その昔。サーフィンをする人はサーファーと呼ばれた。
これは、とても稀有なケースだ。
だって、卓球をする人をピンポニアと呼ばないし。
草野球をやる人を、ベースボールプレイヤーとも呼ばない。
趣味でそれを楽しむだけなのに、なんだかサーフィンをする人たちは、他のことをたくさんやっていても「一括り」に、サーファーだった。
大学生で、経済の勉強をしていてもサーフィンをすればサーファーだったし、銀行マンの融資担当でもサーフィンをしていたらサーファーだった。
彼らは、顔が黒くて、アロハシャツの生地を裏返しにしたような服を着ていた。
紺色のコットンのパンツをはき、髪の毛を金色に染めていた。
卓球をする人や、草野球をする人を、見た目だけで「この人はピンポニア(またはベースボールプレイヤー)だ!!」って判断するのは難しかったけど、サーフィンをする人だけは簡単に判別できた。
そういうファッションがあったから。
ところがここに、複雑な事由が発生する。
サーフィンはしないけど、ファッションだけサーファー・・という人たちが街に溢れかえったのだ。
サーフィンをすると女の子にモテルという、怪しげな情報にのせられた一般の方々が、服だけ裏返しにし始めた。その上、あろうことか、ボードだけ買って車にくくりつける人まで現れた。俗に言う、陸(おか)サーファーだ。
ボクは友達が鵠沼に住んでいて、そこでほんのちょっとだけボードに乗った。(つまりはボクも立派な陸サーファーだった)。
地元民に守られて波に乗るのが、一番安全だった。波の優先権だとか、占有権だとか、所有権みたいなものが、明確にあったから、それを外した時も、地元民が一緒にいてくれると大きなトラブルにはならなかった。
あの頃。
浜トラがいて、サーファーがいて。みんな、クッキーフェースだった。
猫も杓子もサーファーだった健康的な時代。
あんな時代はもう来ないのかもしれないね。