その日、ジャンクヤードは開店が遅れていた。
家を出際、店の営業時間についてオフクロに意見され、、、言い合いが長引いていたのだ。
「あんたの店は、ちょっと開店時間遅いんじゃないかい?
この辺はみんなもっと早い時間に出歩るくんだよ。
正晴くんのお店、開くの遅いねーって、近所の人達もそう言ってるよ!」
ちなみにジャンクヤードの営業時間は 「12時~24時」 で月曜定休。
確かに、意見されてもおかしくないタイムテーブル。
何年もこの辺で商売をしてきたオフクロからしたら、、心配で仕方なかったのだろう。
しかし私には私の考えがあったし、、ましてやまだ若かった私には、母親の忠告に素直に耳を貸す気はサラサラなかった。
「俺はこの辺の主婦層を対象に店をやってんじゃないんだよ。 対象は都心で仕事して帰ってくる連中。 だから深夜まで店を開けてんの。」
「ふん、、、あんたはまだ何にも判っちゃいないねー!」
「うるせー! つべこべ言わずに黙って見てろってんだ!」
てな感じで、どこにでもある親子喧嘩が終わって家を出た時、私のイライラは限界に来ていた。
ちぇっ。 うまくいかなくて困ってんのはこっちの方なんだ。 俺の商売にイチイチ口出ししやがって。
どうせ今日もいくらも行かねえだろうなー。
もう金が残ってないのになぁ、、。
最悪の気分で店の前まで来ると、、、ん?、、、シャッターの閉じた店の前に、誰か立っている、、。
おそらく歳の頃60くらいのオジサンで、、、ヨレヨレのYシャツ、首にはタオル、、それにくたびれた時代遅れのスラックスに下駄履きで、、、風体がよろしくない、、。
ただシャッターに描いてある絵を見ているのか、、、それとも営業時間を確認しているのか、、?
内心、鬱陶しいなぁと思いながらも構わずシャッターを開け始めると、
、、こっちに向いて話し掛けてきた。
「これ、君の店?」
これが第一声。 今でもはっきり憶えている。
銀縁の分厚い眼鏡に、櫛の入っていない白髪頭。
前髪が汗でオデコにべったりとへばりついて、、、おまけにムチャクチャ酒臭い、、。
喧嘩のせいもあって機嫌の悪かった私は、かなりぞんざいな口調で答えたと思う。
「ああそうだよ。 5月に始めたんだ」
正直、早くお引き取り願いたかったのだが、、。
「ちょっと見せくれないかな。 面白そうだから、、。」
そう言われ 「、、、ちょっと待ってよ。 今、準備するところだから。」
不機嫌にシャッターを上げてドアを開けると、、、いいとも言ってないのに、オジサンも一緒に入ってきてしまった。
やれやれ、、。
半ばやけくそでエアコンのスイッチをつけ、階段の下にある自分の席に座った私は、オジサンを放っておくことにした。
オジサンはしきりにタオルで汗を拭きながら、、、狭い店内で1950年代のミキサーや、タイプライター、ミッキーマウスの目覚まし時計なんかを見ながらウロウロしているかと思えば、、奥の壁一面に私が描いた落書きを見て 「ウンウン」 などと頷いている。
「ゴーッ」
音ばっかりで、、、いつまで経っても、エアコンは効かない。
それもそのはず、エアコンには、私が解体屋から買ってきてぐちゃぐちゃにペイントした 「カローラのフェンダー」 がスッポリ被せてあったから。
「暑いなー、、。 悪いけど、ちょっと缶コーヒー買ってきていいかい?」
言い終わるや否や、そのオジサンは店を出て行った。
そして前のスーパーから戻って来ると、私の分の缶コーヒーを 「ハイ」 っとショーケースの上に置いて、、、自分は、その横にたった一つ置いてある丸椅子に、どっかと腰掛けてしまった!
そして、実に美味しそうにコーヒーを飲みながらもう一度店の中を見回して、、、こう言ったのだ。
「君の店、いい店だねぇ。 とても面白い。 ここにあるもの、全部貰うよ」
(続く)