31年前の匂い | ぱね便り(旧:V町便り)

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スウェーデン暮らし12年目。おかしいな、いつの間にそんな時間が経ったのだ?と、毎年同じことを考えています。

クリスマスから新年にかけてのホリデーシーズンに休みをとる正規スタッフのかわりに、せっせとシフトに入って働いていた2週間前のある晩、ぱねはふと、ぐぐるマップを開いて、ベルリンの地図を眺めた。何がきっかけでそうしたのかは覚えていないのだが


・・それがいけなかった。突如、「ベルリンに行きたい!!」という衝動に襲われてしまったのである。どれくらい激しい衝動だったかというと、すぐさま航空券の値段をチェックするほどの激しさだったのであることよ。


コペンハーゲンからベルリンまでは飛行機で1時間弱。近いので、航空券代もそんなに高くない。往復で1万5千円くらい(それもSASの正規航空券で)とは、東京〜福島間の往復新幹線代よりも安いのだ(こうやって比較してみると、やっぱり新幹線代って高いのね)。これは行くしかないではないか!


というわけで、そのまま勢いで航空券を予約し、ホテルまで予約し、「あと2週間がんばれば、ベルリンに行ける〜!」というのを鼻先につり下げるニンジンがわりにして、年明け1週までのシフトを粛々とこなしたぱね。


昨日、無事ベルリンに到着しました。


考えてみれば、去年は一度もドイツに来なかったのだ。相変わらず(基本的に)ドイツ語で食べている人間としては、もうちょっとドイツ語のメンテナンスに努力しなければならないところであるので、新年をドイツ・ベルリン訪問で始めるのはいいことである、と、思う。:-)


今回予約したホテルは、旧西ベルリン側にあるのだが、これまで私はこの地区にまともに足を踏み入れたことがなかった。空港バスが通る途中にあるので、バスでは何度も通り過ぎていたのだが、降りたことはなかったのである。でも、バスの窓から見える街頭の風景が、いかにもベルリンらしいエキゾチックで雑多な感じなのがとても印象的で、ここで降りてちょっと歩いてみたいな、という気持ちはずっと持っていた。


そんなわけで、空港バスの停留所のすぐ近くのこのホテルは、理想的なロケーションなのであります。


こちら。


http://www.hotel-tiergarten.de/

 

昨日のコペンハーゲンからのフライトは、悪天候のためベルリン到着が予定より遅れたため、ホテルに着いたのはもう夜の10時近くだった。このホテルが入っている建物は、19世紀末に建てられたものらしい。第2次大戦中の空襲でも奇跡的に破壊されずに残り、設備その他は現代的に改装されてるけど、建物の雰囲気はまさに19世紀末。ドイツには比較的多く残っている(と思う)家族経営のホテルである。私はドイツのこういう家族経営のホテルが大好きだ。31年前の初めてのドイツで、ひとりで旅行をしたとき、旅先で泊まったのが、こういう家族経営の小さなホテルであることが多かったからだ。


私の部屋は3階だったので、3階までエレベータであがった。エレベータを出て、部屋のドアの前に立った瞬間、


ものすごく懐かしい匂いがすることに気がついた。


31年前のドイツを思い出す匂い。


31年前のシュツットガルトで、私たち家族が一番最初に親しくなったM夫人のアパートの廊下が、こんな匂いだったのだ。同じ匂いだ。


匂いは、記憶の引き出しを一気に開ける。31年前、ドイツ語はある程度わかったけど、まだまだ使いこなせなかった大学3年生の私が戻ってくる。ドイツは私にとって初めての外国になり、ドイツ語は私にとっての「第1外国語」になった。ケストナーとトゥホルスキーが私のドイツ語の「師匠」だったから、彼らの活躍の場だったベルリンは、私にとって特別な町になった。初めてベルリン(当時の西ベルリン)に来て、ブランデンブルク門の前にあった展望台から、壁の向こう側の東ベルリンを眺めたのは1987年5月。次にベルリンに来たのは1994年5月。壁はもうなくなっていて、私は初めてかつての東ベルリンに入った。それ以降、いったい私は何度ベルリンに来ているだろう。もう覚えてもいないくらいだ。


33年前、大学でドイツ語を勉強し始めなかったら、ドイツ文学を専攻しなかったら、私は今スウェーデンにいなかった。すべてはドイツ語から、私にとっては、ケストナーとトゥホルスキーから始まったのだ。


http://ameblo.jp/paneisverige/archive4-201203.html

http://ameblo.jp/paneisverige/entry-11871734460.html


ドイツ語は、私にとっては、スウェーデン語よりももっと深いところに入っている言葉だ。ドイツに対する思いも、スウェーデンに対する思いとは質が違う。スウェーデンは、私にとって「恋人」。でも、ドイツは「家族」。そう表現するのが一番近いという感じがしている。


31年前の記憶を一気に呼び覚ましてくれたこのホテル。奇遇にも、ホテル開業は、まさにその31年前、1986年のことだったらしい。なんか、運命を感じるなあ。


それに、こんな昔ながらの部屋の鍵、久しぶりに見た気がする。カードキーとは違って、やっぱり雰囲気があるよね。

 


というわけで、ベルリンを満喫しております。食砂漠に戻る前に、食べたいものを全部食べるぞー!