線香花火が好きだった。

その小さな火の玉からパチパチとはじける火花が美しく、そしてそれはいつでも儚かった。


あの日。

彼女は、線香花火をボクに差し出した。

「昨日みんなでやった花火の残りだよ」と言って。

GINちゃんと一緒にやりたくて、これだけ残した。

彼女の手に乗る線香花火は僅かに数本。でもたったその数本に、彼女の思いが詰まっていた。


放課後。二人で線香花火をした。普段はサークルの仲間が集まるキャンパスの一画で。

ボクはマッチを擦ってそれに火をつけた。

火の玉がすうっと出来て、線香花火の先はゆらゆらとゆれた。火の玉を支える根元は細く、今にも切れそうで、それがボクたちに似てるなって思った。

線香花火。その光は、彼女の顔を優しく照らした。


「鎌倉で花火大会があるの。GINちゃん。一緒に行かない。」

彼女の問いかけに、ボクは、「いいよ」と答えた。

「いいよ」と答えた後ちょっと間を置いて、最後の線香花火が作り出す火の玉は、火花を周囲に放出する力を残したまま、地面にポトリと落ちた。

「終わっちゃったね」。燃え尽きた線香花火の束を集めて、彼女はそういった。


若林で見た空


1978年。スカイライン「ミスター&ミズ」のTシャツが流行った年。

高度経済成長は、わずかに翳りを見せていた。

何か目に見えない将来への不安を抱きながら、ボクらは線香花火のように火花を放ち続け、暮らしていた。

その火の玉を支える根元の部分はやっぱり細い。

ボクは気が付いていた。

彼女が鎌倉に行こうと言った理由を・・・。


由比ガ浜で見た花火。その後の二人のことについて。またどこかで書かせてください。


*この話には、悲しい続きがあります。

続きは、2012年2月22日のブログ「鎌倉へGO・・・」にて紹介しています。

http://ameblo.jp/pen-ginchan/entry-11172709458.html