおいで」とドン・ジョバンニに口説かれると、「そうやって道を踏み外す女はいるのよね」と冷静に判断しながらも、「でもちょっと遊んじゃおうかな。それにやっぱり私って野良仕事するにはゴージャス過ぎるわよね。マゼットが嫉妬して怒ってるけど、単純な彼をなだめることなんてチョロイからとりあえず甘えておこうっと」。一応、結婚すると約束したんだから守らなくちゃいけないわよね、と殊勝なことも思ってるけど、これで一旦もっと上の世界を夢見てしまったツェルリーナは、この先貞淑な村の奥さんでいられる筈はなくて、椿姫のような道を辿ってお金持ち社会でのし上っていくにちがいありません。
London Opera-loving Kimono-girl (着物でオペラ in ロンドン)
モグラ マゼット  (ツェルリーナの婚約者の村の若者)


なぜツェルリーナのような美人で頭も切れる女性がこんなぱっとしない農民にいちゃんと結婚しようと思ったのわかりません。結婚式の日に花嫁が羽振りの良い男といちゃつくは、レポレロに変装したドン・ジョバンニに暴力を振るわれてと怪我するは、踏んだり蹴ったりの可哀相な青年です。私が村の仲人おばさんだったら、この善良なおにいちゃんにはオツムの程度が同じような素朴なおねえちゃんを紹介します。長い結婚生活には釣り合いってものが大切でしょ?

London Opera-loving Kimono-girl (着物でオペラ in ロンドン)

London Opera-loving Kimono-girl (着物でオペラ in ロンドン)

London Opera-loving Kimono-girl (着物でオペラ in ロンドン)

        Aチーム(赤字)     Bチーム(青字)


Conductor Constantinos Carydis Constantinos Carydis
Don Giovanni Gerald Finley Erwin Schrott
Leporello Lorenzo Regazzo Alex Esposito
Donna Anna Hibla Gerzmava Carmela Remigio
Donna Elvira Katarina Karnéus Ruxandra Donose
Don Ottavio Matthew Polenzani Pavol Breslik
Zerlina Irini Kyriakidou Kate Lindsey
Masetto Adam Plachetka Matthew Rose


もちろん変化に富んだ有名アリアが全編に散らばっているのが人気オペラである所以で、数人の上手な歌手が必要なんですが、皮肉なことにタイトルロールのドン・ジョヴァンニには大したアリアがなく、この役は歌唱力よりもキャラが重要。


でも、性的魅力のあるバリトンにやってもらわないと、他の人たちが必死で歌い演じていることに共感が得られないので大事な役で、女性歌手がキャラに合わなくてもカルメンをやりたがるのと同じで、たくさんのバリトンがこのモテ男を演じたがるようです。

だから世の中にたくさんのドン・ジョバ歌手がいるわけで、できれば毎回違う歌手で聴きたいのに、情けないことにROHったら今回は以前すでにやってる人ばかりを呼ぶんですもの、がっかりです。


今回は2チームあり、私はAチーム(優劣ではなく登場した順)に1回(1月31日)、Bチームに3回(2月16日、23日、29日)行きましたが、2チーム比較で書いてみます。


恋の矢ドン・ジョヴァンニ


アーウィン・シュロットの大勝/ジェラルド・フィンリーの大敗


歌唱力だけならフィンリーの勝ちなんですが、さっきも言ったように、この役で大事なのはセックス・アピールのみなので、奥目が優しそうで誠実そうなフィンリーが、天下の歌姫ネトレプコがコロっとなって結婚したウルグアイのフェロモン男シュロットに敵うはずがありません。 容貌だけでなく、シュロットの遊び心たっぷりの自然にみえる余裕演技は抜群で、2007年6月にやった時は青春真っ只中の悪戯坊主の若さ溢れるドン・ジョバだったのが、今回はぐっと大人のワルに変身し、振る舞いに貴族らしさも出てドン・ジョバらしい風格も出始めました。


一方のフィンリー、どうあがいてもこの役は向いてないから即諦めましょう。超一流の歌唱力なんだし、鼻歌シュロットが逆立ちしてもできないような知的な役がたくさんできるんだから、そっちで勝負しようね。

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London Opera-loving Kimono-girl (着物でオペラ in ロンドン)
ビールレポレロ


アレックス・エスポジットの大勝/ロレンツォ・レガッツォの大敗


この役に限ってはエスポジットのエネルギッシュな召使ぶりがドン・ジョヴァンニのお供として百倍も勝ってて、病気で熱出した日はさすがにちょっとおとなしかったのですが、その時ですら表情も乏しく退屈なレガッツォよりもうんと見応えあり、エスポジットのレポレロは天職。素晴らしいの一言。

エスポジットは2008年秋にもレポレロでしたが、その時は傲慢なキフィエチェンのドン・ジョヴァンニに虫けらのように扱われても明るくひょうきんな童顔の若者でしたが、今回は成長して大人のペーソスも表現できるようになりましたね。そして一見お友達風のシュロット・ジョヴァンニとの立場関係も向上したようにも見え、まだまだ進化中の見事なレポレロです。


丸っきり精彩なかったレガッツォは、充分上手だけど、何度聴いてもすぐ忘れてしまう没個性。


カエルドン・オッタヴィオ


僅差でマシュー・ポレンザーニの勝ち/パヴォル・ブレスリクの負け


本当は二人とも勝ちなんです。個性は違えどちらも素晴らしかったですから。彼らは以前コジ・ファン・トゥッテに出てくれてファンになったのですが、今回はポレンザーニがあまりにも良かったので、強いて勝敗にするとこうなっちゃいます。ポレンザーニが出てたAチームには一度しか行けなくて残念だったのは一重に彼が理由で、今回の三部作のキャスト、コジに又ブレスリク君が出てくれて、ドン・ジョバは両チームともポレンザーニが出たら理想的だったのに・・・。

ポレンザーニが熱いドン・オッタヴィオだったのに対しブレスリクはなんだかクール過ぎたのも残念。来シーズン、ブレスリク君はオネーギンに出る(と本人から聞いた)ので今から楽しみなんですが、レンスキーはうんと熱く演じてもらいたいです。

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宝石紫ドンナ・アンナ


カルメラ・レミージョの勝ち/ヒブラ・ゲルツマーヴァの負け


難しいアリアが目白押しで聴き応えのある大変な役で、二人とも良かったので、ヒブラを負けにするのは気が引けるんですが、レミージョのピュアでよく通る軽やかな声にすっかり惚れてしまいました。3度聴いても飽きないどころかもっと聴きたいと思ったのは他の誰よりも彼女で、ネトレプコも含め今までのドンナ・アンナの中では一番好き。

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宝石赤ドンナ・エルヴィラ


僅差でリュクサンドラ・ドノセの勝ち/カタリーナ・カルネウスの負け


ドンナ・アンナ同様、たくさん歌う美味しい役ですが、二人とも、ROHの歴代のエルヴィラの中ではジョイス・ディドナートには負けるけどなかなか立派で文句なし。カルネウスは数年前にカーディフのコンテストで優勝したのに、ロンドンにはほとんど出ないので今回がROHデビューかも。長身だから素敵なズボン役ができそう。

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London Opera-loving Kimono-girl (着物でオペラ in ロンドン)
ブーケ1ツェルリーナ


ケイト・リンゼーの勝ち/イリーニ・クリアキドウの負け


今回嬉しかったのは、これから期待の持てる若い二人にしてくれたことで、歴代の中ではこの二人が1位と2位で、全く違うイメージだったのも興味深いところ。イリーニが可憐で素朴だったのに比べると、ケイト・リンゼーは大袈裟に媚びまくり、野心的で悪賢いツェルリーナそのもの。メトのHD中継のホフマン物語でガランチャの代役になった時のズボン役の時はまるでマルレーネ・ディートリッヒみたいにクールで凛々しくて素敵だったけど、今回は丸っきり態度を変えてなかなかの女優ぶり。ちょっとくぐもった声も個性的で、彼女が出てる間はずっと皆の視線が集中したのではないかしら。


モグラマゼット


アダム・プラチェトカの勝ち/マシュー・ローズの負け


この役は、将来まずレポレロに、そして知名度が出たらドン・ジョヴァンニになれるバリトンすごろくゲームのスタート地点なので、将来有望な若いバリトン君がやるべきなんですが、ちぇっ、Bチームはマシュー・ローズか・・・。下手ではないけどロンドンでは嫌という程出てて聞き飽きてるし、今回も可愛げがなくておっさんだし、怒り方がリアルで怖すぎ。Aチームの若そうな 君は素直な好青年で好感もてました。

ひらめき電球

以上、勝ったのはAチームクラッカーで二人、Bチームで5人。どうりでAチームのドン・ジョヴァンニは退屈だった筈だ(ポレンザーニだけが良かったけど、なんせ出番が少ないので)。



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 負けちゃったのはドン・ジョバとレポレロのせいだダウン         勝った~~アップ



やれやれ、これで、モーツァルト祭もやっと書き終えました。


結局コジ2回、フィガロ3回、ドン・ジョヴァンニ4回、合計9回行ったわけですが、全て運よく13ポンドの舞台横の席が買えてお財布は痛まず(この席を買うために高い会員費を払っているのことはさておいて、だけど)、野心的な試みだったわけですが、さすがに回数が多いので大幅割引をせざるを得なくてROHも苦戦したものの、終わってみればどれもそれなりに盛り上がり、興味深いイベントでした。


3つを通じて、私の個人的ヒットは、コジのマリン・ボイストロム、フィガロのレイチェル・ウィリス・ソレンセン、ドン・ジョバのケイト・リンゼーとカルメラ・レミージョで、主にはじめて聴いた女性たちが素晴らしかったのが収穫でした。

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