一般的に言って、初恋は実らない。
初めて人を好きになって、それが簡単に実ってしまったら、人生はつまらないから、神様がわざとそうしているのだ。
初恋が実る・・・。
それは、100円でパチンコが大当たりしてしまうのと同じだし、道を歩くたびに1万円札を拾うのとも同じだ。
街を歩いていたら、自分とそっくりな人間を見つけたカッパが、その人にたずねてみると、その人は子供の頃から「カッパ」というあだ名だったという衝撃的な過去を知ってしまったというシチュエーションの中で、カッパが味わう動揺とも同じだ。
要するに、「なんだ、そんなものか・・・」なのだ。
それだけは避けたい。人々にそう思わせたくない。
初恋を実らせてはならない理由はそこにある。
神様は、きちんとした理由の下、裏で糸を引いて、初恋をせっせと失敗に終わらせているのだ。


若林で見た空


だから、初恋が実らなかったあなたは神様を恨んではいけない。神様は神様で、業務に忠実に励んでいるだけだ。それは、神様にとって、ある種のルーティンワークなのだ。
ATMにキャッシュカードを入れたら詰まって出てこなくなったと、苦情を述べるお客さんの悲痛な叫びを毎日のように聞き続ける銀行員さんの業務と質的には同じものなのだ。
ところが・・・。
ボクは中学生時代、初恋を実らせてしまう。
神様がうっかり見落としている間に、ボクは初恋の女の子と仲良くなってしまい、映画を一緒に見に行ってしまったのだ。そして、あろうことか、プレゼントをあげたり、もらったりしてしまう仲になってしまう。
今思うと、一杯食わされた神様は、きっと悔しがったにちがいない。自分の職務に対する怠慢を嘆いたことだろう。
ただ、残念なことにその女性は、ボクとは違う高校に通うことになり、美しい恋愛は終焉を迎えることになる。神様最後の努力が、ここに形となって実を結ぶ。
「初恋を実らせてはならない。」

村下孝蔵さんの「初恋」という曲を聴いた時、ボクは、自分の中学生時代を鮮明に思い出した。放課後、部活動で運動場を走る彼女を見つめるボクは、今以上に純粋だった・・・。