さて役を掴んだキョコさんはどうなった?
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「昨日の雑誌、ありがとう」
「うん、参考になったならいいよ」
「でも・・・・本当に別人みたいだよ」
そんなに変わったかな?
確かに昨夜色々観察できたし、話をできたから自分の中でトニーと言うより、まずは恋して貰える様な男性像を作りあげたのだ。
実際に恋愛要素のわからない所は、尊敬する先輩の言動をなぞらえて今朝から自分の中でカチンコを鳴らしてきた。
朝練では短大の教室を借りて基礎体力作りをして、HR後は授業が空くのでそのままの格好で来てしまった。
学校の入り口を通る時に、中学生とぶつかってしまい相手に尻餅をつかせてしまった。
こんな時、どうするか。役に入ってた私の身体は無意識にさっと手を出して相手を起こした。
「大丈夫? よそ見しててごめんね。大切な制服を汚してしまうなんて。是非お詫びをさせて欲しいな」
そう言うと周りから悲鳴が上がってびっくりしてしまった。助け起こした子は両手を握って真っ赤になっちゃってるし、どうしたんだろう?
「あ、あのお詫びなんて結構です。私がよそ見してたので、すみません!」
「いや、こちらが注意してるべきだったからね」
再び上がる悲鳴。なんか周りに生徒がやけに増えてない?
も、もしかしてバレたのかしらっ!?
その時におーちゃんの声が聞こえてきてひとまずその場は落ち着いた。
自分の教室でもみんなが集まってきて言われた時には、すごくびっくり半分、嬉しかった。
「昨日の今日でここまで格好良くなるとは思わなかったよ」
「きゃー、格好いいっ! ただ……」
「ただ?」
「雰囲気がちょっと色気出過ぎ? まるで蓮みたい!」
「え~~~! 無理だからっ!」
私の中からスコンッ、とトニー魂が抜けてしまった。
だってこうなったのも敦賀さんのせいだものっ!
*****
授業が始まればいつもと同じ日常が始まる筈だった。
でも今朝、朝練頑張り過ぎたせいかな? ちょっとお腹が痛い。
いや、この下腹部がしくしくする感じは……
授業を聞きながらどうもいつもの百面相をしていたらしい。休みのチャイムが鳴った後、おけいちゃんが心配そうな顔でやって来た。
「コウキ、大丈夫? 顔色悪いよ?」
「たぶんアレかな……」
「もしかして結構重いの?」
「そう……なのかな?」
今まで女の子友達が少なかったから、そう言う話題をした事がなかった。一人で?マークを飛ばした私にいきなりおけいちゃんの爆撃が落ちてきた。
「おーちゃん、アレ先週終わってたよね」
「ああ、あるよっ! はいっ!」
「ん、ナイス! はい、コウキ」
「羽ありもなしも入ってるから、好きに使って」
えええええっ!!!
何かがおーちゃんの方から飛んできた。渡されて中を開けてみれば、出てきたのは所謂女の子の日の必須アイテム!
おーちゃん、大和撫子たるものがこの様なものを投げるなどっ!
はくはくと口を動かしてると、横からナオキが更なる追撃をくれた。
「別に女ばっかりだし、ポーチに入ってるだけましだって!」
「そうそう、結構伝染するしね」
「で、伝染するの?」
「なんでかわかんないけど、そう言う事多いんだよね~」
「へ、へぇ……そうなんだ……」
今まで全く知らない世界にまた一歩踏み出した感じがするぅっ!
「あまり辛いなら保健室行けば、先生も慣れてるから痛み止めくれるよ」
「各種揃ってるから選び放題!」
それは選び放題でも嬉しくないかも……
*****
そう思いながらも昼休み、薬を貰いに行くと先生から顔をマジマジと覗き込まれてびっくりしてしまった。
「なるほどね、うちのクラスが騒ぐだけあるわ」
「えっ?」
「今朝、門の近くで王子様やったらしいじゃない?」
「はっ? 王子様?」
門の近くって……まさか追突劇の事?
「あ、あれはっ!」
「まあ、問題ないでしょ。それより体調がそれなら無理はしない方が良いわね。朝練してたんでしょ? だったら今日はあっちには連絡入れて置くから、帰りなさい」
「えっ? でもっ!」
先生はふと柔らかく笑んで続けた。
「演劇の子達は本当に休まないとダメって言ってるのに、話半分になっちゃうからね。プロだから余計か。舞台上じゃないんだから、無理するより心配してる友達を安心させてあげなさい?」
「え?」
ふと先生の顔が向く方をみれば、4人の影がすりガラス越しに見える。
あ、みんな……心配してくれたんだ……
「わかりました。すみません、連絡お願い致します」
「わかったわ。じゃ無理は禁物だから、いつでもいらっしゃい」
「ありがとうございます」
ガラス戸を押し開ければ、心配そうな4人の顔。迷惑かけてるのに……なんだか、嬉しい……
「放課後の練習、お休みになっちゃった」
「えっ? コウキ、そんなに辛いの?」
「ううん、そうじゃなくて練習がハードだし、今日は朝練したから大丈夫だよ」
みんながほっとした顔をした。そんなに顔色悪かったのかな。
「じゃあ帰りに一緒にカラオケ行かない?」
「えっ? カラオケって、特に悩み事ないよ?」
4人はびっくりした顔をしていたが、ナオキが笑い出すとつられる様にみんな笑いだした。
「別に悩み事なくても、みんなで歌ってワイワイして、今度の歌の練習も出来るかもしれない、位でいいじゃん?」
「別にストレス発散だけが目的じゃないっしょ?」
「ハードに身体動かす訳でもないしさ」
「そうそう、楽しみに行こうよ」
「「「「ねっ?」」」」
今までカラオケ=モー子さんのお悩み相談用密室喫茶店という図式があっただけに、純粋に楽しめるか不安だったけれど、いざその空間に入ったら楽しくて……
「コウキ、曲のチョイスが古いね」
「うぅっ! 昔の曲しか知らなくて……」
「今度のミュージカルのナンバーも入ってるから、たけちゃんと歌ってみてよ」
「うん、私、マリアのパート歌うからね~」
実はたけちゃんはコーラス部だったらしい。もう引退しちゃったけど、凄く上手くて色々とアドバイスをくれる。
「次は私、尚のデビュー曲歌いまーす!」
おーちゃん、それは選曲が悪いよっ! ……でも歌える自分が苛立たしいっ!
こうしてあっという間に初の楽しいカラオケタイムは過ぎていった。
***** つづく
徹底的にキョーコさん、女子校ライフを楽しむの巻です。
蓮さんの演技指導?は、無駄に色気をバラ撒く結果に……
さてその蓮さんはどうしてるんだろう……