ちっちゃい頃。

静岡のお街に、K泉閣という中華料理屋さんがあって、そこによく食事に出かけた。

ボクは、そのお店に行くのがとても楽しみだった。

何故かと言うとそのお店には、自動に開閉されるドアがあったのだ。

いわゆる自動ドア。

本当に珍しかった。そして、不思議だった。ドアの前に立つとドアが勝手に開く

どんな仕掛けになっているのだろう。誰かがドアの前に立つのを見張っていて、見えないところでヒモか何かで引っ張ってるのかもしれない。そう思ってた。


若林で見た空


K泉閣のお店にはもう一つ、ボクの心をときめかせる仕掛けがあった。

それは、テーブルが回ること。

料理が届くまでボクはそれを、クルクルクルクルと回し続けた。

家族全員の目が回っちゃうんじゃないかと思う位、ボクはそれを回した。

お正月、いつもよりたくさん回していますのおじさんがテレビによく出ていたけど、ボクはそのおじさん以上にテーブルを回した。

たったそれだけで楽しかった。どうして、ボクの家のテーブルは回らないのだろう。母によく聞いた。

すると母は決まってこう答えた。

「ドアが自動に開いて、テーブルがグルグル回る家に住めるように、大人になったら一生懸命働けばいいんだよ・・・。」

「ふ~ん。」と頷くと、ボクは中華料理をパクパク食べた。

おいしかった。そして、大人になったら一生懸命働こうと。

ただ漠然と、その母の教えを心の中に受け入れた。