ちょっと疲れてきたのでこのブログの更新をすこしサボろうと思ってたら、「3羽の雀」さんのブログ「3羽の雀の日記」の11月8日のエントリー に、関連エントリが紹介されてしまったので、このトピックについて早く完結させる必要が出てきてしまいました。更にいうと、前回のエントリーで触れた朝木市議万引き事件・転落死事件 まとめWiki が「3羽の雀の日記」のリンクに載ってしまったので、少しずつでも作業を進めないと怒られてしまいそうです。「3羽の雀」さんは、このような手口で色んな人々を動かしているのでしょうか?


 本題に入ります。今回のエントリーの主題は、検察が警察に圧力をかけて転落死事件の捜査をやめさせるということがあり得るのか、ということです。まず、法律論からはじめます。下記は、刑事訴訟法第193条の条文です。


第193条 検察官は、その管轄区域により、司法警察職員に対し、その捜査に関し、必要な一般的指示をすることができる。この場合における指示は、捜査を適正にし、その他公訴の遂行を全うするために必要な事項に関する一般的な準則を定めることによつて行うものとする。

2 検察官は、その管轄区域により、司法警察職員に対し、捜査の協力を求めるため必要な一般的指揮をすることができる。

3 検察官は、自ら犯罪を捜査する場合において必要があるときは、司法警察職員を指揮して捜査の補助をさせることができる。

4 前3項の場合において、司法警察職員は、検察官の指示又は指揮に従わなければならない。


 刑事訴訟法第193条第1項は、「一般的指示権」と呼ばれる権限を規定しています。これは、書類の作成方法や、どのような事件を検察官送致に付すべきかを指示するものです。いわゆる「微罪処分」というのは、第1項の規定に従い、ある条件を満たすような事件については、検察官送致に付さなくてもよいという「準則」が定められていることを根拠として行われるます。朝木明代市議が「微罪処分」の判断基準を知っていたら、でっち上げだなんて言い出さなかったかもしれないですね・・・。もっとも、「微罪処分」の判断基準は未公表です。


 同条第2項は、「一般的指揮権」と呼ばれる権限を規定しています。これは、特定の事件について、もっと詳細に捜査すべきである旨を指揮するとか、複数の警察署が捜査を行うときの方針を定める、といった一般的な指揮をするための根拠となっています。


 同条第3項は、「具体的指揮権」と呼ばれる権限を規定しています。これは、検察官が特定の事件の特定の捜査において警察官に対して具体的な指揮を行う根拠となっています。


 同条第4項は、警察官が、上記の検察官の指示又は指揮に従う義務があることを規定しています。警察官が指示、指揮に従わない場合には、刑事訴訟法第194条の規定により、懲戒・罷免の訴追をすることができます。

 

 検察官が、具体的な事件の捜査において警察を指揮する際の根拠となるのは、刑事訴訟法第193条の第2項と第3項です。しかしながら、第2項、第3項の規定は、あくまで、「公判の提起・遂行を行う」という観点で設けられているものであることに留意すべきです。すなわち、第2項、第3項の規定により、検察は、公判の提起・遂行を行うための捜査を警察に行わせるという権限をもっています。しかし、これらの規定は、警察に捜査をやめさせるという権限にはなりません。法律上、警察が検察と独立して捜査の権限をもっていることは明らかなのです(刑事訴訟法第189条第2項)。


 実際問題としても、検察が警察に圧力をかけて捜査をやめさせるということは困難であると思われます。先のエントリーに述べましたように検察と警察とは独立した機関です。詳細に述べますと、検察庁は法務省の「特別な機関」であるのに対し、(東村山署が属する)警視庁は、東京都公安委員会の管理下にあると共に、(特定の所管事務について)警察庁の指揮監督下におかれます。警察庁は、国家公安委員会の管理下におかれています。法務省のトップは法務大臣であり、国家公安委員会のトップは国家公安委員会委員長(閣僚の一人)です。検察が警察に圧力をかけるというのは、法務大臣を飛び越えて、最高責任者が別の大臣である機関に圧力をかけるということです。そのような事実があったら、これは大変なことで、一大スクープになることは請け合いです。


 さらに言えば、検察庁は、慢性的に人不足であるため、捜査について警察に協力を仰がざるを得ないという実情もあります。例えば、平成20年の検察庁の定員は、検事2,578人(検事1,679人,副検事899人)、検事総長秘書官1人、検察事務官等9,062人の合計11,641人である一方、平成18年における検察の新規受理人員は、206万4,406人、公判請求された人員でも13万8,029人です。単純計算で、一人当たり年間200人近い人員の処遇を決めないといけないわけです。これはなかなかハードワークであるように思います。


 確かに、検察は、法律上は警察に対して優位な立場にあるかもしれません。しかしながら、実際の力関係としては、検察は、警察の協力がなければ充分な捜査ができません。このような実態なのに、警察に圧力をかけて捜査をやめさせることができるのでしょうか?


 さて、次のエントリーで、関連エントリーの最後としたいと思います。