地味な人気者
「スラッシュ(Thrash)」という言葉、聞いたことありますか?
「/(slash) 」のことではありません。
スラッシュとは、ツグミの仲間の総称。
沢山の種類がありますが、主として雀よりも少し大きく、
薄茶の体に濃茶の斑点がある姿が多い野鳥です。
英国では少し郊外に行けば住宅の庭でも良く見られ、
そのシンプルで愛らしい姿から、昔から愛されてきました。
例えば英国のアーツアンドクラフツの父、ウィリアム・モリス。
彼のテキスタイルデザインで、今なお一番人気なのが
「いちご泥棒(Strawberry Thief)」というパターンです。
1883年にデザインされた「いちご泥棒」は、ガーデナー達の悩みから
インスピレーションを得ているといわれています。
モリスはケルムスコット・マナーでいちごを育てようとしましたが、
食いしん坊の鳥たちに食べられてしまいます。
モリスの手記にも記述されていますが、本当は種類の異なる鳥だったのですが、
モリスはそれらの鳥を愛らしいツグミに替えてデザインしました。
それだけ、なじみのある鳥ということなのでしょう。
ガーデンにとって大敵であるカタツムリを食べてくれる習性もあります。
スラッシュはカタツムリを石などの堅い物に打ち付け、殻を割って中身を食べます。
食事の跡には砕かれた殻が残るばかりだとか・・・。
なかなか頭の良い鳥のようです。
ただ、そんなスラッシュ達にも環境の変化による危機は訪れており、
スラッシュの1種、歌ツグミ(Turdus philomelos)は絶滅の危機に。
1988年に「絶滅の危機に瀕する動植物切手 」のモチーフとなっています。
パンカーダには、そんなスラッシュをモチーフにした
ヴィクトリア時代のエナメル絵付けステンドグラス
がございます。
はるか昔から、人間のそばで暮らしてきたスラッシュ。
注文主は、愛らしいその姿を残したくて、こ
んなステンドグラスを作らせたのかもしれません。
耳を澄ませば、澄んだ囀りが聞こえてきそうな、そんなステンドグラスです。
by N