あっという間に回ってきた三巡目。
もう、私の頭が渦でぐるぐる。
たぁすけてぇ~~!
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亮は俺にとって、俺が生まれた時からつるんできたダチだった。だから小学校も中学校も亮とつるんできた。
なのに、いきなり亮までも俺に女を求めてきた。
アイリを溺愛しすぎて、暴走した親父から自分を守るために俺は生まれた。
その他にも俺に女を求めてくる男達が全てあの時の親父に見えて・・・・
そんな自分を守るために、無害そうな先輩を盾に選んだのに先輩も俺に女を求める。
俺はそんなんじゃない、俺は男に求められるものなんてないのに、何で俺を弱々しい女としか見ないんだ!
ある夜、亮ともはぐれて一人で歩いていると、一人の男にぶつかった。
「ごめん、君、大丈夫?」
俺は声を失った。まるで俺の親父の生き写しだ。
身体が震えて止まらない。
逃げなきゃ、逃げなきゃ。
また檻に閉じこめられてしまう!
でも焦る心とは別に身体が動かない。
「俺がよそ見してたから。立てるかな?」
「い、いい。だい・・・・じょぶ」
震える声が情けない。でも、心臓がばくばくして、呼吸が速くなる。
「大丈夫じゃないだろう! 俺は医者だから、安心して。怖くないから、そんなに震えないで。ほら、大丈夫だよ」
親父とは違う優しい声。暖かい腕に包まれて深呼吸して少し落ち着いた分、気が緩んでぷつりと記憶が途絶えた。ああ、アイリに変わるな・・・・
*****
次に気が付いた時、私は病院のベッドの上にいた。
なぜ、ここにいるのか。たぶん、アイルの時に何かあったんだ。
「気が付いた?」
声をかけられた方を向いて、息が詰まった。
なんでここにお父さんがいるの?
お父さんはずっと昔になくなってしまったのに。
「君は昨日いきなり気絶してしまったから、俺の勤めてる病院に連れてきたんだ。覚えてるかな」
ふるふると首を横に振る。実際覚えていない。
アイルとこの人の間に何があったのかわからないけど、でも本当に嫌な時にはアイルは全力で逃げる。
「君の名前は?」
「私はアイリ。あなたは?」
「俺は里見っていうんだ。昨日はぶつかって悪かったね」
「ううん、覚えてないから・・・・」
「え、覚えてないの?」
「ごめんなさい・・・・」
するとその人はにっこり微笑んで、頭をぽんぽんと撫でてくれた。なぜだろう、こんなにお父さんに似ていて嫌な筈なのに、この人相手だと不思議と落ち着く。
「一晩中、あんなにうなされてたら頭も疲れるでしょ?」
「えっ、そんなに寝言を言ってましたか?」
「そりゃもう、大声であれやこれや」
「いやぁぁぁっ」
するとお腹を抱えて里見さんは笑いだした。
か、からかわれたんだ!
子供扱いするわ、嘘吐いてだますわ、どんな医者なの!
「ごめん、そんなに怒らないで。昨日から君には謝ってばかりだ」
「だったら謝るようなことしなければいいんです!」
こんなに普通に男の人と話ができたのはいつぶりだろう。
亮や先輩ともこんなに私の時にはリラックスして話せなかったのに。
その日、すぐ退院したけれど暖かい気持ちが心に残っていた。
*****
変よ、変よね。だって、トラウマになったお父さんのそっくりさんにこんな風に懐くなんて。
「京子さん、いい感じだね。これからもその感じで頼むよっ!」
「監督・・・・ありがとうございます」
「なんだ、あんまり張りのない声してんな。なんか引っかかってんのか?」
「いえ、その・・・・トラウマの元のそっくりさんに心を許せるものなんでしょうか?」
「ああ、なるほどな。でも実際トラウマの治療法としては、同じ状況を作り出して過去は過去、現在は現在と認識させる方法もあるらしいからな。気にするな」
いえいえいえいえ、気にしますからっ!
いきなり配役された敦賀さんが、どんどん重要ポストになってきて、更に周りの男性比率があがってますし!
この後が問題なのよっ、どうしたらいいかわかんないよー!
だって、バカ男1、2とキスをして、いやして貰って、やっぱりこの人じゃない、って演技ってどうしたらいいのっ!
だだだだって、嘘でもキスしなきゃいけないのよっ!
しかも、最終的に・・・・いやぁぁぁぁっ!
ひ、人前でべ、ベッドシーン。
し、しかもっ、なぜか敦賀さんとっ!
いつかは通らなければならない道とは思っていたけれど、まだ心の準備できてないからっ!
嘘だと言ってぇぇぇ!
*****
「社さん、なんで新しくキョーコの彼氏役ができると思ったのに、この役の絶対条件が一切の嫉妬を禁じる、ってどんな嫌がらせですかっ。アイツ等とキョーコのキスシーンがあるっていうのにそんなの無理に決まってるじゃないですかっ!」
「そう言われてもなぁ、ダメならこの役、貴島が呼ばれるらしいぞ~」
「なっ!」
「社長が言い出したら聞かないのなんて、今に始まった事じゃないだろう? 我慢してやり通すか、貴島に役を譲るか?」
そこまで遊ばれてもできません、なんて言えるわけがないことを社長は知ってる。それに貴島に役を譲るなんて事があり得ないことも。
「アイリは父親の激しい嫉妬に恐れをなして、自分を否定しアイルを作った設定になってるんだ。この前撮ったアイルへの告白は良かったよな」
「彼女は一人ですから。キョーコしかいませんから」
劇中では彼女に触れられない時間があっても、プライベートはずっと一緒だから。俺はそうして心を落ち着けていた。そんな心を社長に見透かされているとも知らずに・・・・
***** つづく
ぷはぁ~、もう何だかわかりません! ついに貴島くんの名前まで引っ張りだしてしまった。
しかも四巴、そっちのけだし。
というわけで、三度目の鬼切りですが、りつか様、宜しく調理の程、お願いしますね~~♪