昔のテレビは、ヒューンと消えた。
今のテレビとは、そこが違う。
今のテレビは瞬時に消える。でもでも。
昔のテレビはスイッチを切ると暗くなるけど、光が真ん中に残り、10秒くらいたたないと完全に消えなかったのである。
覚えておられる方は、かなりのご年齢。
でもでも。きっと、あなたは覚えています。
ところで、これが困った。いつ困ったかと言うと、修学旅行の夜困ったのだ。
就寝時間は夜の9時。これが、一般的な修学旅行の寝る時間。
若者のライフスタイルからは、かなりかけ離れた計画だ。
何しろ、若者は元気がいい。9時に寝ろと言われて、寝るわけがない。
で。テレビを見る。隠れて、音を小さくして、みんなでテレビを観賞する。
普段見られない、深夜番組だってこの日は見れちゃう。だからウレシイ。嬉しくて、切なくて、涙そうそうになってしまう。
ところがである。
若者達が、そうした幸せの絶頂感に達した頃になると必ず、先生たちが部屋の見回りにやってくるのである。
「おい。お前ら、全員もう寝てるだろうな。」
誰かがあわてて、テレビのスイッチを切る。そして、みんな一斉にフトンに潜り込み、スヤスヤっと寝たふりをする。でもだめだ。
でもだめなんだ。
だって、テレビの中心が「ヒューン」と光ってる。
これで、全てがばれてしまうのである。
「誰だ。テレビを見ていたやつは!!」
こうした不測の事態が起こった時、だいたいやり玉にあがるのが、顔が水道管に似た、Mち月クンだった。彼の家は水道工事の仕事をしていた。野球部に所属し、元気のいい彼は、いつでもイタズラ小僧の中心的な存在だった。
「こら、Mち月。お前だな。」
先生が、そう断定的に怒鳴り始めると、ボクらは一斉にこう言った。
「先生。助けてください。Mち月クンがテレビを見ていて、うるさくて眠れません。」
Mち月クンは、野球はうまいけど、言い訳が下手な少年だったから、「グワグワッ」とわけのわからない声を発し、その後、廊下に出された。
ボクらは、廊下でどのような恐ろしいことが起こっているかは気にしないで、フトンの中でトランプをして遊ぶことにした。
それが青春なのだ。
Mち月クンは今。父親の仕事のあとを継いで、水道工事屋さんを元気にやっている。
だから、過ぎ去ったことは水に流し(うまいっ!!)、あの時のことは許していただきたいとボクらは皆そう思っている。