1月11日、ロイヤルオペラハウスにドニゼッティが1840年に作曲した連隊の娘La Fille du Regimentを観にいきました。
この頃よくある共同制作ですが、今回はウィーンとNYメトに行く前にロンドンで初演なのです。新プロダクションの初日の幕が開くときのワクワク感は特別なので、そりゃ絶対初日に駆けつけます。
特に今回はデッセーとフロレスの共演となりゃ、そりゃ一日も早く聴きたいでしょ。
そして、期待通りの素晴らしいパフォーマンスで、こんなのが9ポンドで見えるロンドンにいてよかったとしみじみ思える夜でした。
まず、舞台からの水平距離は短いものの高い天井桟敷席upperslipから撮ったカーテンコールの写真を載せましょう。クリックで拡大します(ピンぼけですが)。
初日だけ登場の演出家他の裏方さん
♪オーイ、裏方さ~ん、裏方さ~ん~よ~♪ って年がばれるってば)
一曲のアリアだけで多大な喝采もらっちゃったーい!
Director: Laurent Pelly
Costume Design: Laurent Pelly
Set Design: Chantal Thomas
Conductor: Bruno Campanella
Marie: Natalie Dessay
Tonio: Juan diego florez
La Marquise de Berkenfeld: Falicy Palmer
Sulpice: Alessandro Corbelli
La Duchesse due Crankentorp: Dawn French
他愛のない単純さです。
例えば、少女漫画家が「これ、次の連載コミックのアイデアなんですけどぉ」と見せたら、「あかすか~、単純過ぎるでバツだがね~」と担当さんに名古屋弁で言われそうなくらい。
赤ん坊の時に戦場で拾われたマリーは、連隊全員の娘として育てられ幸せに暮らしていて、トニオという恋人もいましたが、実は貴族の娘とわかったので館に連れて行かれ、公爵の息子と結婚させられそうになったけど、連隊の助けで結局恋人との結婚を許されてめでたしめでたし。(ほら、文章ひとつで書けちゃった)
舞台と衣装
オリジナルは1810年のナポレオン時代という設定ですが、今回は第一次世界大戦時に読み替えてあり、戦車も登場。いつもスタイリッシュなローラン・ペリーの演出ですから期待は高まりますが、一幕目は、床は一面大きなヨーロッパ地図が3枚敷いてあり、折り目も付いているのでセットとして様々に利用可。これは洒落ていて気に入りました。でもニ幕目の貴族の屋敷は平凡でがっかり。コーラス団の振り付けが面白いので笑えましたが。
衣装も演出家ペリーのデザインだそうですが、特に特徴はないけどセットに溶け込んですっきり。マリーの「赤毛のアン」風のお下げ髪や衣装はネットでパクった写真でご覧下さいですが、チロル人フロレスの毛糸のベストはダサいし、軍隊の制服も貴族の衣装もごくまともであまり面白みは無し。
おイモの皮剥きながら愛のデュエット
パフォーマンス
マリー
デッセーは歌も芝居も素晴らしいの一言! ブラヴォーを百回叫んでしまいます。
出ずっぱりなのにずっと細い体でエネルギッシュに動き回り、おてんば娘ぶりを体中で熱演。コメディ感覚も抜群。女優志願だったそうですが、その道でも立派にやっていけるでしょう。アイロンをかけたりおイモの皮を剥きながら歌う人は初めてですが、シャツをちゃんと何枚も畳んでました(笑)。おイモの皮はいい加減でしたけど。
歌の方は、最初少しだけ声が硬かったもののすぐに本領発揮、後はもうアクロバットのようなコロラチュールやしっとりアリアをこれでもかという程たっぷりと聞かせてくれて(突っ立って歌うだけではなく全てアクション付きで)、デッセーを堪能。
セリフ部分も、フランス人である彼女は当然他の外国人歌手たちよりもずっとナチュラルで表現力豊か。
彼女、ロンドンにはなかなか来てくれなくて、生ではトマの「ハムレット」で聴いたことがあるだけなので、感激もひとしお。
でも、一回のパフォーマンスでこんなに大熱演して、後が続くのかしらと心配。細いけど筋肉のついた体で頑張ってね~!
トニオ
マリーに比べるとトニオの出番はうんと少ないいわば脇役なのですが、ハイCが9回もある難曲有名アリアがあるために、テノールもそれが歌える人に出てもらわないと格好がつきません。
40年前、まだほっそりとしたパヴァロッティがROHのこの役で一躍スターになったということです(少なくともイギリスではそう信じているようです)。そのパヴァロッティ、後年かなり衰えてからNYメトで「連隊の娘」をやろうと自分から言い出したのに、やっぱり自信がないのか結局途中で降りてしまい、これが上手に歌えるテノールはそう簡単には見つからないのでメトのボスが怒ったという話を聞いたことがあります。結局誰が代りに歌ったかは忘れましたが。
ROHではこのオペラはその時以来40年振りなのですが、去年ボローニャ歌劇団が日本で引越公演をしたので、日本の皆さんにはお馴染みでしょう。そのときももちろんフロレス。今これを彼以上に歌える人はいるわけないですもんね。
で、この日のフロレスはどうだったかというと、
一ヶ月前の風邪気味リサイタル からは回復して、彼らしい甘く澄んだ声が復活。例のアリアが最も熱狂的な喝采を浴びました。
そりゃ素晴らしかったですよ。初めて聴いたら大感激でしょう。
だけど、
私はこれを生で何度も聴いているので、正直言って感激も薄れがち。リサイタルの最後はいつもこれを歌ってくれるのですが、そりゃかぶりつき席での迫力には敵いません。
それに今日の彼はなんだか声量がなかったような。元々細い声だけど、同じく細い声のデッセーに完全に負けてたし、一緒に行ったトーチャンも「彼、上手だけどちょっと声が小さかったね」と言ってました。このアリアはもっとパワーのあるテノールが歌ってくれる方が合ってるだろうにと思います。(そんなテノールがどこにおるねん?!、ですが・・そうだヴィリャゾンで聴きたいような)
折りしも、さっきテレビでフロレスが出てるuマドリッドのレアル歌劇場の「セヴィリアの理髪師」を観たのですが、やっぱり彼はこういう軽いコロラチューラの方が絶対向いてます。
ちょっと飽きたと言いながらも、フロレスのバービカンの来年のコンサート(一年半先!)はすでにかぶりつき席を確保したし、15日はROHの公開インタビューにも仕事が忙しい中駆けつけます。
マリーと一緒になるためには軍隊に入らなきゃ駄目って言われたから、チロルズボン脱いで連隊に入ったよ~♪
その他
マリーの母親役のフェリシティ・パーマーのドスのきいた声がデッセーの細い声と対照的で、彼女がまだ立派に充分現役であることを証明。女王陛下を思わせる容貌と振る舞いも上品。だけどとぼけていて最高。
連隊の父親代表Sulpiceのアレッサンドロ・コレベッリは、お得意のコメディはもちろん上等の出来だけど、声は今まで私が聴いた中でもっとも精彩がなくて残念。
特筆すべきは、ドーン・フレンチ。彼女はイギリスでは大人気の喜劇女優で、歌わないセリフだけの伯爵夫人役のとても短いカメオ出演ですが、デブちゃん体型を生かしたコミカルな動きと絶妙の間の取り方でもう面白いのなんのって。皆大爆笑で楽しませてもらいました。
イブニングスタンダート紙とテレグラフ紙は彼女の大きな写真を載せて「オペラ歌手を食った」と大きな扱いでした。
たしかに、第二幕は彼女のおけげで大いに盛り上がりました。
こんな人がお姑になるんじゃ、息子がいくら素敵でも結婚したくないわよね~(クリック拡大すると凄い顔がもっとよく見えるでね~)
この体、詰め物はしてなくて、100%自前です。
というわけで、初日は大成功。批評も総べた褒め。
私はあと二回(20日と29日)行くので、皆さん(特にデッセー)、風邪などひかないようにね!
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