世間にはいろいろな種類のおじさんがいる。

いつも、何かに怒っているおじさん、「ニャロメー」型。

いつも、許してくれるおじさん、「これでいいのだ」型。

いつも、くたびれているおじさん、「ちかれたビー」型。

どれもこれもが、そこかしこにいる普通のおじさんだけど、かつて。

かつて日本で一度だけ、一世を風靡したおじさんがいる。

老若男女、日本にはたくさんの人々が生活する中でただ一人。

眩しくも、美しく輝きを放ったおじさんがいる。

それが、なんちゃっておじさんだ。

「えっ?なんちゃっておじさんを知らない?」そうかそうか。

それならボクがあなたにだけ、そっと教えてあげよう。

なんちゃっておじさん。それは、こういうおじさんだ。


若林で見た空


ある日。電車に一人のおじさんが乗っていた。彼は、何事かブツブツ呟いては、最後に「なんちゃって」と締めくくる奇妙な独り言をずっと続けていた。

不思議なおじさん。周りの人が好奇な目で彼を見る中、たまたま車両に乗合わせた、コワイ雰囲気を醸し出した男がそのおじさんに近づいてこう言った。

「うるさい。ブツブツ言わないで黙ってろ。」

でも、おじさんは独り言をやめなかった。「ブツブツブツブツ。なんちゃって。」

その態度にカチンときたのか、怖い筋の雰囲気を醸し出していた男は、独り言を繰り返すおじさんに向かって、怒鳴り散らした。「うるさいっ。黙ってろ!!」

そのあまりに大きな怒鳴り声に驚いたのか。なんとこのおじさん。いきなり、大声で泣き出したのだ。

「え~ん、えんえんえん。」さすがのコワイ筋の雰囲気を醸し出していた男も、おじさんが急に泣き出したことにビックリした。そして、ばつが悪くなったのか、次の駅で下車してしまった。

残されたおじさん。泣き出したおじさん。

彼は、その怖い男の人が電車から降りると、周りをキョロキョロっと見渡すやいなや、頭の上に大きな輪を作って、「な~んちゃって」と言ったのだ。それを見て周りの人は大爆笑した。


という話。随分昔にラジオで聞いたお話だから。細かい点については、いささか自信がない。大枠でこのようなお話であったということで、お許しいただきたい。

番組の名前は、「たむたむタイム」。

この番組でこの話が紹介されると、全国からなんちゃっておじさん目撃談が囁かれるようになった。なんちゃっておじさんをボクも見た。私も見たと。それを機に、なんちゃっておじさんは時の人へと大成長する。


ところで何故ボクがなんちゃっておじさんを今頃思い出したかというと。

理由がちゃんとある。それは、「踊る大捜査線」だ。

亡きいかりや長介さん。立派なセリフを言うたびに、必ず「なぁ~んてな」という言葉を付け加えたのだ。その言葉が、踊る大捜査線ファイナルにも登場した。

長い時を経て、「なんちゃっておじさん」復活。ボクはそう思った。

昭和のおじさん。輝きを放ったおじさんが、あの頃日本にたくさんたくさん生息した・・・。