オペラ三昧イン・ロンドン


去年の10月、名前がよく似てるので間違って買ってしまったAlexander Toradze というピアニストのコンサートに行ってしまったことはご記憶でしょうか? ガーン


行きたかったのはAlexandre Tharaudだったのですが、2月4日にその正しい方のタローのリサイタルに行くことができました ニコニコ


フランス人の彼はイギリスでは無名なので私は知らなかったのですが、日本人の友人二人の強いお勧めのタロー君。ちょっと前の日本公演は評判がよかったらしいですね。


クリップ

Fryderyk Chopin 24 Preludes, Op.28
      INTERVAL
Francois Couperin Les barricades misterieuses (Pieces de clavecin, Ordre No.6)
Maurice Ravel Prelude (Tombeau de Couperin)
Francois Couperin La logiviere (Pieces de clavecin, Ordre No.5)
Maurice Ravel Fugue (Tombeau de Couperin)
Francois Couperin Les jumelles (Pieces de clavecin, Ordre No.12)
Maurice Ravel Forlane (Tombeau de Couperin)
Francois Couperin Les rozeaux (Pieces de clavecin, Ordre No.13)
Maurice Ravel Rigaudon (Tombeau de Couperin)
Francois Couperin Le tic-toc-choc ou Les maillotins (Pieces de clavecin, Ordre No.18)
Maurice Ravel Menuet (Tombeau de Couperin)
Francois Couperin Le carillon de Cithere (Pieces de clavecin, Ordre No.14)
Maurice Ravel Toccata (Tombeau de Couperin)
Francois Couperin Les barricades misterieuses (Pieces de clavecin, Ordre No.6)

Alexandre Tharaudpiano

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プログラムは、前半はショパンのプレリュード全曲(有名なのは「雨だれ」)、後半はフランソワ・クープラン (1668-1733)のクラブサン曲集と、モーリス・ラヴェルがクープランに捧げたクープランの墓 を一曲おきに演奏するというもので、一見地味な選曲のせいもあってか、そう大きくないQueen Elizabeth Hallは空席が目立ち、7割弱くらいの入りでしょうか。私は超有名演奏家の売切れコンサートに行くことがほとんどなので、これにはちょっとびっくりです。


切符は選び放題だったので、最前列のど真ん中やや鍵盤寄りというベストな20ポンドの席を簡単に確保。彼からは5メートルくらい。


タロー君は遠目には爽やかな若者に見えるでしょうが、実際には40歳で、私の席だと目尻の皺なんかも見えてしまい、今はまだ青年で通用するけれど、あと何年かしたら貧相な中年男になってしまいそうな風貌。端正で美しい横顔は私好みですが。


前半のショパンのプレリュード、実は10年近く前に私がキーシンを初めて聴いた曲なんです。ウィグモア・ホールのそのリサイタルの感動はいまだによく覚えていて、演奏スタイルもちがうし、キーシンの迫力と比べてはいけないとは思いつつ、私にとってはショパンらしい濃いパッションを感じられないクールなプレリュードでした。


オペラ三昧イン・ロンドン


でも、問題はそんなことではなく、他にびっくり仰天したことがあるんです。


なんと、彼はこれを楽譜を見ながら弾いたんです


私は結構な数のピアノリサイタルに行きましたが、楽譜置いてたピアニストは2005年2006年 のダニエル・バレンボイムだけですよ。

巨匠バレンボイム先生は指揮者としても超多忙だし仕方ないかなと思えるけど、ロンドンでこれから名声を確立しなくちゃいけない若手ピアニストがそれではまずいのではないでしょうか? そのバレンボイム先生だって、去年のベートーベン全ソナタ演奏シリーズでは(少なくとも私は聴いた4回は)全部暗譜でしたよ。


別に楽譜見たっていいじゃないか、という意見もあるでしょうし、一昔前まではそれが当たり前だったということをどこかで聞いた気もするのですが、


一緒に行った日本の音大ピアノ科卒の友人は、「見音譜見るなんて自分のものになってないってことよ。これじゃあまるでピアノの練習を見てるみたいだし、それだけで大減点」、と。弾く側の心構えと覚悟という点からはごもっともな意見と採点です。
オペラ三昧イン・ロンドン
一方、私は、「観る」という面で色々考えさせられました。


楽譜を見ようが見まいが、遠くの席に座ってる人には重要ではないかもしれませんが、ホールの中で一番タロー君に近くにいる私にはビジュアルは重要なポイントで、手の動きだではなく、顔の表情から何かを感じ取ろうとするわけですよ。


音譜を目で追っているピアニストというのは珍しいので、私も他と比較してどう判断していいのかよくわかりませんが、ページをめくって次の部分に進むときに、「そうそう、次はこれだった」とその時に思い出しているように見えてしまいました。


もちろんそんなことはないのでしょうし、例えそうでも余分なことは考えず弾いているところに集中するのは悪いことではないのだから、気にせずにおこうと努力はしたんですけどね。


いっそ目をつぶれば演奏を聴くことに没頭できるかしらと思って、しばらく目をつぶってみましたが、それではやっぱり余りにも勿体ない気がして。だって、タロー君はビジュアル的にユニークで面白いピアニストなんですもん。


例えば、自分で音譜をめくる時に儀式のように綴じ目をゆっくりなぞって押さえるし、時折、壊れたロボットのように奇妙に腕を動かしたりするんです。ランラン君みたいに「一人で弾いてる時はあんなそんなことしないでしょ」と言いたくなる類のわざとらしい動作ではなくて、どちらも内面から滲み出る演奏の一部のように見えたので、見逃したくないでしょ。



それに、横に座っている譜めくりの人の存在が結構視覚的に邪魔でした。


もちろん微動だにせず座っているのですが、その白髪で偉そうなギョロ目のスーツ姿の初老紳士は、タロー君の弾いてる曲のイメージを合わなかったですから。男女どちらでもいいですが、舞台で絵になる若くて綺麗な人だったらよかったのに、などと勝手なことまで思ってしまいました。


今まで譜めくりの人が気になったことはなかったですが、歌曲のリサイタルなどではピアニストなんか見てないからどうでもよかっただけで、こうしていつも視界に入ってくると、それも印象を左右するんだということが初めてわかりました。


後半はお得意のクープランとラヴェルだし、もしかしたら暗譜でやってくれるかもというかすかな期待はやはり裏切られ、また音譜を置いての演奏でしたが、ほんのちょっとだけ、ほとんど見ないで弾いた部分もありました。


まあ、どうでもいいと言えばいいことなのですが、音譜が離せないとことは、このピアノ激戦区のロンドンで決して得点にはならないでしょう。


演奏自体は、音色も美しく端正で切れも鋭く叙情的で、清らかな素晴しかっただけに、余計惜しい気がします。


特に後半のクープランとラヴェルのフランス的香り漂う小品集では彼の本領発揮


新旧交互に演奏するというのも興味深い組み合わせだし(そういう音譜があるみたいです)、あまり聞く機会のないこの二人のピアノ曲がこんな素晴らしい演奏で聞けてとても満足。


ラブラブ!タローさん、またロンドンに来て下さいね。暗譜でなくても構いませんから。


オペラ三昧イン・ロンドン


ひらめき電球そう言えば、


話が飛びますが、もう一人音譜を見るタローさんと言えばハカセタローさんですが、私が行った彼のロンドン初のコンサート 以来、同じカドガン・ホールで時々コンサートをなさってて、最近では同ホールから来る案内には写真入りでスター並みの扱いをされています。今でも音譜を置いてやってらっしゃるのかしら?もう一度聞きに行く予定もつもりもヒマもないですけどね。


さらに外れますが、私も人前でお琴を弾くときには、暗譜でやる方が印象が良いにちがいないので、いつかそうできるように頑張ろうと殊勝に思ったりもしました。


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