中学校の社会科の先生に、鼻の穴の大きな人がいた。
名前が思い出せない。思い出すのは、鼻の穴が大きいことだけ。
教室で、一番前の席に座っていると、なんだか吸い込まれそうな気持ちになる。
鼻息で。
普通吸い込まれそうな瞳ってあるけど。
吸い込まれそうな鼻の穴はかなりヤバイ。それはブラックホールに似ていた。
ブラックホールの向こうはどうなっているのか。誰にもわからない。それが恐ろしかった。
ボクが子どもの頃の社会科は。もろ、暗記教科だった。
ソ連のコンビナートの名前を全て覚えさせられた。アメリカの工業地帯の名前も、普く覚えさせられた。
ドネツ炭田は、ドニエプルコンビナート・・・。なんて風に。
鼻の穴は、本当に細かい問題を出した。重箱の隅を、爪楊枝でつつくような問題。
ドイツの工業地帯だったら、ルールは出ない。出るのは、バイエルンとミュンヘンとシュツットガルトだ。
だからいつでもボクらは、てんてこまいした。全てを覚えて、全てをテスト中に放出する能力は、この教科で身に付けた。
1時間目が社会の日は、心が重たかった。最初から最後まで、聞き逃せないほど、内容満載。
しかも相手は鼻の穴だ。
ブラックホールに吸い込まれないように。
ボクらは、ノートをひたすら取り続けた。