カバに似たAクンとボクとは、高校2年時の同級生だった。
Aクンは、顔こそカバに似ていたけど、家はなかなかのおぼっちゃまクンだった。
彼の父親は土建屋さんを営み、4トン半の砂利トラを何台ももち、安倍川から砂利を運んでは、どこか知らない街にそれをばらまいていた。
 

{E94AD1EF-3A2C-4652-A864-548D3124AF80}

 
カバに似たAクンの家はでかかった。
Aクン。
顔もでかかったけど、それ以上にその家族が所有する土地は広大で、さながらサファリパークのようだった。
その土地に。
カバは生息していた。大きなお洒落で瀟洒な母屋と、ちょっと古くはなったけど、人が住むには十分快適な離れがあった。カバはその離れに住み着き、そこにドラムセットとフェンダーのストラットとギブソンのレスポールを置き、スタジオを作っていた。
言うなれば、一大カバ王国。ペンギンに似たボクと、サルに似たNクンと、ゾウに似たIクンはこのカバ王国に入り浸った。
ボクら動物仲間がそこに集まると、カバはいつもピザトーストを焼いてくれた。
 
「これが今、東京で一番流行っている食べ物なんだ」。
ボクとサルとゾウは、カバから与えられたその珍しい食べ物を喜んでいただいた。
ある時。カバが食卓に、タバスコを持ってきた。
初めて見るお洒落でキュートな瓶。その中には見知らぬ赤い飲み物が入っていた。カバはそれを、ピザトーストにふりかけろと、ボクら動物仲間に命令した。
う〜む、さすが土建屋さん。こんななお洒落な飲み物まで手に入れていたのか。
ボクとサルとゾウは、競うようにそのタバスコをピザトーストにふりかけた。
特に、サルがひどかった。サルはいつでもひどい。
サルカニ合戦を見てくれてもわかるように、いつだってサルはひどいと相場が決まっている。そのサルは、ピザトーストの表面が真っ赤に染まるまで、タバスコをふりかけた。
サルはそのピザをほうばった。
そして・・・。その後、彼はそれを放出した。
サルが放出したピザトーストの一片は、放物線を描き、その後地面に緩やかに落下した。ゴジラの放射能放出よりもそれは、ある意味悲惨な風景だった。
真っ赤に染まったサルのお顔は、その後平和な時を経て、青くなり、白く変わった。サルの顔色が柔和な肌色に戻るのには、ある程度の時間を必要とした。
一つの事件が終了すると、動物たちはまた何事もなかったように楽器を演奏し始めた。
 
追記:その日、サルのドラミングはいつにも増してエキサイティングだったことは言うまでもない。